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アメリカで嵐山を見つけました
風邪をひいたらしい。
昨日の夜から、鼻の奥がツンとして、喉も痛い。
昼間はなんとか持ち堪えて、明日からの1週間に備えて食料を買いこんだり、子どもたちと一緒に遊んだりしていた。でも、夜になったらもうだめだ。頭がぼうっとして働かない。一秒でも早くベッドに滑り込みたい気分なのに。
なのにまだ何も書いていない、とガックリと絶望した。夜8時。これは深刻。もう寝ちゃいなよ、と天使なのか悪魔なのかわからない夫の囁きに、ぶんぶんと頭を振り、いや書かないと寝られない、ときっぱり答える。でも書くことが全然思いつかない。
最後の望みをかけて、寝る支度をしている息子(7歳)に相談した。
「僕が作ったデッドプールのお面の話は?」
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(出典:https://www.disneyplus.com/movies/deadpool/3Kh13Lrb0Pnv)
真面目に考えてくれる息子の優しさが、心に沁みる。息子は今日も職人業(工作)に精を出していた。君の話はいつでも面白い。
でも、今日はデッドプールのお面の話を書くのはちょっとしんどいかも。ほかにある?
「今日の夕方にバンブーシティに行ったことは?」
あ、それいいね。採用。それでいこう。
◇
最近、息子と夫だけで自転車に乗って何やら竹林に出かけている。
夫が散歩の途中に見つけた竹林である。夫と息子のお気に入りの場所になり、「バンブーシティ(bamboo city)」という名前まで付けたらしい。昨日も、私と娘がお友達の誕生日会に出かけている間に、また自転車を飛ばして行ってきたとか。
この辺りでは竹は珍しい。古来の植物ではないし、一度植えると後戻りできないほどに繁殖し、景観を変えてしまうので、住民たちも軽率に植えないよう警戒している感がある。
どういう経緯でそこに竹が繁殖したのかは知る由もない。でも、わたしにとっては、故郷を思わせる懐かしい風景である。時間を持て余していた日曜の午後、まだ行ったことのないわたしと娘も含めて、みんなで行ってみようということになった。
我が家からは、片道1キロくらいだろうか。家族4人でそれぞれ自転車を走らせ向かう。少しアップダウンがある道のりは、まだ補助輪をゴロゴロいわせている5歳の娘には、ちょっとチャレンジングである。
わたしと息子、夫と娘の2チームに別れ、それぞれのペースで漕ぎすすめていく。わたしと息子は、所々で止まっては、娘たちが追いつくのを待った。
そうしてやっとたどり着いたバンブーシティ。本当にこの一角だけがぎっしりと竹に覆われていた。
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重なり合った竹のアーチの下には、小径ができていて、数歩踏み込んだだけで、あたりは一気にアジアの様相である。それに、先客がいて、姿はよく見えなかったが中国語が聞こえてくる。ああ、アジアや。心が和む。
子どもたちが、竹林の小径をさっと走り抜けていった。その姿を目で追っていたら、背後にいた夫が、我が家の庭にも竹を植えたいと言い出した。わたしは、きっぱり、はっきり「ノー」と言った。
「竹ってあっという間に増えて、後で取り除くことができなくなるのよ?庭が竹だらけになっちゃうよ?」
「竹林になったらいいじゃん。」
たぶん、夫の頭の中には、京都の嵐山みたいな風景が浮かんでいるんだと思う。
いや、違うから。あんなきれいに手入れできないよ。山がまるまる竹に覆われるような竹藪のことを言っているのよ、こっちは。
「竹害」という言葉もあるくらいだ。竹を甘く見てはいけない。わたしの祖父母の家の前には竹藪があって、もはや後戻りのできない竹山となった姿が写真のように脳裏をよぎった。
それにしても。わたしの言葉とは裏腹に、竹に囲まれるだけで日本に帰ってきたような心地よいこの感覚はなんだ。体に染みついている風景というのは、どんなに空白の期間があっても、きっかけさえあれば必ず蘇ってきて、心をじわりと癒してくれる。でも、我が家が竹藪になるのは勘弁。
わたしは、この竹林を、バンブーシティではなく、嵐山と呼ぶことにした。
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