【人生最期の食事を求めて】疾風怒涛のアジア的カオス。
2023年3月13日(月)
「たこ焼き十八番道頓堀店」(大阪市中央区)
すでに夜の深い帳が下りていた。
道頓堀は洋の東西を問わず、人種の混沌と入り乱れていた。
川から吹きつける風は北海道さながらで、
その刺すような冷酷さに皆一様に震えていた。
すでに20時に近づいていた。
道頓堀に飛び交う言語の混淆はまるで東南アジアの空気を放ち、
埋め尽くす人種のの波濤は前進を阻んだ。
その中で埋もれてゆく空腹は、もちろん満たされぬままに牛歩のごとく進むほかなかった。
すると、目前に整然と並ぶ行列と見物客がたむろしていた。
皆は寒さの中で耐え忍びながら、そのパフォーマンスに見入っては行列の最後尾に追随していた。
この空腹を手っ取り早く満たすもの。
ここは大阪。
それはたこ焼きしかない。
ヨーロッパ系や東南アジア系の言語が飛び交い入り交じる行列に連なる。
店舗の若いスタッフたちの連携プレイによって、大量のたこ焼きを一気呵成に作り上がる光景はパフォーマンスと化していて、地面から這い上がる寒さも何気なく忘れさせるほどのレベルに感じられた。
振り返ると、本場のたこ焼きを現地で食べるのは何年ぶりであろう?
今は全国各地でたこ焼きを食べる文化こそ存在するが、大阪中心部の雑踏の中で味わうたこ焼きこそ、本場の存在証明ではなかろうか?
気がつけば列の先頭に辿り着き、たこ焼きのバリエーションを楽しむべく、券売機でソースマヨネーズ&塩のハーフ&ハーフ10個(800円)とともに、意図して生ビール(500円)を選んだ。
食券を女性スタッフに渡すとすぐさまそれらが手渡される仕組みである。
鰹節、濃厚なソース、マヨネーズ、そして刻み海苔の載ったたこ焼きは、やや大きめなものの、その身なりは至ってスタンダードとしか言いようがない。
券売機の横にあるイートインスペースに向かうと、すでに数人の客が寒さに凍えながらたこ焼きに息を吹きかけていた。
その奥にある立ち飲み屋風のカウンターを陣取り、すぐさまたこ焼きを頬張った。
しっかりと焼かれた歯応えのある表面を突き破ると、夥しい熱量を抱いたたこが、まるで空を浮遊する風船のように口内を天翔る。
だが、その熱さは尋常ではなく、すかさすビールで鎮圧にかかった。
次第に熱さに慣れ、矢継ぎ早にたこ焼きを頬張る。
外と内のアンビバレントな食感の対称性は、まさしく本場の威信を事もなげに誇示していて、ビールがその熱情を冷ましているかのようだ。
店先の行列はまだまだ途切れないようだ。
それに加勢するように、新たな客が次々と追随する。
殷賑を極めるこの街の狂おしいまでの喧騒の只中で、本場の味を堪能できることほど稀少なことはない。
ただ、それは小腹を満たす前哨戦のようなもので、大阪の魅力の一端を触れたに過ぎないのだ。
歩き慣れぬ道の四方を見渡し、当て所もなく夜の冷気を切るように彷徨いほかなかった…