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クラゲ
クラゲの最も大きな特徴といえば、なんといってもその体から伸びるひらひらとした触手である。
実は、この触手は2種類の部位に分類されている。
海中を漂う生物を絡め、捕食するための腕(=口腕)。
敵に対して攻撃するための武器(=触手)。
前者は傘の中心から。後者は傘の縁から生えている。
水槽の中を漂う姿をただぼんやりと眺めていたとき、これらを区別して認識することはなかった。
口腕と触手。
水槽の縁に取り付けられた説明欄でこのように呼び分けられていることで、初めて別の目的を持ったものだと認識する。
いつかテレビで見たチンパンジーが足でバナナを食べていたことを思い出す。
彼らの頭の中には「手」や「足」という概念は入っていない。
だからこそ、足を使って、「握」ったり、「掴」んだりといった、”手へん”のついた動詞を操ることができるのだろう。
クラゲのブヨブヨと透き通った頭にも「口腕」や「触手」といった単語を貯めておく装置は搭載されていないように見える。
彼らにとっては、食べることも、攻撃することも、どちらも生命を持続させるという意味で同じ行為なのかもしれない。
人間はそこに2種類の名前をつけ、区別している。
そして、その区別を知ると、理解が進んだと感じている。
しかし、これは、本当にクラゲを理解することにつながっているのだろうか。
区別することで、人間の知性で把握できるレベルまで、クラゲという生命体を貶めているだけなのではないだろうか。
そうすることによって、彼らを分かった気になるために。
仮初めの優越感を得るために。
分からないことの怖さから少しでも逃れるために…。
水槽の縁に全く説明が書かれていない水族館があったとしたら、どう感じるだろうか。
そこは非常に恐ろしい場所になるのではないだろうか。
しかしまた、その恐怖を感じるときこそが、本当の意味で彼らのことを理解する瞬間なのではないだろうか。
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