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アメリカに住む光と影。心に浮かぶのはハリス副大統領の演説
アメリカに住むようになって8年が経ちます。
自分の意志でアメリカに来たとはいえ、大人になってから住む国を変えるというのは、まあまあ大変なことです。
主言語が変わるだけで相当な変化です。英会話スクールとはわけが違います。ここで人間関係を築いて、根を張って生きていくわけですから。
でも、それだけではありません。文化が変わる。それまでの当たり前が当たり前でなくなるのです。
つまり、社会の初心者になるわけです。日本で20年かけて大人になり、いっぱしの社会の一員になったはずが、アメリカに渡った途端、また子どもに逆戻りです。周りにとって当たり前のことが、当たり前にできない。
渡米して間もないころ、当然ながらわたしの英語力はいまに比べたら低いものでした。正直にいうと、もう少しできると思っていたんです。学生時代の好きな教科は英語だったし、外国語学習は社会人になってからも一貫して続けていました。英語も、仕事の合間にオンライン英会話をやったり。
でも、アメリカに来た当初は、聞くのも話すのも本当に苦労しました。
中でも難しかったのが、医療関係です。子どもが病気になれば、病院へ連れて行って症状を説明しなければなりません。ドクターの診断を聞き取り、わからないところは質問して疑問を解消します。病名、ウイルスや菌の名前、薬の名前、それまでの英語学習歴で一度も触れたことのない専門用語のオンパレードです。
定期健診はなんとかなりましたが、病気を診てもらうときには、事前に予習していました。わからない専門用語は、紙に書いてくれとドクターに頼んでいたので、かばんの中にはいつも紙とペンを忍ばせていました。どうにも困ったときには、夫と電話でつないで一緒に聞いてもらったこともあります。
子どもが赤ちゃんだった頃は、英語力だけでなく、親としての経験値も低かったので、わたしが大事なことを聞き逃したり、聞き間違えたりすることでなにかあっては大変という意識がありました。
アメリカでは、小児科クリニックへかかると、所属している複数のドクターの中から担当医を選ぶことができます。ドクターの経歴や評判を勘案して決めるのが普通ですが、当時のわたしの基準は、「わたしの英語を忍耐強く、いやな顔をせずちゃんと聞いてくれる人」でした。
でも、担当医は選べても、受付の人は選べません。当時のクリニックの受付の女性は、いつも忙しそうで、いつもイライラしているように見えました。わたしが一度で聞き取れないと、あからさまにハァとため息をついたりするんです。まじか、この人。感じ悪すぎる。
クリニックを変えようかとも思ったのですが、ドクターがいい人だったので、変えたくない気持ちがありました。毎回必ずその人に当たるわけではなく、違う人のときもあって、なんとなくそのままになっていました。
あるとき、夫も一緒にクリニックへ行くことがありました。そのとき、わたしは唖然としました。例の感じの悪い女性です。受付でチェックインするときも、診察が終わったあとに声をかけて帰るときも、夫に対してはいつもと別人のようににこにこして感じがいいのです。
まじか、この人。二重人格すぎる。
こういうことは、アメリカに住んでいると、結構あります。白人男性である夫には丁寧に、アジア人女性であるわたしには雑に接する。人種差別であり、性差別。そんなとらえ方もできます。
でもこんなことは、実はどの社会にだってあります。弱そうな相手には強く出る。むき出しの人間性の露顕です。あるいは、逆の立場になったことがなくて、他人の気持ちが理解できないのかもしれません。
わたしはいま、かつてこんな扱いを受けたといって嘆きたいわけでも、相手の女性の心理を分析したり、批判したいわけでもありません。
このことを思い出したとき、わたしの心に浮かんだ言葉あります。先日、シカゴで行われた民主党大会でのハリス副大統領の演説です。彼女は、演説の中の一節でこんなことを言いました。
"She taught us to never complain about injustice, but to do something about it."
ハリス副大統領が母親から受けた教えについて述べた一言です。文中の”She”はハリス副大統領の母親のこと。彼女は、インドからの移民としてアメリカに渡り、半生をアメリカで過ごしました。当時は、わたしなんかとは比べものにならないような不当な扱いがあっただろうと想像します。
そんな彼女が、生活の中で導き出した一つの答えがこれだったんです。
不平を言わずに、行動を起こせ。
痺れる。痺れます。移民としていまを生きるわたしには、この言葉が力強く胸に響いています。
読んでくださり、ありがとうございます。
《アメリカ生活について書いた記事》
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