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ジョージア料理に恋して ⑩モンゴル帝国の置き土産「ヒンカリ」


ヒンカリとの出会い

私は餃子が好きだ。

ジョージア、トビリシのラーメン屋で食べた餃子

どれぐらい好きかと言うと、長年勤めた会社を辞めてシルクロードに餃子の食べ歩きに出てしまったぐらい好きだ。

中国や日本だけじゃなくて、世界中に餃子の兄弟や親戚が存在するのは広く知られている。

ポーランドのピエロギ

ポーランドのピエロギだってこれはどう見たって餃子の親戚どころか、餃子そのものでしょ?

当時大学生だった娘と私は3週間ほどかけてシルクロードに餃子行脚の旅に出ることにした。
中国西安からスタートし、西へ西へと進む旅だ。

計画を立てている途中で「ジョージアという国のヒンカリと言う水餃子が絶品らしい」という旅人のブログに行き当たった。
これが私とジョージアの出会い。

当初の計画では中央アジアをゴールにするつもりだったが、ウズベキスタンからジョージアの首都トビリシまで飛行機がとれたので、ジョージアに絶品水餃子を体験しに行くことを決めた。

初めて食べたヒンカリはあまり印象に残るものではなかった。
トビリシから車で3時間ほど北上したカズベギという山岳地帯の山のゲストハウスの夕食に出されたものが初ヒンカリだった。
安宿だったので、今にして思えばあれは冷凍のヒンカリを茹でただけだったのかもしれない。

山を下りて私たちは日本人旅行者に人気のChuriという食堂へ行った。

みんな大好きChuri

チュリで食べたヒンカリは想像をはるかに超えて美味しかった。


圧倒的な大きさ。小籠包ぐらいのサイズを想像していたが、大人 の握りこぶしぐらいの大きさ。女性なら2個も食べれば満腹だ。
もちもちの皮。皮も美味しいんですよ。
あふれる肉汁。ひとくちかじったらこの肉汁をこぼさないように急いで口をつけて吸わないといけない。お行儀なんて気にしちゃいられない。
ハーブとお肉のハーモニー。パクチーなどのハーブやにんにくとお肉との組み合わせが斬新。絶妙な塩加減。

何よりモッタイナイ精神を重んじる日本人としてびっくりしたのは、ヒダが集まった部分は食べずに残すんです。

このツマミの部分は食べない

確かにこの部分は火が通りにくいし茹でても固い。でも日本人なら全部美味しく食べられるような包み方に変えたんじゃないかな。
ユーラシア大陸に広く存在する餃子とその親戚の中で、せっかく包んだ皮の一部を乱暴にも残して捨てるなんで、ジョージアのヒンカリ以外にあるんだろうか。しかし、このおおらかな感じがまさにジョージアっぽいのだ。

シルクロードは餃子ルート?

餃子の起源には諸説ある。
私が好きなのは、中国西部の騎馬民族起源説だ。
騎馬民族の移動とともにユーラシア大陸の西へ東へと餃子は広まっていったのではないか?
トルファンでミイラ化した1400年前の餃子(餃子もミイラ化するって言うの?)が出土していることから、この説が有力視されている。

餃子がジョージアへ伝わったのは、13世紀モンゴル帝国襲来の時だと言われている。
もちろんそれも根拠はありそうだけれど、ジョージアは黒海とカスピ海の間に位置しており昔から交通の要衝だったので、西から東から人の行き来が盛んだった。
東部の山岳地帯では山を越えて人の流入があったので、モンゴルの襲来だけでなく、ジワジワと東方の食文化は入っていたのかもしれない。

ヒンカリは、ジョージア東部の山岳地帯が本場

ジョージアの人は山のヒンカリと街のヒンカリは違うと言う。
街というのは首都トビリシのことだ。それぞれの特徴を簡単にまとめると

≪街ヒンカリ≫
①お肉は合いびきが一般的
②パクチー、パセリなどフレッシュハーブを入れる(割とどっさり)
 ※もちろんお肉以外のヒンカリも街のレストランには多数ある。ここでは割愛。

≪山ヒンカリ≫
①豚肉は使わない。羊または牛。
②フレッシュハーブは使用しない。
③スパイスで風味を加える。

カヘティの山岳地帯では、ヒンカリに入れないというだけでなく、基本豚肉は食べない。
イスラム教徒の集落があり宗教上の理由もあるが、ムスリムでなくても豚肉の持込自体が禁じられているとも聞く。
これは、大昔から周辺のイスラム教国との交流があったからと言われている。
もう1つの理由としては、豚の飼育が高地ではあまり向かないのではないだろうか?
標高3000メートル近い山の上の村で、羊飼いと羊の群れに出会った時にふと思った。やっぱ高地で飼いやすいのは羊かなと。
カヘティ地方自体は豚肉の一大産地なので、峠をひとつ越えてトビリシに近づくと逆に豚肉料理が多くなる。昔は交通手段が限られていたし、雪が深く冬場は道路が封鎖される地域なので、地図で見て距離が近くてもまったく別の食文化が存在しても不思議はない。
現在でもトゥシェティという山岳地帯へは4WDの車で未舗装の一本道を5~6時間かけて登っていくのだ。昔は馬でしか行き来できなかった。

ジョージアの温暖な地域ではハーブの栽培が盛んで、いろいろな種類のハーブがふんだんに料理に使われる、
一方標高が高い地域では気温が低くハーブが育たないため、料理にハーブが使われることが少ない。
街のヒンカリと山のヒンカリの違いは、地域による気候風土の違いも大きな要因だ。

観光客である私たちは最初にトビリシのレストランで街のヒンカリを食べるので、自分の中では街ヒンカリがデフォになる。
でも考えてみたら東方の国からジョージアに入ってきたのだから、ヒンカリの原型は山のヒンカリと考えるのが自然じゃないかな。

そう、ヒンカリはジョージア国内を東の山岳地帯から徐々に西へと広まっていった。

ヒンカリ作りを習ってみた

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