【BCG/McK/RB】役所の委託調査報告書で読む戦略ファームのお仕事(1)
はじめに
一昨日、戦略ファームの役所向けスライドのテイストについてツイートしたら局地的に反応を得たので、ニッコリしながら書きました。最近の戦略各社の役所向け委託調査報告書を眺めながら、どういうフレームワークを使っているのか等を見ていきたいと思います。結構示唆深かった(&工数がかかる)ので、3回くらいに分けて書きます。
そもそも何故成果物が公表されているのか
何かの通達でそう決まっているからです。少なくとも委託先と内容は全案件公表されており、確か原則的に成果物もアップする決まりのはずです。
例えばMETIの一覧はコチラです。各省庁で公表ページやフォーマットがてんでバラバラなのですが、頑張れば全省庁分閲覧可能です。探し方にコツがあるので、他省庁のも見たいという奇特な方は別途ご相談ください。
1. メガトレンド分析/シナリオプランニング(BCG)
BCGが経産省のサービス産業課(?)向けに実施した調査です(全体版はコチラ)。自治体が今後中長期で直面する課題を洗い出し、それを解決するためのビジネスの在り方について調査を行ったものです。METIが自治体の話に首を突っ込むのは如何なものかという非常にまっとうなご意見はあるかと思いますが、本稿はそれを議論するためのものではありませんので、私やMETIを棍棒で殴りつけるのはどうかお控えください。どうか…
本報告書では、メガトレンド分析/シナリオプランニングという手法を用いています。要は、今後世の中がどうなるのかをシナリオで洗い出し、対象(この場合は自治体/地域社会)へのインパクトと課題を評価し、それに伴う打ち手を構築するものです。
この手法は、企業が長期戦略を立てる際にもよく使われています。上記報告書ではあまりフィーチャーされていませんが、長期トレンドを3つくらいのシナリオに分けて想定し、クライアントへのインパクトを算出し、各シナリオに応じた打ち手の方向性を示すことが一般的だと思います。
本筋には関係ないですが、ハービーボールも久しぶりに見ました。ある基準に沿って、規模や課題の深刻さを半円の形で示すものです。(4分割するのが一般的かも)
しっかりと基準を決めないと、単なる作成者のお気持ち表明になってしまうことが難点ですが、視覚的にインパクトを示す便利なツールです。
2. 施策効果の定量的試算(McK)
こちらは、中小企業庁向けにMcKが実施した調査です。中小企業へのAI活用の可能性とその経済効果を試算したものですね。(全体版はコチラ)
インパクトの推計方法ですが、超大雑把には以下の通りと理解しました。(間違ってたらすみません)
・Step1. 企業ヒアリングで課題を洗い出す
・Step2. 各課題について、AI導入による生産性向上の度合(費目に対する差分(%))を置く
・Step3. 導入意向(%)の掛け目を置く
・Step4. 上記の値を、主要4産業(製造/建設等)全体における、該当する費目の金額に掛ける(ベースの金額は、中小企業実態基本調査のPLを使っている模様)
・Step5. 主要4産業以外は、4産業とそれ以外の付加価値額の比率で掛け戻す
上記の通り、特に複雑な計算を行っているわけではなく、四則演算の世界で完結していますね。要は、ヒアリングと実際のデータに基づいて丁寧にフェルミ推定を行っているということです。戦略ファームが行う試算というと非常に高度なことをやっているイメージがあるかもですが、多くの場合は上記のような四則演算の世界で閉じることが多い印象です。複雑にしすぎるとPJ終了後のクライアント側での再現性が無いですし、後々施策の効果を検証する際に、どのドライバーがずれていたのかが分からなくなります。外コン志望者におかれては、フェルミ推定の重要性をご認識いただく機会になれば幸いです。
もちろん、例えば1000拠点ある配送ルートの最適化みたいに、専用のエンジンを用いて複雑な処理を行うプロジェクトもあります。戦略各社ともにデジタルチームを拡大中(※コロナ前の情報)ですので、腕に覚えのある方は応募してみてはどうでしょうか。
3. 価値の言語化 (ローランド・ベルガー)
ベルガー!ベルガーじゃないか!(歓喜) 最近ツイッターがバズリまくっていることでおなじみローランド・ベルガーですが、製造業に激つよで有名な欧州系ファームです。ラテラルでMBBに移ってきた人しか直接存じ上げませんが、マジで例外なくめちゃくちゃ優秀です(ハードワーク系の人が多い気がしますが、そこは個性ということで)。卒業生はPEにもけっこうな数生息しています。少数精鋭の良いファームですね。
報告書の全体版はコチラです。なお、スライドはクライアント(METI)フォーマットなので、普段のRBのテイストとは全然違いますね。
本件の直接のクライアントは、経産省の素形材産業室というところです。世の中的にはマイナーですが、我が国製造業に欠かせないコア部材の振興等を取り扱っています。産業全体のSCMと中小企業振興を担う素敵な部署です。中堅企業とのお付き合いが多い部署ですので、Notoriousな感じではなく実直な方が行く印象です。余談ですが、報告書の右肩に機密性表示(普通1~4でランク付けする)が白丸のまま残っており、非常に素形材室らしいなとニッコリしました(冗談です。あと別に違法でもなんでもないです)
本件のテーマは、素形材産業の価値を再定義するという壮大なものです。仕様書通りに作る/低収益という従来のモデルから脱却し、価値ベースでの提案型の産業への転換を支援するべく企画されたようです。
このプロジェクトでは、十数社の素形材企業への訪問/ヒアリングを通じて、それらの会社が生み出す価値を言語化しています。ベルガーがよくやるゴッチゴチの製造業系プロジェクトとは毛色が異なりますね。(ベルガー以外にも、非コンサル2社が参画しているようです) 雰囲気としては、アジャイルPJの最初でよくやるコンセプトづくりに似ています。こういう定性的なPJは、クライアントのキーパーソンとの肌感が合わないとマジで炎上するので、よく受けた(そしてやりきった)なあと尊敬しています。一方で、普段使わない右脳的な部分をフルに稼働させるので、ハマればめちゃくちゃ楽しいプロジェクトだと思います。
で、単にコンセプトを作るだけならコンサルでなくてもよい(多分電博のほうが良い仕事する)のですが、戦略ファームの付加価値はそれ以降に現れます。価値の源泉と成功要因をヒアリングを通じて具体でつかみ、そこから抽象化して打ち手まで繋げていますね。(このプロジェクト超楽しそう…)
ただの感想なのですが、ベルガー良い仕事したな(そして役所の仕事って面白いな)と改めて実感した次第です。
ちなみに余談ですが、ベルガーの本領とも言える自動車産業の報告書も見つけたので共有します(コチラ)。中身ちゃんと読めてないのですが、超マイナーなコンサルあるあるとして、「Wordベースの報告書まとめきってえらい」と思いました。これ、あると思います。普通はパワポのチャプターやページ単位でマネージャーがアソに切り出して工程管理するのですが、Wordベースだと分量でページがずれるため、それが死ぬほどめんどくさくなります。一旦スライドで管理してWordに戻したのだろうか… この報告書まとめたマネージャーを労ってあげたいです。どこかでお会いしたら一杯おごります。
おわりに
これを書く過程でADLやアクセンチュア、先進気鋭のクニエなんかの素晴らしい報告書を見つけたので、いつになるかわかりませんが次回ご紹介させていただきたいと思います。
(Disclaimer)私は役人としてもコンサルタントとしても1.8流を自認しておりますゆえ、中身に関する議論はお受けできない気がします。(そもそも全ページ目を通していないです) 大変恐縮ですが、ご理解頂ければ幸いです。
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