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【孤読、すなわち孤高の読書】岡本太郎「自分の中に毒を持て」

既成概念を打ち破り、勇気を呼び覚ます熱き芸術家の魂。

[読後の印象]
“失われた30年”と呼ばれ、その停滞があたかも当然の状態にあるかのような日本。
だからこそ我々、とりわけ10〜20代にぜひ読んでほしい書籍が、岡本太郎の「自分の中に毒を持て」である。

岡本太郎(1911年~1996年)は、まさに燃え盛る烈火のような生を放った芸術家であり思想家である。
岡本は、ニーチェの「力への意志」や「価値の転倒」の思想に共鳴。
また、シュルレアリスム運動の中心人物であるブルトンとの交流を通じて、無意識や直感を重視する表現方法を学び、自由で原始的な創造性を追求した。
さらに、フランスの社会学者マルセル・モースの『贈与論』に影響を受け、岡本は物質主義ではなく、原始社会に見られる共同体の精神や生命力に強い関心を寄せ、アンリ・ベルクソンの「創造的進化」の哲学にも影響を受けた。
これらの哲学者や思想家の影響を受けながら、岡本は独自の芸術哲学を形成し、常識を打ち破る創作活動を展開した。
「芸術は爆発だ」との名言は、単なる言葉遊びではなく彼自身の存在そのものを象徴している。

パリ留学を経てシュルレアリスムに触れた彼は、戦後の荒廃した日本に帰還し、縄文文化の力強さに目覚めることで自らの芸術の本質を見いだした。
その代表作『太陽の塔』や『明日の神話』は、既存の価値観を粉砕するかのような大胆かつ挑発的である。
これらの作品は、見る者の心に嵐を巻き起こし、芸術とは安逸ではなく闘争であると語りかけてくる。

加えて、彼の著作やテレビでの発言は「人生そのものが芸術である」との哲学を鮮烈に示し、時代の凡庸さに楔を打ち込んだ。
挑戦を宿命とし、妥協を許さず生き抜いたその生涯は一つの巨大な爆発であり、彼の遺した作品と思想は、なおも時代を越えて燦然と輝き続ける。
その思想が見事に垣間見れる本書は、まさに閉塞感に囚われた日本人への鋭い警鐘である。

岡本太郎が説く「毒」とは、安定や同調を求める無難な生き方を打ち破る内なる反逆の力であり、自己の真実を貫く覚悟を意味する。
社会全体が均質化し挑戦を恐れる風潮の中で、本書は魂を揺さぶって生命の本質的な躍動を取り戻すための啓示となる。
岡本の言葉は、停滞からの脱却を願う現代人に自由と創造の炎を再び灯す力を持つ。
そこに描かれる思想はただ甘美なる人生訓ではなく、鋼の刃のように鋭く、読む者の心に深く刻まれる。

岡本が言う「毒」とは、ただ破壊的な反抗を意味するのではない。
むしろそれは、自己の内部に潜む未熟でありながらも純粋な生命力、他者や社会の無言の圧力に屈さぬ力そのものを指すのである。

岡本は既存の秩序や常識に対して苛烈な批判を浴びせる。
それは、彼自身の生き方を基盤とした血の通った言葉である。
「無難な人生は魂の死だ」と彼は断言し、安定を求める者の惰性を鋭く切り裂く。
この冷徹な宣告には、彼がいかにして常識を排し、生命の真実に向き合おうとしたかが余すところなく表れている。
そこに漂うのは、単なる理想主義や空虚な反骨ではない。
むしろ、未知なる世界への渇望が込められているのだ。

本書の核心にあるのは、「人間は苦しむために生きている」という一節である。
この言葉は一見、陰鬱な運命論に思われるかもしれない。
だが、岡本はそれを凜とした肯定として掲げる。
苦しみこそが創造の原動力であり、人間を人間たらしめる源泉であると彼は信じて疑わない。
「生きることは戦いである」と彼が語るとき、その言葉には血潮の匂いが宿り、単なる観念論を超えた現実の重みを帯びている。

幸福についての彼の考察もまた特筆に値する。
岡本は、他者から与えられる一時の満足を「幸福」とは呼ばない。
それはむしろ欺瞞であり、真の幸福は自らの意志と行動によって生み出されるものだと彼は説く。
人間が真に幸福であるためには、自己の中心に立ち人生のすべてを引き受ける覚悟が必要だ。
彼の言葉は苛烈であり、妥協を許さぬ厳しさを持つ。
だが、その厳しさの背後には、人生を全身全霊で肯定しようとする深い情熱が秘められている。

さらに本書では、個人の独立と自由が強調される一方で、社会や他者との関係が無視されることはない。
むしろ、個としての軸を確立しつつ他者との関わりをどう構築すべきか、という問題にも深く切り込んでいる。
この点において、岡本の思想は単なる孤立主義や個人主義の枠を超え、人間存在の本質に迫る普遍性を備えている。
本書は、まさしく時代を超えた生の教典である。
岡本太郎の言葉は、激しいがゆえに時に読み手を傷つける。
しかし、それは彼が真摯に「生きること」に挑み、読者に対しても同じような覚悟を促しているからに他ならない。
この書物は、安逸を貪る現代にあって忘れかけていた生命の躍動を呼び覚ます、力強い渇望の一撃である。

未来が見えないのは当然である。
誰もが予知不能な未来に対して不安になり、及び腰になっても何も産み出すことはない。
我々は、未来に向かって果敢に、そして貪欲に挑むためのマインドセットとして今一度、岡本太郎の熱い魂に触れるべき時が来たと感じてやまない。

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