見出し画像

第1話 地球の中はどれくらい熱いのか?

 ジオリブ研究所所長、ジオ・アクティビストの巽です。

 私たちは夜空を見上げながら色々思いを巡らすことは多いけれど、あまり地底のことは考えないようです。今回は、この星の中がどうなっているのか、地底の旅へ出てみることにしましょう。 さあ、ジオリブしましょ!

 今や人類は、地球から約3億キロメートルも離れた、数百メートルほどの小天体から試料を持ち帰ることができるようになった。しかしそのような最先端技術を駆使しても、地球内部奥深くまで穴を掘り、実際にサンプルを採取したり温度を測ったりすることは絶望的に困難である。これまでの地底への到達記録はわずか12キロメートル。地球中心までのたった0.2%にすぎない。

地球内部の調べ方

 地球内部が地殻、マントル、核の3層から成ることはご存じだろう。この層構造は、地震で発生して地球の内部を通ってきた波(地震波)を、地上の多くの観測点で受信することで得られた結果だ。病院でCTを使って体の中の様子を調べるのと同じ原理である。ただ病院ではX線を使うが、地球の場合は地震波を用いる。
 最近では地球CTの性能も向上して、相当鮮明にバームクーヘンのような層状の構造が見えるようになった。主な層の境界は、数〜数十km、400 km、670 km、2700 km、2900 km、そして5100 kmの深さにある(図1)。ただしこの図では、一番上の層(地殻)はあまりにも薄いので省略してある。

1.1_地球内部温度分布

 地震波の伝わり方や、地球の原材料物質と考えられている隕石の組成、それに地上での重力などを総合すると、核は鉄・ニッケル合金、マントルは「カンラン岩」と呼ばれる岩石からなると考えられる。つまり、核とマントルの境界(深さ2900 km)は、異なる物質が接する境界なのだ。
 では核やマントルの中にある層と層の境界は、なぜできるのか? この問いに対し、重要な情報を与えてくれるのが高温高圧実験である。地球を作る岩石や鉱物などを、地球内部と同じ位の温度や圧力で物性などを調べるのだ。
 高圧をつくり出す原理は至って簡単。混雑した電車の中で、ハイヒールで足を踏まれると、顔ををしかめたくなるほどに痛い。全体重がヒールの先の狭い面積に集中するために、そこにはスニーカーよりも高い圧力が発生するのだ。
 同様に図2で示した実験装置では、ネジを締めることで発生した力を、一対の先端の小さな面で受けることで、試料部に高圧を生み出す。台自体が壊れないように、材料として超硬金や世の中で最も硬い物質のダイヤモンドが使われる。ダイヤモンドは、温度を上げるために照射するレーザー光や、試料の状態を調べるX線を通す性質があるので具合が良い。

画像2

 私たちは2010年に、ダイヤモンドアンビルの形状などに工夫を凝らして377万気圧(地球中心は364万気圧)、5430℃を同時に発生させることに成功した。これが、人類初の「センター・オブ・ジ・アース」への到達だった。
 このような装置を用いて、マントルを作る岩石(カンラン岩)がどのように変化するのかを調べ上げるのだ。その努力の結果、圧力が上がるにつれて、カンラン岩を構成する主要な鉱物は、
     カンラン石→スピネル→ペロブスカイト→ポストペロブスカイト
と変わっていくことが分かった。「相転移」と呼ばれる現象である。
 このように層状の構造をなす地球内部であるが、同じマントル物質でも圧力が高い状況、すなわち深くなるほど物質は圧縮されて縮むために、重くなっていく。また核を成す金属はマントルの岩石よりはるかに重い。つまり、地球は内部ほど重い物質からなり、基本的には安定した造りになっているのだ。

実験結果と地球内部の構造を合わせて温度を推定する

  実験で求めた相転移が起こる温度と圧力の関係を、図1のA〜Cの線で示す。例えば、深さ670㌔㍍の上部/下部マントルの境界で、スピネル→ペロブスカイトの相転移が起きていれば、その深さの温度は、層境界線とBの線の交わる点を読み取ることで、1610℃と分かる。同様に、相境界線AとCを用いて、400 km、 2700 kmの深さの温度を1490℃、2330℃と求めることができるのだ。
 固体のマントルと核の境界の温度は、この深さに相当する圧力(125万気圧)で、マントル物質がぎりぎり融けない温度(融点)を決定することで、3300℃と推定できる。また、液体の外核と固体の内核との境界は、330万気圧における鉄・ニッケル合金の融点から、5500℃となる。また、金属は熱を伝えやすいことと内核の大きさを考慮すると、地球の中心もほぼこの温度だと考えられる。

 このようにして求めた温度を連ねることで、地球内部の温度分布を描くことができるのだ(図1、赤線)。

でもまだ地球中心の温度は分からない

  ただ、外核・内核の境界および地球中心の温度については、今後もう少し低くなる可能性が高い。というのは、地球CTの解析などによって推定される核の密度は純粋な鉄・ニッケル合金より10%程度小さいのである。
 つまり、核には金属に加えて軽い元素が含まれるはずなのだ。現在、その候補として、水素や炭素、酸素、硫黄、シリコンなどが挙げられているが、いずれの元素も鉄・ニッケル合金の融点を下げる効果がある。

 地球中心核にどの軽元素が含まれ、温度は何度なのか? この問題はまさに地球科学の最前線であり、世界中の研究者が鎬を削っているところだ。実は、私たちはまだ地球の中の温度すらきちんとは知らないのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?