不良女子、先生、登山【短編】

なんか書きたくなったので。気の赴くままに


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現在俺は……教え子とにらみ合っていた。

教え子と真正面から睨み合うような形なのは指導室だから仕方が無いとして、いい加減この殺風景な教室を変えたいものだなぁと…

(…今度校長室でやるか)

なんて雑念を他所に

このわたくしは髪とはもうおさらばしたが、神はまだ俺を見捨てはしなかったようで、教え子の始末書という紙を召還して頂けたようだ。

素晴らしいと大仰に祈りたい。

無残に朽ちますように。そんな思いを届けたい……。

「取りあえずな。そろそろ不良はやめたらどうだ。いっそ卒業しようぜ。真面目になろうぜ! そうすると楽になるぞ! 俺が」

力強くバンッと机を叩いて眼を輝かせながら伝える。
そう現代に置いて大事なのはピュアリズム(純粋なステップ)
真意は簡易に伝えないと誰も分からないのだ。

「いや、そもそも不良って止めたり始めたり出来るもんなの。つか建前ぐらい綺麗に付けろよ。昨今小学生だってやってんぞ」

中指と親指を立て合いニッコリ笑って見せるが、俺の生徒を思う心はやはり思春期のクソガk……可愛い生徒は気づいてくれないようだな。

「いや、生徒を思う慈悲深さよりも際立つ手前の腐った心を気づいちまったら、そら誰も更正するわけもなくね?」

それはそうだ。「いい子になりなさい」なんていう親ほど自分の都合でしか話してくれないのだ。子供からすれば自分が得をするように動きたいのだから、本来いい子になって欲しいならば、そうなる事で自分が得をすると「考えつかなければならない」

飴と鞭では良い子には育たない。やらないから奪うのではない。
行動の先の結果を想像し、過程に落とし込む作業は常に本人にやらせるのだ。

本人が考え付いて差し出すようにするように教育する事が重要なのだ。
それが本人の損得勘定や、論理的思考を伸ばすとわたくしの辞書にも書いてある。

「知るかよ。でもさ、考えてみろよ!」

瞬間の間から爆発の号。
姿勢を正し急に真面目な顔をした俺に面を食らったのか若干たじろぎながら

「え、なに」

と聞いてしまったからには既にこちらの土俵だ。
アマガキが、コミュニケーションの基本はトークテンポの掌握だ。
そして重要なのが、素っ頓狂こそ最強の把握術!!

「生まれるじゃん?」

「は? え、うん」

「クソ親! 死(自主規制)!って泣き叫んだのか?」

「え、コワ。なに其の生き物」

そうだろそうだろ。と頷きながら言葉を紡いでいく。丁寧に、そして綺麗に教えてあげるというのは大人の嗜みというものだ。

「つまり、生まれて数年? まぁ数十年でもいいけど」

「良くはないよね。開きがヤバ目だよね。亀の時間感覚かよ」

一々先生につかかってくる生徒だ。人生の2分も50年も【生きている】事には変わりないのだから、違いなんて微微たるものだろうに。これだから今のクソガキもとい可愛い生徒は可愛げが無いのだ。

お前らの加点ポイントなんてJKというカテゴリーでしかないと何度言えばいいのだろうか。
これはため息をつかざる負えない。生きるために加点ポイントなぞ必要ないというにも関わらず私自身がそんなありもしないポイントを数えている辺り【大人】になってしまったのだろうと辟易する。
トリップするのは良いがそろそろ、このくそ可愛よく可愛くないガキの相手に戻るとするか。

「とにかく、どっかで変化があったわけじゃん。ならもう一度変われるじゃん?しらんけど」

「聞けよ。いやしらんけどはコッチのセリフなんだし、進化は常に進歩と言わないようなもんだろ。望んでいるものばかりではないじゃん。」

「それが卒業だと思うんだよね。ボクはさ。……それが…成長って思うんだよね。」

人間ただ学業を卒業するだけが卒業とは呼ばないのだ。
これまで習慣としてきたものを断つこともまた卒業と呼ぶのだろう。
何度卒業できるのか、これが変化のない人生に置いて変化を唯一もたらせてくれるアクセントなのかもしれない。
卒業できない人間などいない。それは生命が生まれて朽ちる瞬間があるからだ。

そんな話しはどうでもいい。

「……で、じゃあ具体的にどうするんだよ先生」

「万人に対する愛と、変化を恐れない勇気だ!……というと思ったかね。

そもそも? 偏愛だの蛮勇だのを持つ前に、周りを人という盾で囲んでだなぁ。いざという時、上手く仕事を回しまわし、楽をするのが出世道さ。

むしろ、小中学校の義務教育から高校大学の教育は、その出世を円滑にするためにやるのであってだな。変な友情ゴッコなどいらんとは思わんかね。ワトソン君」

「お前がホームズなら日本で知られるほど売れてないだろうがね。いやいや、それを教職者がいうセリフではないと思うのだけれど。いやというか別に出世だけが人生じゃなくね? 金を持っているからといって幸せであるというのはイコールで繋がれないと同義で別段仕事や責任を押し付け合うような関係を築くより、そういう事態が起こらないような体制を築くほうが先決のような気もするんだけど」

「わかっているじゃないか。大人が言うことが全てではないが、これが大人の全てだ。言いかい君は君の信じる道を行けばいい。私の様に山に登れ!そうすればこの人生の道決め方も自ずと分かってくるだろう。どうだね。一緒に登らないかね。」

「山上りとかしんどくてやってられないわ。良くやってられるよね。楽しいの?」

「真に遺憾だが、経験がある訳が無い。そしてこれからも無いだろう」

「え、じゃあ登山の話しはなんなんだよ」

「全く、これだから若い者は早とちりして敵わん。いいかね、私は人生という山を登っているのだ」

ガシ!

次の瞬間女学生にがっと両手をつかまれる。
ドキという音とともに不整脈を疑うが次の一言には本当の意味で衝撃が走る。

「いくぞ」

「へ?」

間抜けな応対と共に三文字の言葉に脳がフル回転する。「いくぞ」にいかなる意味があるのだろうか。
果たして日本語なのだろうかと逡巡する間もない。
足を机に投げだしながら不貞腐れるが決して頭ごなしに否定はしていけない。
こういう時は優しく足を持って横に振り払うのだ。

「ありえない!なぜ?私が行かねば!ならないのだ!」

「うっせぇ!そんなに言うなら更生とやらに最後まで手を貸しやがれ!今週だ!絶対に!」

頭を抱える私に優しくぽんっと手を置いてくれる愛しの生徒はにっこりというのだ。

「教育って大変ですね?」

「朝起きてシャワーをするのが流行っているが寧ろ、夜に入った方が睡眠の質は安定するし、頭皮や肌に大きなダメージを与えてしまう。短い時間で血圧が上がったり下がったりしてしまう可能性も高いから危険がいっぱいです!!それをヒートショックと申します!不束者です。」

……。

……。

朝か。

そう思いながら、俺はかばんに道具を詰め込む。

持ってきた道具は、タバコと朝○ビールと、車のキーと手相占いの本だ。占いは信じるほうではないが、取りあえずカラーだけは整えている。面倒なので、カラーテープを全種類コンプリートしているから安心だ。

アイテムのほうは一日限りかつ、予想できないので、買うしかない。

今週はこれらだけでも10万くらい使い込んでいるが、正直占いは信じるほうではない。念のためというやつだ。

なんとも充実した一日に幸福感を覚えながらさぁ今日はこれからだ。
未知なる体験を求めて、いくのだ。


後日、猛吹雪に見舞われながらも頂上まで上った二人が全国放送されたという話しがある。

途中様々な苦難を乗り越え、団結し、涙あり、笑いありの物語を紡いだそうだが。それは別の話しだ。

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