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ナポカツスペシャルの舌を巻く破壊力。

「めりめろ」

2021年8月21日(土)

最後の力を振り絞るような午後の日差し。

力強いのに、どこか儚く物憂げな光。
時折吹きつける強い風に身を預けた。
それは、どこへでも導いてくれる。
意を介するわけもなく、ただ気まぐれに。

見る見る都心を擦り抜けて導いてゆく。
それは、不意に訪れた緑の園だ。
外からは中を伺うことはできない。
手がかりは、壁一面の大きな看板だった。
さあ、メルヘンチックな迷宮へ…

ハードボイルドなマスターでも出迎えるのかと思いきや、
2人の女性スタッフがカウンターに立っていた。
外観の印象とは違った、どこか古き良いアメリカの薫りが立ち込める。
初めて来たというのに久しい思いを抱いたのは、
1980年代を知る世代の恩恵なのかもしれない。
メニューには、喫茶店とは思えないどこか不思議な魅力をはらんだものばかりで、
目移りしているうちに何も決められない迷宮に陥りそうだった。
食べたいものがあるならば、また風に乗って来ればいい。
選んだものは、壁一面の大きな看板にあった「ナポカツスペシャル」だった。
それを女性スタッフに伝えると「SP」と言い放って、もう1名の女性スタッフに伝えた。

数年前に食べた釧路名物の「スパカツ」を思い起こした。
メニューには「スパカツ」も並んでいたけれど、「ナポカツスペシャル」に賭けをしてみた。
テーブルの片隅に無造作に置かれた灰皿。
『めりめろ』という明朝体の書体で店名が刻まれていた。
ハードボイルドな名残りに浸っていると、それを打ち消すスコールが近づいてきた。
鉄板で焼かれた轟音の中で、スパゲティーととんかつが土砂降りの歓迎をしていた。
次第に穏やかになる鉄板の上で、スパゲティーにフォークを巻きつける。
なんだろう、この不思議な昭和回帰。
あまりの熱さに、思わず口を空けて冷ます仕草をした。
少し噛んでは熱を確かめ、また空気を入れて冷ます作業を繰り返した。
太く柔らかいスパゲティーの懐かしさに、タバスコをふりかけよう。
あまり見たこともない大きなボトルを持ち上げて、
スパゲティー全体に、さらにとんかつにも勢いに任せた。
チーズも加勢して、粉雪のように降りかかるも見る見る溶けていった。
初めて食べるというのに、素朴で懐かしいとんかつとスパゲティーとの協奏。
1980年代に戻ればいつまでも食べられそうなのに、きっと食べられそうにない。
フォークを絡めるごとに、時も絡まる不可思議な時が流れた。
めくるめくメルヘンチックでハードボイルドな迷宮に、いつかまた風に流されて訪れよう…

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