アメリカ人の夫に、旅館風の朝ごはんをオモシロ憎たらしくリクエストされた話
朝ごはんを食べているときに、なんでか日本の話になりました。息子が、「日本に行きたいよお」と言い出したのです。
我が家は、アメリカに住んでいます。
この数年は、夏休みの度に日本へ帰省しています。年老いていく両親と会えるときに会いたいという気持ちと、年齢よりずいぶん遅れている子どもたちの日本語教育を少しでも取り返したい気持ちと、単純に故郷に帰って羽を休めたい気持ちと。
そこには、ずいぶん膨れ上がった思いが詰まっています。
日本では、子どもたちと一緒に、とにかくあちこちに出かけます。アメリカではできない、日本にいるからこその体験をたくさんしてほしくて。
子どもたちにとっては、アメリカとは勝手の違う非日常の日々が、もの珍しいようです。そもそも英語が通じないこと、車じゃなくて電車やバスを使うこと、食生活やお金の価値が違うこと。数え上げたらきりがないくらい。
だから、年に一度の日本旅行は、楽しくないはずがありません。そりゃ行きたいよね。ママも、行けるものなら、夏を待たずに行きたい。
息子の日本へ行きたい欲が高まっている横で、夫が携帯で古い写真を探し始めました。
「ねえ、僕らが出会ったのは何年だっけ?」
わたしたちが初めて出会った年を起点に、過去のある旅行にさかのぼろうとしています。
「あ、あった、あった!」
そうして見せられた写真がこれです。
夫が、新潟に旅行したとき、泊まった宿で出てきた朝ごはんです。
夫はアメリカ人です。当時、日本に住んでいて、あちこち国内旅行をしたそうです。その中でも、最も記憶に残っているのが、この新潟旅行だったんだとか。
息子は、この豪勢な朝ごはんの写真を見て、「ワーオ」と息を漏らしながら、目を丸くしました。息子は食に関心が強く、日本料理が大好きなので、これが食べてみたいとか、これはなんだろうなどと、興味津々でその写真に見入っていました。
そんな息子に向かって、夫が言いました。
「いいかい。本来なら、僕たちは毎日こんな朝ごはんを食べているはずなんだよ。ママは日本人だからね」
わたしは、ブッと噴き出しました。夫は、いたずらっぽい表情を漂わせて、にやにやしています。
「でも、ママは日本の朝ごはんがこういうものだってことを僕たちに隠して、手を抜いてるんだよ」
おいおい。そんなわけないやろ。
息子は、またパパがおかしなことを言いだしたと気づいて、笑って聞いています。
そのとき、娘が遅れて食卓につきました。みんなの話題になっている写真を覗きこみ、じっと観察してから、冷静に口を開きました。
「わたしは、これとこれとこれは食べたくない」
写真の中の何皿かを指をさしています。要するに、野菜を食べるのはイヤだと言っています。
すると、夫が例の調子で言葉を継ぎました。
「いやいや、いいんだよ。食べたいものだけちょこちょこってつまめば。これはどちらかというと、ママが日本人としてやりたいことだから。ね?」
そういって、わたしにとびきりの笑顔を投げかけてきます。それからまた子どもたちに向き直りました。
「僕らはその後、ベーグルでも食べにいけばいいから」
笑いがこみ上げると同時に、わたしの頭の中では、その情景が絵として浮かんでいました。
夜が明ける前から起きだして、日本の旅館ばりの豪華朝ごはんをせっせと作るわたし。数時間かけてやっとこさ作り上げた数々の品なのに、ほぼ手をつけらない。料理番組で、ジャッジが一口ずつ味見するみたいに、ちょこっと食べては残す。そして、悪びれた風もなく、箸をおいて、ベーグルを食べに出かける家族を、茫然と見送るわたしの図。
もちろん冗談です。冗談だけどさ。
よくそんなオモシロ憎たらしいことを、すらすらと思いつくよね。
(おわり)
読んでくださってありがとうございます。
実は、旅館風の朝ごはんを家で再現してほしいというのは前から言われています。でも手間かかるしなあ…。重い腰を上げられずに今日にいたります。作って本当に食べてくれなかったら、悲しすぎる。
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