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トンカツとせり、玉子とじが踊る、創意工夫の妙。

「和食家 駿」2021年1月19日(火)

雪が意思を剥奪する。
しかも、それは激しく鋭い。
地下街を歩いていても、手足の先から震え上がるほどの寒さが突き上げてきた。
それに反して、食欲は止めどもなく歩を進ませた。
暴風雪と食欲の葛藤の末に、ある格言を思い出した。
“危険を冒せ。人生はすべてチャンスだ”
アメリカの作家デール・カーネギーが背中を押した。

最近、札幌駅北口エリアに惹きつけられる自分に気づいた。
北海道大学の拠点であり、学生や会社員も多いことから、
知られざる店との出会いが想像を膨らませるばかりだった。
如何せん暴風雪は、歩みどころか視界さえ阻んだ。
白くかすみゆく視界の中で、音を立てて旗めく赤いのぼりの文字は、あまりの風の強さ読むことができない。
店頭の看板に書かれた日替わりメニューの手書き文字を頼りに階段を上がっていった。
カウンターと中央に大きなテーブル、そして窓辺の座敷席。
外からは想像がつかないほど広さで、優しく包むような照明が落ち着きを宿していた。

おそらく北大の留学生らしき欧米人の男女が早口の英語で会話していた。
聞き取れる限りにおける概略からして、どうやら日本文化について語り合っているらしい。
日替わりのランチメニューは2択なのだが、そのメニューは迷いを催すほど魅惑的に感じた。
「トンカツとせりの玉子とじ」
心の中で頷きながら注文した。
留学生らしき欧米人が店を去っていった。
すると、躍動しながらも物静かなスイングジャズの音色が、店内を穏やかに調和していた。
店内の随所には馬の模型が置かれている。
店名の駿、それは“優れた馬”を意味する。
オーナーはどうやら相当な競馬好き、あるいは馬自体が好きなことが推察された。
次々と来店する客が扉を開ける度に、強烈な寒さが店内に侵入してきた。
その客は一様に「トンカツとせりの玉子とじ」を注文した。
自らの選択が正しいというエビデンスでも取れたかのように、どこか安堵を覚えた。
大きなトレーに載ってそれは現れた。
メインの大きな皿以外にも、小鉢が充実するランチは紛れもなく心を裕福にする。
トンカツを抱く玉子とじの絶妙の味付け、そして脇役のせりの独特の苦味。
それはひとえに丁寧に仕上げられた逸品であり、脇役の小鉢も出しゃばることなくトンカツを引き立たせた。
“危険を冒せ。人生はすべてチャンスだ”
この格言によって、暴風雪の中で挑み、この店に辿り着くことを身に染みて感じた。
行動しなければ、何も生まれはせず、何ものにも出会えはしない。
至福の昼を終えた。外は相変わらず暴風雪だった。
再び危険を冒し、新しい何ものかに出会おうと決意した…


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