【マイ・ミニマリズム〜第5断】スナフキンとミニマリズムを巡る考察
スナフキン。
その名は世界的に広く知られている。
漫画やアニメに疎い私ですら、その名を知っているほどである。
幼くしてスナフキンを知った私は、憧れる職業やなりたい人物を問われると、テレビドラマ「探偵物語」の主人公“工藤俊作”とともに、“スナフキン”を挙げたものだ。
どちらも虚構の人物であるが。……
それから四半世紀近くを経た現在、私はとある案件の打ち合わせ中に、私の対峙した打ち合わせ相手から聞き捨てならない発言に耳を止めた。
「あの人は信用できない。どこからともなくやってきたスナフキンのような人だから」
それは、明らかにスナフキンを否定しており、私が憧憬を抱く人物への侮蔑と感じた。
一方で、なぜ“信用できない人物とはスナフキンなのか”、私はあらためてスナフキンを問う必要性を感じたのだ。
[スナフキンの人物像]
言うまでもなく、スナフキンはトーベ・ヤンソンの「ムーミン」シリーズに登場する自由を愛し、孤高を貫く漂泊者である。
その外貌は、四季を通じて至ってシンプルである。
強い日差しや雪から頭を守る三角帽、ほぼ全身を覆う防寒対策として考えられたポンチョのようなマント状の衣服。
そして、移動の自由の象徴でもあるバックパック。
その佇まいには、現代的なミニマリズムの理念が一種の崇高な美をまとって結晶化しているようにも見える。
彼の世界には物質への執着が微塵もなく、心地よく冷ややかな寂寥が横たわっている。
目前の現実生活を透かして未来を見つめるその瞳は、どこか寂しげな虚無を称え、抑制の効いた感情は修行に興じる禅僧のようだ。
この孤独の陰翳こそ我々が彼に魅了される理由であり、物質に縛られた現代人の心に突き刺さる棘でもあるのだ。
おそらく、資本主義下で競争原理に生きる人々にとって、スナフキンの自由、博愛、平等、そして非所有という思考は生産性がないうえに、その地に根づくことのなく、頼りがいもなく、無責任なな存在として位置づけられているのだろう。
という経済原理的価値観のみに照合すれば、私の対峙した打ち合わせ相手は、全身を高級ブランドで包み込み、高級外車を乗り回していた。
[スナフキンの所有物]
確かに、スナフキンの所持品はごくわずかであり、愛用のハーモニカや釣り竿といった限られた道具にすぎない。
彼はそれ以上の物を持とうとはせず、持たないことにこそ自己の意思を見出している。
その動態は、我々が物を持つことでかえって不自由に陥っていることを暗に示しているのではなかろうか?
その所作には所有の呪縛から解放され、心の平穏を手に入れた者に特有の気高さが漂うのだ。
彼の足跡が残すのは風に運ばれるようにただ歩む軽やかな影のみであり、それ以上の執着はないいのだ。
スナフキンの生き方が体現する自由という価値は、ミニマリズムにおいて欠かせない概念である。
彼はあらゆる地を渡り歩き、どの場所にも長く留まることはない。
心を縛りつけるものから遠ざかり風の赴くままに漂うその姿は、物質に執着するあまり精神の自由を失った我々への静かな警告であるかのようだ。
我々が目を閉じるとき、スナフキンは常に遠くの彼方で我々を見守っている。
しかし、その目線はどこか冷静で追い求めようとしても決して届かない。
彼のように必要最低限のものだけを持ち、それ以上を手放した先にある解放感を知ることで、人は初めて己の本質に向き合うことができるのである。
[スナフキンの価値観]
さらに、スナフキンは他者の価値観に一切干渉せず距離を保ちながら生きる。
自己の信念を他者に押しつけることを拒むその態度は、ミニマリズムが重んじる“他者の自由を尊重する”という美意識に通じるのではあるまいか?
彼は、他者がいかに生きようとも干渉せず、他人に重荷を負わせることもない。
彼の姿は、過剰に他人と関わろうとする現代の喧騒をどこか嘲笑しているようでもあり、自己の輪郭を鋭く際立たせた存在感が一層際立つ。
自然を愛しその懐に身を投じるスナフキンのライフスタイルには、単なるミニマリズムを超えた崇高さがある。
彼が見つめるのは、都市の喧騒から遠く離れた静寂に包まれた森の奥である。
そこにこそ人間が本来持つべき**「純粋なる孤独」や「無為なる時間」が存在している**と信じているのだ。
スナフキンは自然と共に過ごす時間を通じて己の本質を見つめ直し、物に依存しない生活の中で心の豊かさを追求する。
[スナフキンが投げかける問い]
総じて、スナフキンはミニマリズムが目指すべき理想、すなわち所有から解放され、自己に忠実である生き方を象徴している。
彼の存在が我々に問いかけるのは、物に囲まれた生活の中で見失いがちな真の自由と豊かさである。
スナフキンの姿を通して、我々は「持たないことで得られる豊かさ」の意味を深く考えさせられるのだ。
[スナフキンの名言]
最後に、私を静かに奮い立たせるスナフキンの名言をまとめた。
それは、自由を愛し、孤独を愛し、旅を愛することで生まれた珠玉のアフォリズムであり、膨張する資本主義下で生きる我々への警句である。
私のこれからの人生を有意義にするために、ここに書き残そう。
「何かを所有することは、自由を失うことなんだよ」
「僕は一人でいるのが好きなんだ。ひとりで歩いたり、考えたりするのがね」
「自分のしたいことをするのが一番だ。誰に遠慮することもないよ」
「道はどこまでも続いているのさ。どこまでもね」
「自分に正直であるためには、時にはひとりになることも必要なんだ」
「もし、そばにいてほしいなら、誰かが自分を探しに来るよ。でも僕は、そんな風に誰かの期待に応えたくないんだ」
「誰もがそれぞれの道を行く。それが一番いいんだよ」