裏錆びた寂寥に包まれる、新古典的ラーメン。
「あけぼのラーメン」2021年4月24日(土)
忙殺の日々の頂点を下る。
その時、心に再び余白が生まれた。
気がつけば、北の街角はいつになく桜が早咲いていた。
聞き慣れないSDG’sというキーワード。
それも当然のように世間に跋扈するようになったが、それを裏付ける気候変動の予兆は4月らしからぬ陽気をもたらしていた。
昨年の今頃、ロードバイク転倒による肋骨骨折という“セルフ・ロックダウン”がまざまざと蘇るも、その陽気は久しぶりにロードバイクを誘った。
”もうあのような経験だけはごめんだ。”
そう言い聞かせながら、人出の多い豊平川河川敷を真駒内公園に向かって、疾駆する。
恐る恐るのどかに、そして慎重に…
急激な空腹感が漕ぎ進むペダルを重くした。
空腹を満たすべく、真駒内公園への道程から外れて来慣れぬ道で店を探した。
瀟洒な戸建住宅とは相反する、うら寂しいシャッターの連鎖。
コロナ禍と高齢化という複合的問題がこのエリアにも密やかに襲いかかっているようだった。
その中で、黄色い看板が目を奪われた。
開け放たれた扉の中を窺うと、空席があることを確認すると、カウンター席とテーブル席に分かれていて、いかにも昭和然とした郷愁を宿していた。
カウンター席の角に座ると、老婆がおぼつかない足取りで水を運んできた。
カウンターの上部を見上げメニューを確認すると、都心部ではあり得ない料金と一風変わったメニューに瞠目した。
「カツラーメン」の醤油味に惹きつけられるままに注文した。
すると、14時近いというのに次々と客が現れ、気がつけばほぼ満席の状態になった。
忽然と「カツラーメン」が訪れた。
黄金色のカツと漆黒のスープのコントラスト。
その容姿はラーメンとは言いがたい。
カツの間から麺を持ち上げようとすると、もやしの束がカツの下に寝そべっていた。
濃厚そうでありながら、それを裏切る質素なスープは意外なほどにカツとの相性が絶妙で、薄い肉ながら揚げたてのカツともやしの歯切れ感は、耳元で爽快な音を立てて麺を誘う。
薄らとニンニクの効いたスープに絡んだ麺が速やかに入り込んでくる。
カツとラーメンの類い稀なる合一。
この独自の創造は、申し分のない満足をもたらした。
ヘルメットを被り、あらためてペダルを踏んだ。
春風はややもすると肌寒いが、「カツラーメン」の温もりが身を守るように車輪を進めた…
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