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【人生最期の食事を求めて】福岡屈指の回転寿司が誇る本領の試み。

2024年9月21日(土)
ひょうたんの回転寿司(福岡県福岡市中央区)

朝食を終え、当て所なく彷徨って辿り着いた場所は警固公園だった。
天神エリアの中心の象徴でもあり、天神駅の寄り添うまさに都心の公園でもあった。
私は福岡に訪れる度に警固公園にも足を伸ばすが、最近では“福岡のトー横”“警固界隈キッズ”と呼ばれるようになるほど治安が悪化しているという。

と言っても、土曜日の午前中ならそんな印象の微塵もない。
警固神社にお参りする観光客風の人々の安穏とした情景も散見された。
きっと夜ともなると魑魅魍魎たる若者たちがここに集い、夜な夜な怪しく危険な空気を発するということなのだろう。

警固神社のすぐそばに真新しいビルがいつの間にか完成していた。
その1階には、アメリカ発祥で東京の清澄白河にある青い瓶型容器をモチーフにしたコーヒーチェーン店が入居していた。
この付近でコーヒートラックで販売していた記憶が蘇ったが、いつの間にやらビルに入居していたことなどつゆ知らず、休憩を兼ねて入店することにした。
ミニマリズムを意図するような直線的な洗練された空間には、韓国人旅行者の姿が顕著だった。
それはさておき、このコーヒーチェーン店がコーヒー激戦区でもないこの地になぜ出店したのか、謎としか思えないままに無為な時を過ごした。

外は雨が降ったり止んだりしていて、私の足はいっそうこの店に釘付けにされたままだった。
時の経過とともに、朝食の満足は徐々に消え、私は再び何かを求めるために店を出た。

それにしても、蒸し暑さは尋常ではない。
やはりどこかの建物に入り、体を冷やすことが先決になった。

天神駅と寄り添うように建ち並ぶ商業施設の中に入ると、汗ばんだ体を冷房が撫でた。
あまりの心地よさに外に出ることを体が拒んだ。
このビルの地下2階に人気回転寿司店が入っていることを思い出し、さっそく足を向けた。

ひょうたんの回転寿司

過去に2度訪れたが、その味の揺るぎない美味が衰え知らずであることを、15時近くになろうとも長蛇が誇示していた。
私はさっそく最後尾に付いて椅子に腰掛けた。
入口の傍らではテイクアウトメニューが列び、次々と買われていく情景にしばらく見入った。

約10分刻みで次々と待ち客が店内に案内される小気味の良さに身を預け、そして入店が許された。

夜の食事をどうするかを考慮しながら、紙にネタの名を書き連ね、目の前の職人に手渡すスタイルである。
痛風と夜への配慮からお茶に徹することにしていると、すぐさま目の前から皿が差し出された。
まずは「かんぱち」(429円)と「真あじ」(506円)である。
白身と青物との鮮やかなコントラストをしばらく望んだ。
当然にして臭みはなく、それどころか幾分柔和なシャリとの一体感が口の中で踊りこぼれると、鼻腔の奥からささりげなくネタの香りが駆け抜けてゆく。
そこへ店の名物である「焼穴子」(286円)がやってきた。
万全の下拵えと程良い焼き加減のネタはもちろん申し分なく、追加オーダーの衝動を自重していると「きびなご」(319円)が差し出された。
今年3月に訪れた長崎県で堪能したきびなごを思い出した。
鹿児島県、長崎県、高知県が主な産地であるそれは、臭みはなく蛋白さで穏やかな味わいとともに、瞬く間に私の口元に運ばれて消えていった。
最後に訪れたのは好物のネタのひとつである「〆こはだ」(319円)である。
絶妙ともいうべき締め加減は、この店の技量の高さの象徴として最後に選ぶにふさわしいかも知れない。

かんぱち、真あじ
焼穴子
きびなご

店内は客も職人も非常に賑やかで何の気取りもないが、そこからは下品な騒がしさはない。
そうして味は一貫一貫申し分のないレベルを提供する。
しかも、酒というある意味で味の鋭敏な批評をごまかすものを排除し、お茶だけで食するネタのひとつひとつと対峙し、食し、味わうことの重要性を、私はまたしても噛み締めた。

多くの人々が往来するビルを抜け、私は再び狂おしいほどの蒸し暑さが宿る街中に紛れ込んでいくのだった。……

〆こはだ


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