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ビジュアル実証経済学4 隠れた失業と見えない貧困

コロナ禍の影響は未だ留まらず,感染者数の状況などを鑑み令和3年1月7日、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、緊急事態宣言が行われた。春先の一回目の緊急事態宣言時から半年以上経過し,医療以外にもコロナに関連した様々な社会問題が浮き彫りになる形となった.

本稿でも,先日,経済時系列データの可視化をテーマに,失業や自殺に関するデータを取り扱った.

そうした中,2020年末にNHKから下記のニュースが報道された.

その内容は,コロナ禍による失業者が8万人あるいはそれ以上に上るという厚生労働省の調査をもとにしたものである.この時,筆者はいくつか疑問を抱いた.一つ目は,今回の規模での経済政策を行った場合に,失業者が果たして8万人なのかと言う試算の確からしさの確認である.二つ目は,この記事が対象とする困窮者支援は,失業者のみならずコロナによる収入の低下が顕著に家計を圧迫する世帯(人)なのではないかと考えられる.その時,コロナ禍による失業者数に加えて,収入への影響を受けた者はどういった就労者であるか,またその人数の把握が必要なのではないかと考えられるためである.平たく言えば,失業者だけではなくパートやアルバイト,非正規労働者がコロナ禍によって受けた影響とその人数の把握が必要なはずである.

まず初めに,これまでの完全失業者数の推移を確認する.どうやら,2020年4月以降で急速に失業者は増えている.(2011年に関しては,元データ欠損)

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次に,この失業者数の増加がコロナ禍,あるいはその後の緊急事態宣言による影響と言えるかの参考として,理由別求職者数のデータを確認する.

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ここで,注目するべきは,非自発的な離職及び勤め先や事業の都合による離職の増加である.どうやら,これらを理由とする求職者の増加から察するに,この失業者の増加は,コロナ禍の影響と言えるであろう.

次に,どういった業種の従事者に大きな影響があったのかを確認する.特に,業種別のパート・アルバイト従業者数,非正規雇従業者数を中心にしたものが下記のグラフである.

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2020年4月にいったん大きく従業者数が減少していることが分かる.特に移動に関して大きく制限したことから,対面での営業が主となるサービス職業従事者が大きく削減していることが分かる.第一回,第二回の緊急事態宣言時にともに話題になった飲食関連職種の従業者に関してはどうであろうか.飲食物調理従事者に関しては大きな変動がみられないように思われるかもしれないが,これは文字通り飲食物調理の従事者(いわゆる調理師)であり,給仕は含まないためではないかと筆者は考える.

さて,ここで明らかになったのは業種別の従事者数の月ごとの推移だけではないであろう.グラフから明らかとなったのは,男性に比べて女性の方が,パート・アルバイト,非正規での従業者数が圧倒的に多いことである.この理由に関しては,今回の直接の対象ではないので別段の議論とするが,どうやらコロナ禍に関連して,失業あるいは非従事となることを余儀なくされた人数というのは,女性の方が圧倒的に多いことはほぼ疑う余地がない.

さらに,このパート・アルバイト,非正規雇用の形態での勤務は時間契約の労働であることが多い.すなわち,例えば飲食店などであれば,店舗自体に在籍しているが,勤務時間が無ければ賃金が発生しないということである.この点は,正規雇用と大きく異なる.これに関しては,月間就労日数別就業者数のデータが雇用形態別に公開されている.そのうちで,パート・アルバイト,非正規就労形態で月間の勤務日数が0日であった従業者数,及び1~5日であった従業者数に関してをグラフ化すると下記のようになる.

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次に問題としたいのは,既述の記事でも取り上げたが,不況と自殺に関する関連である.これに関して,失業と自殺の相関は一般的に既知ではあるが,失業が直ちに自殺の要因となるかのような相関図を書くことに対する警鐘は多い.例えば,前田(2017)は経済のプリズムの中で,下記のように述べている.

視覚的効果により両変数の関係を分かりやすく説得的に読者に伝えることができる反面、場合によっては誤解やミスリードを招く原因にもなり得る。例
えば、完全失業率と自殺死亡率については、時系列データから見ると両者
の間に強い関係がありそうに見えるが、1年限りのクロスセクションデータで回帰分析を行うと、統計的に無関係といわざるを得ない

ただし,これはあくまでも,回帰分析の不適切使用に関する警告であり,失業率と自殺死亡率の間にはやはり相関的に関係がありそうだとしている.また原典データ(警察庁 生活安全の確保に関する統計等 自殺者数)からも,死因の中で健康問題に次いで多いのが経済・生活の問題であることが分かる.

ではなぜ前田が,失業率と自殺率との間の相関関係の不適切使用に関して警鐘を鳴らしていたのであろうか.それは,例えば失業後に,全く貯蓄がない場合と一定期間は無収入でも生活ができる場合では,恐らく自殺に至るまでの期間は異なるはずである.そうした意味では,単年度のクロスセクションデータを用いた相関関係の導出に対して懐疑的だったためであろう.

筆者もこの点に関しては同意しており,2020年の4月から5月という極めて短期間に関して無収入であったことが,直ちに自殺者の増加を招くことを説明可能にするものではない.また,それが因果の説明となればなおさらである.

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しかし,一方で,一回目の緊急事態宣言に於いて,パート・アルバイト,非正規形態での従業者の勤務時間は大きく削減しており,その多くはおそらく生活に十分な収入を確保できる日数の勤務を行えていないことも,グラフ(パート・アルバイト,非正規従事者の月間勤務日数が5日以下であった者の合計)から明らかである.

ここまで本稿では,コロナ禍に伴い,いつ・どういった業種において・どのような人が・どの程度の人数いたのか,という時間空間的な変遷を述べてきた.次稿では,それらが地理空間的にどのように偏在しているのか,都道府県あるいは市区町村ごとに,どういった特徴が表れるか確認したい.

「このサービスは、政府統計総合窓口(e-Stat)のAPI機能を使用していますが、サービスの内容は国によって保証されたものではありません。」

なお,記事としての本稿はここまでであるが,データ取得に用いたコードは下記の通りである.​ならびに,記事の継続のための寄付はここに歓迎する.


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