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ジオパーク・オンライン&ガイド勉強会 #006 伊豆半島GPの報告

この報告レポートは無料で読めます。
オンラインツアーの動画は最下部にあります(有料)。日本ジオツーリズム協会メンバーの方は無料で見られます(※2022年4月以前にご入会の方のみ)。

2021年12月19日に開催された、ジオパーク・オンライン第六回、伊豆半島ジオパーク回のご報告です。第1部のツアーの内容と、第2部のTORE勉強会の内容にそれぞれ触れていきます。

第1部
「水で育つワサビの秘密を、伊豆で探せ」と題して、伊豆半島ジオパークのタバサさんこと田畑朝恵さんがお話をしてくださいました。

伊豆半島ジオパークのメインテーマは、「南から来た火山の贈りもの」。伊豆半島は、フィリピン海プレートによって運ばれてきた火山島が日本列島にくっついて出来ました。本州の中で唯一フィリピン海プレートに載っているところです。2018年に、国内9地域目の世界ジオパークに認定されました。
タバサさんのガイド歴は長く、そのぶん伊豆半島への思い入れも大きいので、自己紹介でも自分が今まで案内してきたジオサイトのお話をしてくれます。筋金入りのジオガイドですね。

まずは、伊豆半島がどこにあり、ワサビ田がどのようなところにあるか、そして伊豆半島がどのようにしてできたか、というお話を、映像をふんだんに使ってお話いただきました。
プレートの活動と火山活動のコラボレーションによってできた伊豆半島。次回の舞台となる伊豆大島とも関わりの深いところです。富士山もきれいに見えていました。
伊豆半島ジオパークの拠点施設「ジオリア」でも使われている迫力のある映像には、地球のエネルギーが詰まっているようでした。

そしていよいよ、ワサビと、地形、地質との関係を探す、ヒミツ探しの旅へ!
どうやら、二種類の火山岩が、ワサビの生育に大事な役目を果たしているのだとか。
時代が新しい火山の地層は、伊豆半島に降る雨を通す、透水層。
そして古い火山の地層は、変質などによって固着し、水を通さない不透水層。
この二つの層のあいだに水を溜め込む帯水層があり、層の境目から、豊富で綺麗な水が湧いてくる、というのが、伊豆半島の水のヒミツです。
実は伊豆半島、天城山は、日本の中でも五指に入る多雨地域。
『伊豆の踊子』の冒頭でも「雨に襲われる」と描写されるほどで、ふもとで豊富な湧水が湧く理由になっています。
そして湧き出る水が谷を削り、狭くて深いV字谷となると、強い日差しが苦手なワサビを育てるのにうってつけの地形となります。
この地域の人は、地形と地質を活かして、ワサビを育てているのです。

ここで、ワサビにとっても詳しいご当地キャラ、サビちゃんが登場!
タバサさんとサビちゃんの掛け合いの中で、ワサビが伊豆半島で栽培されるまでの歴史が紹介されました。
浄蓮の滝のワサビ田、井上靖の「わさび美し(うるわし)」について触れたのち、ワサビ田の仕組みを解説。
階段方式で用水をかけ流し、大きい石から砂れきまで、谷底にある石を上手く使って浄化しながら、ワサビに常にきれいな水が供給されるように作られていることがわかりました。
ワサビ田の岩は、水が濁らないように定期的に組み直されます。この作業を、「畳替え」と言います。
私たちの知っている「畳替え」とはかなり異なるので、びっくりした方も多かったのではないでしょうか。

ワサビ田の中には、ヤマハンノキという木が植えられています。
なぜこの木が選ばれたのかはわかっていませんが、日差しが強い時期にワサビ田の中に日陰を作る役目を果たしています。
ただ、落ち葉の始末もたいへんなので、寒冷紗という布を掛けることが最近は多いとのこと。

野菜としてのワサビは捨てるところがなく、根茎はもちろん、葉や茎、細い根っこまで、様々な調理法で食べられているそうです。
伊豆の人々が、ワサビを愛し、使いこなしている様子がよくわかりました。

サビちゃんが退場し、ここからは、「ワサビは水だけで育つって、どういうこと?」という謎を追っていきます。

伊豆の湧水の温度は、13~15℃。これは、地域の年間平均気温とほぼ同じ温度です。実はこの温度が、ワサビの栽培にピッタリなのです。
そして天城山系の水は、ブナ林やコケ類の力を借りて、ミネラル豊富な湧水になることも、欠かせない要素のひとつ。
花の映像と清流の音も見られましたが、とてもすてきな環境でワサビが育てられていることがよくわかります。
この地域、神社や家にもそれぞれのワサビ田があるくらい、ワサビ栽培が地域に密着しています。
マイワサビ田に続いて、マイわさび漬のレシピが紹介され、参加者はみなカメラを画面に向けていました。

そして、タバサさんが貰って来たばかりのワサビを画面に出してくると、その迫力に大盛り上がり!
顔ほどの大きさの立派なワサビです。水だけで、これほどのものが育つとは、と、伊豆の水の豊かさを感じたショットでした。
数々のワサビの加工品が紹介されたあと、やっと見慣れたサイズのワサビが登場。
お蕎麦屋さんなど、お店で出されていて、馴染みがある人が多かったようです。先端からではなく、葉っぱをむしって、そちらから優しく下ろした方がいいのだそうです。
タバサさんによるワサビの下ろし方の実演に続き、今まさに下ろしたばかりのワサビを、アイスクリームに添えて食べてくれました。
想像を超える意外な組み合わせでしたが、参加者からは「やってみたい!」との声が。
「最近の回、美味しそうでマズイですね」とのコメントが添えられました。
楽しそうにワサビを紹介するタバサさんの笑顔が、とても鮮やかなシーンでした。

では、実際にわたしたちがこのワサビが育つ様子を見るには、どうしたらいいのでしょうか。
ワサビ見学の交通手段として、タバサさんからはレンタルの電動自転車がおすすめされました。
ワサビ田は山の奥にあるので、途中の坂道を登るのがたいへん。ルート内の標高差は200メートル以上もあります。自力ではたいへんで、電動のパワーが必要になります。
そして、ワサビ田見学には、守ってほしい注意事項もありました。このルールは、伊豆半島ジオパークの方々がワサビ田見学をルートに入れる際、ワサビを育てている方と話し合って決めたもの。ワサビが育つ環境を守るための、大事な取り組みです。

ここで、「伊豆で水わさびがよく育つのは」というお話をまとめていきます。
・涼しい日陰を好むワサビは、狭い谷あいの地形があっている
・ワサビ田の石は、20万年前まで噴火活動のあった天城山の溶岩と3200年前に噴火したカワゴ平の軽石が使われいる
・大きく育てるには、水温13~15℃の水が絶えず必要
 1キロのコメを育てるのに必要な水は2t、同じ量のワサビを育てるのに必要な水は30t
・地形・地質・湧き水と農家の皆さんのワサビに対する熱い思い、これらが揃い伊豆ではよいワサビが育つ!
ツアーを通して、伊豆半島のなりたちに親しみ、ワサビについて深く知ることができました。

第2部
毎回のツアーを、インタープリテーションにとって大切な4つの要素
Tテーマ(メッセージ)がある、O構成されている、R参加者と関連がある、E楽しめる)」
に分けて考え、ガイドにとって大切なことを学び合おう! というのが第2部の勉強会です。

T……テーマがあるか
今回のタバサさんのテーマは、「伊豆の地形と水と人の努力でおいしいワサビが育ちます」でした。
「伊豆半島と言えば火山だが、そこから生まれ出てくるものを紹介しようと考え」て、題材をワサビにしました。ワサビを選んだ理由は、「ワサビはとても人の手がかかる食品だが、自然を活かしている」から。
参加者が受け取ったメッセージも、伊豆半島に住む人々とワサビの深いかかわりについてが中心でした。

O……構成
ここはとても多くの意見が出ています。「内容がワサビに絞られていてわかりやすかった」「大きいところ(地球の話)からワサビにズームインしている感じが良かった」「データの出所に信ぴょう性があってよかった」という意見が出ており、「『わさびは水だけでできるの?』説明はされていなかったけど、人を考えさせる繋がりがあった」といった鋭い指摘もありました。
タバサさんは当初、「ちょうど自転車を使ったワサビ田ツアーを作っていたので最初はそのツアーを念頭に置いて構成した」そうです。今回はワサビに的を絞ったので、自転車の紹介だけに留まり、「なぜ自転車?」と、違和感を感じた参加者もいました。
伊豆半島ジオパークのガイドにとって、自転車のツアーとワサビは切っても切れないものですが、それを伝えるためにはしっかりと明文化しなければいけなかったなぁ、と後にタバサさんは語っていました。

R……関連性
基本的に、食べ物は誰にとっても関連が強い、ということを踏まえた上で、
「ワサビについての知識を丁寧に聞いたのが初めてだった」という驚き、お住まいの地域と降水量の多さやブナ林などが共通していたというお話、天城越えや川端康成などの誰もが知っている歌や文学に対して、関連を感じた方が多かったです。
タバサさんはむしろ「身近なワサビ製品を声掛けして挙げてもらおうと思ったが、他の地域ではあまりワサビ製品がないことに気付いた」そうで、身近過ぎて当たり前だと思っていたことが実はそうではない、という気付きがあったようです。

E……楽しいか
楽しさについての言及はなんといっても「サビちゃん」。誰もがタバサさんとの軽妙なやりとりを魅力的に感じていました。サビちゃんのお話し中は、タバサさんも画面にサビちゃんを登場させていたりと芸が細かく、そこに気付いた人もいました。
サビちゃんの声を担当したのは、タバサさんのお嬢さんで、彼女も伊豆半島のジオガイド。親子共演となりました。
ツアー中のタバサさんの笑顔や、地元の競輪場でならした声も、楽しさに繋がっていたようです。
ワサビをすりおろす音、ドローン撮影の映像なども、参加者の印象に残りました。
タバサさんは、「わさび漬けのレシピを公開することで、男女問わず作ってみようという気持ちになり、そこで自分事になるのでは」というねらいを持っていました。レシピについては「具体的でよかった!」と、好評でした。

その他
「テーマの出し方で、『ワサビのことが聞ける』と思われてしまったかもしれないので、ワサビと伊豆半島の大地のことを話すのだということをきちんと出せればよかった」というのがタバサさんの自己評価で、参加者からも「わさびの一生、わさびの定義も知りたかった」と、ワサビの深掘りを期待する意見が出ていました。
しかし、伊豆半島とワサビのつながりを俯瞰してみたときに、「要工夫を感じたところは一つもなかった」と言われるほど、ツアーがまとめられ、練り上げられていたのは間違いありません。
親子共演、レシピ公開と、ジオパーク・オンライン初の取り組みがいっぱい詰まったタバサさんのツアー。今までと一味違う取り組みは、ワサビの香りと共に、参加者の心に残りました。

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