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ジオパーク・オンライン&ガイド勉強会 #012 とかち鹿追GPの報告

この報告レポートは無料で読めます。
オンラインツアーの動画は最下部にあります(有料)。日本ジオツーリズム協会メンバーの方は無料で見られます(※2022年8月以前にご入会の方のみ)。

第12回「とかち鹿追ジオパーク」オンラインツアーについての報告をいたします。ガイド:然別ネイチャーセンター 松本宏樹氏

第一部報告
 
<導入>
ツアータイトルは「火山のしゃっこいプレゼント!」でした。

しゃっこい=冷たい
凍れる=猛烈に寒い
 
という、北海道弁の紹介をしてからのいきなり「しゃっこいプレゼント」をお見舞いしてくれたマッツさん。
最初からワオファクターを入れたのは素晴らしいツカミでした。
 
-26度の気温の中でお湯をぶち撒いて、一瞬にして冷たい水蒸気にしてしまうというお湯花火を使った斬新なオープニング。
しっかりと、「十勝ったらどんだけ凍れるんだ〜!」と参加者に印象づけることに成功しました。
 
さて、今回の案内人は、ラジオのDJもされているマッツこと松本宏樹さんです。
胸から下の画面に映らないところも参加者に親しみを持っていただくために、自らの体型をドラえもんに喩えるという自己紹介テクニックもさすが!
まさにDJらしい軽快なノリとテンポでツアーへと突入していきました。

<起>
まずは、とかち鹿追GPが北海道のどこに位置するのかをご案内したところからスタート。
驚いたのは、十勝は食料自給率が3200%だということ。
さすが、農業王国十勝!
どうやら食の宝庫でもあるらしい…と参加者の想いはしばし食べ物へと向かいました。
 
「美味しい食べ物はたくさんありますが、中でもご紹介したいのは鹿追蕎麦の中でも幻の蕎麦と言われている“ぼたん蕎麦”。
出ました。
誰もが弱いワード「幻」。
これを聞いたら是が非でも現地で食べたい!と思ってしまいます。
 
そしてもう一つは“でーでーぽっぽヨーグルト”
土づくりから始まり、牧草にも拘り抜いた牛乳から作られたヨーグルトなのだそう。
ネーミングも興味を惹きますが、「絶対食べた方がいいよ〜!」と言われたら、迷わず「はい!」と答えてしまいます。
そんな美味しいものもあるツアーへ早く連れて行って〜!とばかりに、参加者の期待値はぐんぐん上がるのでした。
 
さあ!いよいよ本編の始まりです。
森にたたずむバンビの画像と帯広空港に向かう空からの冬景色を背景に「鹿追町は、農家さんが多い人口約5000人の町。一方で、アクティビティー豊富なアウトドア天国でもあります。今日はカヌーに乗ったり、森歩きを楽しんだりしていただきます!」とインフォメーションがありました。
 
美しい湖や野生動物がいる森を想像している皆様のワクワクが伝わるようでした。

<承〜第一場面/湖>
ここから然別湖周辺の楽しみ方が紹介されました。
四季をまたぎフィールドをまたぐ手段として使われたのは、オンラインツアーではお馴染みとなりましたワープ!!
今回登場したのはエアトリップと呼ばれるジップラインでした。
参加者は手を羽ばたかせながら、瞬間移動を一緒に楽しく行います。
 
然別湖のしゃっこい冬
北海道で一番標高が高いところにある天然湖の然別湖は、12月から5月の上旬までど氷が張る湖。
真冬はもちろん全面結氷。
そのタイミングで作られるのが “しかりべつコタン” です。
イグルーの中に設置されたバーで飲んだり(マッツさんもバーテンに変身するそう)、コンサートが開催されたり、氷上露天風呂に浸かったり、イグルーに泊まったり、アイスチャペルなどもあって、キャンドル灯してロマンティックナイトになるという盛りだくさんさ。
とても幻想的で素敵な演出に、一同「ワオ〜〜!!」「行きた〜い!」「バーボンロックで〜!」「いや、鍋パで!」と盛り上がりました。
 
然別湖のしゃっこい早春
氷が溶け出す早春。
なんと、早春の1週間だけしか体験できないというレアアクティビティーは「アイスキャンドル浴」。
それこそ、しゃっこくて無理!と驚いてしまいますが、そこはほら、ベテランガイドも一緒だから大丈夫。
しっかりとドライスーツを着用し、何億本もの氷のキャンドルがぶつかりあうカラカラ音を楽しみながら、ワーワーキャーキャーとまるで子どものように楽しむ動画が流れました。
あ〜!しゃっこそうだけど楽しそう!
これはもう!映像見ていただかないと伝わらない。
とにかく、寒そうに震えている人は一人もいませんでした。
 
しゃっこい森への導入としての春〜夏の然別湖
さて、春からがカヌーのベストシーズンだそうです。
森と山に囲まれ、青く澄んだ然別湖。
ここに浮かべたカヌーのツアーは至福のひとときだろうと想像できます。
 
ん? カヌーの下、水の底にあるのはもしかしてレール?
これ、「湖底線路」と呼ばれていてInstagramではちょっとした話題になっているそうです。
 
さらに少し沖まで出ていき、湖底を覗くと岩がゴロゴロと見え出しました。
そこは、1187mの溶岩ドーム白雲山の麓。

<転〜第二場面/森>
さてここからは一気に白雲山山頂へワープ!
ビヨヨヨ〜ン!の効果音と共に全員でジャンプ!
すると、今までいた湖上を山頂から見下ろすことができました。
山頂にも岩がゴロゴロ転がっています。
 
そしてこの後のストーリーは、湖から山・森へと展開していきました。
 
夏でもしゃっこい森
ここで、岩塊斜面の説明がありました。
岩塊斜面とは、むくむくと固まった状態で上がってきた溶岩が、空気に冷やされて割れ、さらに冬に降った雪が溶ける際、雪解けとともに溶岩が下に崩れていった状態のこと。
 
マッツさん、この現象を、ソフトクリームを使って表現してくれました。
溶岩ドームに見立てたソフトクリームに、溶岩に見立てた甘納豆を貼り付け始めました。
ソフトクリームが溶けだすと、甘納豆は崩れていきます。つまりこれが岩塊斜面。
分かりやす〜い!と感心したところで、マッツさんが美味しそうに「ぱくっ!」。
オンラインツアーガイドの特権だそうです。
って、「ずる〜い!」とチャットが入ったのは言うまでもありません。
 
さて、実はこの岩塊斜面が第二場面のKEY。
岩塊斜面には、噴火のない静かな時代に様々な命が育まれていたのでした。
 
岩塊斜面には風穴と呼ばれる冷たい空気の通り道ができます。
風穴には氷筍もあり、積み重なった溶岩の隙間に入って溶けた雪は、底の方で2年以上凍った状態になっており、これを永久凍土と言うのだそうです。
ある研究者により、鎌倉時代の動物の糞が入った状態で固まった、なんと4000年前の氷まで発見されたといいます。もうびっくり〜!!
また風穴の隙間からは、空気の対流にともなって冷たい空気が流れ出てくるそうです。
その空気は、夏でも0度くらいのしゃっこさだとか。
まさに、天然の冷凍庫です!
なるほど夏でもしゃっこい訳です。
 
さらに、この風穴から流れ出てくる冷たい空気によって常に岩が湿った状態になり、その周りには苔が生え、アカエゾマツが生え、高山植物が季節がずれるという独特な咲き方をし、生き物の多様な生態系を生み出しています。
 
寒さが得意な生き物も次々と姿を見せてくれました。
カラフトルリシジミ・キタキツネ・シマリス・ナキウサギ。
特にナキウサギはここだからこその動物です。

<結〜秋の紅葉に囲まれたハート型の駒止湖>
ここで秋のシーンになりました。
紅葉に彩られた駒止湖が登場。
なんと可愛らしいハート型です!
 
「火山が作り出した岩塊斜面は、しゃっこい環境が好きな植物や生き物の命を育んでいます。野生の森に入るときには“おじゃまします”の優しい気持ちで入ってほしいと思います。環境的にはとても脆いところですが、ここは命のゆりかごです。大切に守っていきたいです。」
 
ハート型の駒止湖を背景に、マッツさんの愛のメッセージが届きました。
 
湖の美しさとしゃっこさ。
森の命の美しさとしゃっこさ。
 
次はリアルで訪れましょう。


第二部報告

第一部のオンラインツアーを視聴後、それをもとにガイドにとって大切な4つの要素(TORE)について考える第二部勉強会の様子を、グループワーク時に出た意見を中心にまとめて報告をいたします。

1.    このツアーのテーマは何か?
「然別湖周辺の雄大な自然は、激しい火山活動と厳しい寒さが生んだ恵みなんだ!」
これが、マッツさんがオンラインツアーを通して伝えたかったことでした。
これを踏まえ、OREに当てはめた気づきと意見が交わされました。
 

2.    O(構成)について
・最初のお湯花火で寒いなあという印象が強く感じられてのスタートだったのがよかった。
・巧妙な展開・テンポがよかったし、前のめりになって聞けた。
・火山・生き物・植物・人、色々なものを見せてもらったが、最後にきちんと収束されていて全体的なまとまりを感じた。火山活動によって育まれた自然のつながりをうまく表現している構成だった。
・画像・動画・手書きの絵・実験・音・ワープの手法などが次への期待感が高めるように効果的に配置されていた。
・テロップの文字のひらがなや漢字のバランスがよかった。
・斜面岩塊という耳慣れない単語を聞いた時は???だったが、その後の展開で、その意味とそれによる恵みがよく理解できた。
・最初の30分間で楽しいこと〜中間に斜面岩塊など少し難しいこと〜最後に向けてまた楽しいことというサンドイッチ構成のお陰でついていきやすかった。
・軸がしっかりしていること、中身が整理されていることで、今回のようにトピックが多くても全体の情報量が多く感じないということがわかった。

*これらの意見をまとめると、目の前にリアルな景色がない状況で、その質感を伝えるためには、煩くならない程度でバランス良く、様々な手法を駆使する必要があることがわかります。
それを効果的に配置して構成することで、画面の前にいる参加者は、ストーリー理解は画面のこちら側で、気持ちと体は向こう側へ飛んでいることに気が付きます。

3.    R(関連性)について
・自分の地域との関連性
①火山 溶岩ドーム 風穴 岩塊斜面 固有種の生き物や植物 
②しゃっこい=ひゃっこい(茨城県)
③火山の植生がほぼ同じ
④身近な音が効果的に使われていた。
⑤ソフトクリームとヨーグルト
・ジオパークで気候変動の話をどう伝えるかを悩んでいたが、『実は岩塊斜面は脆いので、この環境を大切にしないと希少な生き物が生きられなくなる』というふうに伝えていていたのはヒントになった。
・現地のしゃっこさを感じさせる手法が、温度計を使ったり、「今日は寒いです!」と言葉で意識づけをしたり、お湯花火などで寒さを関連づけてくれたので、「しゃっこい」と感じることができた。
・岩が割れるメカニズムの説明が、小学生でもわかるほど噛み砕かれていたことで、「自分のために話してくれているんだ」と感じることができた。
・子供の頃に読んだキンダーブックのナキウサギを思い出した。本物が見たい!と思っていたので、動くナキウサギを見られて嬉しかった。
・真逆の環境なので、想像力を掻き立てられたし、自分のいる地域と比較しながら視聴することができたことが刺激的だった。

*これらの意見をまとめると、参加者は自分がいる環境、あるいは自分自身との共通点を見出すことで理解を深めたり、没入感を得ていることがわかります。
また逆に、自分がいる環境と真逆の環境に刺激を感じて楽しんでいる様子も窺えます。
オンラインツアーでは、参加者を置いてきぼりにしないように、より厳選された素材選びを要求されることにも気づきます。

4     E(楽しさ)について
・マッツさんのおちゃめで明るい人柄や心遣い、語り口調が楽しさを増幅させた。
・火山なのに「しゃっこい」という意外性を、様々な場面で感じさせてくれて楽しかった。
・春氷ダイブは臨場感があってよかった。
・ジップラインの移動など、ワープが楽しい。
・画像 スムーズな動画 自作のイラスト などが美しくて見入ることができ楽しかった。
・効果音が楽しかった。
・実験が楽しかった。ペットボトルを支えているくまちゃんも可愛かった。
・スピード感がワクワク感を醸成していたし心地よかった。 

*これらの意見をまとめると、参加者がガイドのパーソナリティーに
引っ張られていることがわかります。
楽しさを演出するためには、ガイド自身の本来の個性に加えて、ガイド自らがおこなうガイド自身の演出、あるいはツアーでのエンターテイメント性を要求されることに気づきます。
また、ストレスのない動画や実験あるいは効果音の使い方などの工夫も必要だとわかります。

5.    全体を通して感じたことと、ここはこうだったら良かった…という意見・感想など
―良い感想―
・12回シリーズを通して各地のジオガイドさんが郷土愛を持ってガイドをしているのを知った。他地域のジオガイドさんに親近感を持てた。それが12回を通しての一番の成果だ。
・マッツさんの自然への愛を強く感じた。マッツさんに会いに鹿追へいきたいと思わせるツアーだった。
・ 最後の「見つめて、守って、伝える」と言う言葉が、ジオパークって未来に地質遺産を残すための大事な仕組みなんだよなあというところに結実したように感じられた。
・それぞれの季節との関連で紹介してくれたので、それぞれの季節に訪れたくなった。
・松本さんは49歳とは思えない人間味を感じた。きっと中身の濃い人生だったに違いない。
 
―要工夫を感じたところー
・話すスピードやストーリー展開については、「良い」と言う人と「早すぎて付いていけなかった」という人に分かれた。中には早すぎてテーマを受け取れなかったと言う意見もあった。
・実験の映像はわかりやすかったが、もう少しコンパクトでも良かった。
・キツネの話はテーマに必要だったのか疑問が残るが、「こども」というワードでは自分事として感じられた。

*これらの意見をまとめると、4.のまとめでも触れたが、参加者はツアー内容はもちろんのこと、ガイドそのものの魅力も重視していることがわかります。
また、参加者自身が選んで申し込んでいるとはいえ、少なからずも参加者とガイドとのミスマッチが起きていることは見逃せない事実として受け止めたいところです。
オンラインツアーがリアルツアーへの導線となり、アーカイブとして残る以上、次のステージを意識した磨き上げが必要になるのかもしれません。

6.    ORE+5の意見と気づきのまとめ
全体を通して、参加者はツアー内容についてはもちろんのこと、マッツさん自身に興味と親近感を強く持っていることがわかります。
オンラインツアーそのものの磨き上げも重要ですが、ガイド自身の磨き上げの重要さにも気付かされてハッとします。
 
オンラインツアーをコンテンツ化するにあたり、何を目的としてオンラインツアーを行うのか?ターゲットは誰にするのか?
今一度、原点に立ち返って考え、オンラインツアーの構成をすることも忘れてはいけないと感じました。
 
オンラインツアーだからできること、オンラインツアーでなければできないことを探りつつ、オンであってもオフであっても、参加者に「行きたい」と思ってもらうだけでなく、「会いたい」と思ってもらえるガイドになるために、今後もガイド同士で学び続け、切磋琢磨していきましょう!


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