キレイとキタナイの基準をめぐる我が家の論争
我が家では、夕飯のあと、食器を洗うのは夫の役割である。
洗うといっても、水を流しつつ、ブラシでさっと汚れを落として、食洗機に入れていく作業である。
わたしの仕事は、鍋に余っているご飯やおかずをタッパーに移し替えて冷蔵庫にしまったり、夫が、食洗機に入れず、洗剤で洗って水切りエリアにあげた器や鍋を拭いて片づけることである。
もはや暗黙の役割分担となったこの流れで、いつものように、さくさくと後片付けをこなしていった。
キッチンが片付いて、わたしは、お茶でも淹れようかと思って、ごそごそしていた。すると、その間に夫が、わたしが食器を拭いていたタオルでテーブルを拭き始めた。
わたしは、それに気づいてあっと思った。そして、夫を呼び止めた。
「ねえ、食器拭き用のタオルでテーブルを拭くのはやめて」
夫は、それを聞いても表情を変えずに、ただわたしをじっと見つめていた。なにが言いたいかは聞かなくてもわかる。なんで?ってことだ。
実は、このやりとりは初めてではない。もう何度もしている。
わたしは、わたしの考える基準をもう一度はっきりさせておこうと思って、ゆっくりと説明した。
「わたしは、キッチンで使うタオルは、3種類必要だと思ってる。一つめは手拭き用、二つめは食器拭き用、三つめはテーブル拭き用。これは混ぜないで使いたい」
手拭きタオルは、大きめのタオルなので、さすがにこれでテーブルを拭くことはない。
でも、食器拭き用とテーブル拭き用は、10枚ほどまとめ買いをした小さめのタオルを使っている。何色かあったので、当初は水色はテーブル拭き用、それ以外は食器拭き用、と色で用途を分けて使っていた。
ところが、水色のタオルがすべてキッチン以外の用途にもっていかれてしまい、キッチンからなくなってしまった。ほかの色も、いつのまにか枚数が減ってしまい、用途別に色で分けるのが難しくなった。
それからというもの、わたし自身も、そのときに引き出しに入っているものを順番に取り出して、これは何用、と決めて使っている。
わたしが運用しているこの不規則なルールを、当然ながら夫はよく理解していない。さらに、その必要性もあまり感じていない。だから、ときどき今日のようなぴりっとした会話になる。
辛うじて、小さなタオルは用途別に干す場所を変えている。シンクのこっち側とあっち側に。わたしは、テーブル拭き用のあっち側を指さして、
「テーブルはあれで拭いてね」
と言った。あれ、と指さしたタオルは、フックから外れてカウンターに落ちてくしゃっとなっていた。夫はそれを見てこう言った。
「ちゃんと洗って乾かしていないタオルは、ばい菌がいっぱいついていてキタナイよ。そんなタオルでテーブルを拭いたら、テーブルにばい菌がいっぱいつくだろ」
夫は、ばい菌にうるさい。
でも、言いたいことはわかる。濡れたままのタオルには、ばい菌が増殖しやすい。いつもはちゃんと干して乾かしているけれど、このときはたまたま落ちたんだと思う。それに、これらのタオルは定期的に洗濯機で洗っている。
わたしにとっては、お皿とテーブルを同じタオルで拭くのはキタナイと感じる。だって、お皿は直接口に触れてもいいものだけど、テーブルは、食べものを直接置いて食べるほどにはキレイなものではない。
この、キレイ/キタナイの度合いに合わせて、タオルも分けるべきではないかい?
夫は、わたしの説明というか説得を受けて、しぶしぶ了承したようだった。使うたびに洗って干して、ちゃんと定期的に洗濯機で洗うなら、という感じだった。あくまでも、夫はばい菌が気になるらしい。
そういえば、実家の母は、台所のふきんを洗濯機で洗うのはキタナイと言っていた。下着や靴下なんかも洗うのに、それと同じ機械でふきんを洗うなんて、と。でも、たぶん、実家のふきんにはめちゃくちゃばい菌がついていると思う。
キレイとキタナイの基準は、人によって違う。
(おわり)
読んでくださり、ありがとうございます。
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