【戦争の起源】新石器時代にすでに戦争が始まっていたことが判明
これまで新石器時代は争いのない平和な時代だと考えられていました。しかしこの考えは最近の研究によって覆されました。新石器時代のヨーロッパで、すでに個人間の争いどころか、集団での紛争があったことがわかったのです。しかもその件数は想像以上の多さでした。
チンパンジーも戦争をする
チンパンジーは同種間で争いを行います。この争いの中で最も多いのが群れ同士の抗争です。チンパンジーは縄張り意識が強く、この縄張りの周りを頻繁にパトロールします。このとき、他の群れのチンパンジーに出会うと、としばしば死傷者がでる争いへと発展します。そして、この殺しを行うのは、ほとんどがオスです。
さらに興味深いのはチンパンジーは人間のように計画的に戦争を行うということです。チンパンジーは他の群れのメンバーを襲うとき、相手が1頭でいる時を狙って集団で襲撃します。彼らは怒りに任せ衝動的に行動するのではなく、計画的に殺害を行うこともあるのです。このように、チンパンジーの戦争は人間に戦争に似ているところが多くあります。
チンパンジーの戦争について詳しくしりたいかたはコチラの動画をご覧ください。
それではこのような戦争行為はチンパンジーと人類の共通の祖先が行っていたのでしょうか?
旧石器時代から新石器時代まで
人類の祖先がチンパンジーと分化したのは約700万年前だと考えられています。その後の約200万年前に人類の祖先は石を打ち砕いて作った打製石器を使い始めます。これが旧石器時代の始まりです。この時はまだ、ホモ・ハビリスなどのヒト属の時代で我々、ホモ・サピエンスは誕生していません。ホモ・サピエンスが誕生したのは約20~30万年前のことです。
その後、中石器時代を経て新石器時代へと入ります。新石器時代になると石を磨いた磨製石器が使われ始めます。南東ヨーロッパは約9000年前、スカンジナビアではそれより遅れて約6000年前に新石器時代が始まりました。
ヨーロッパの新石器時代は狩猟採集民族のグループが移動して暮らしていた、または半定住で暮らしていた時代です。この時、徐々に農耕が始まっていますが、この広まりは非常にゆっくりだったため、この時代は牧歌的で平和な生活だと思われていました。これまで戦争は青銅器時代に入ってから行われたと考えられていたのです。
青銅器時代は石器の代わりに青銅を利用した青銅器が主要な道具として使われ始めた時代で、この青銅器は3500年ごろにヨーロッパ全域に広がりました。このとき戦争を生業とする社会的地位の人々が出現しました。
そのため、青銅器時代のころに戦争が始まったと考えられていたのです。
出土した骨から武器による外傷が見られる
これまで、新石器時代のヨーロッパでは石でできた斧やナイフなどが出土されていましたが、戦争のために使われたものか、木を切るためなど生活に使われたものなのかを判別するのは非常に困難でした。しかし、最近の技術発展により、死後による破損と、生前に受けた外傷の違いが高い確率で分かるようになりました。また、武器による暴行の跡なのか、事故による怪我なのかも同様にわかるようになってきています。
イギリスのエディンバラ大学、スウェーデンのボーンマス、ルンド大学とドイツの骨考古学研究センターは、ヨーロッパ各地、180か所で出土された、約8000年前から約4000年前までの2300人の人骨の外傷を調べました。ここで驚くべきことに、出土した頭蓋骨のうち、10人に1人に武器による外傷が見られたのでした。イギリスでは全体の12.2%、デンマークでは16.9%、フランスでは7.4%、ドイツでは7.6%、スペインでは12%、スウェーデンでは9.4%の人が武器による外傷を負っていたのです。これら外傷は鈍的外傷もありましたが、石など投げられたものや斧による貫通性のものもありました。
新石器時代は10人に1人が暴力の犠牲となっていた時代だったのです。
また、現在のクロアチアでは小さな穴に40人が一緒に埋められているのが見つけられました。これは約6200年前のもので、彼らは丁寧に埋葬されたのではなく、虐殺され乱暴に投げ捨てられていたのです。
ドイツでは26人が虐殺されていた跡がありました。ここで見つかったすべてのヒトの後頭部には鈍器による外傷がありました。このように、同じ場所に同じ外傷があることから、ここでは組織による処刑が行われていたと考えられます。このことから、争いは衝動によるものではなく、計画性があったと見て取れます。
その他、約5600年前にはドイツで34人、またオーストリアで67人が虐殺されていました。これらは線帯文土器文化の時のものですべて青銅器時代より前になります。線形帯文土器文化は、中央ヨーロッパで最初の農業コミュニティのことをいい、紀元前5400年から4900年の間にさかのぼります。帯状に刻まれた曲線と直線で装飾された、独特な縞模様の土器を使用していたためこう呼ばれています。
新石器時代の武器
新石器時代のヨーロッパで使われていた武器は多岐にわたっていました。石でできた斧、矢尻、石製のナイフ、木製の棍棒、シカの角のピック、そしてスリングショットなどです。スリングショットとはY字型の棹(さお)にゴム紐を張って、弾とゴム紐を一緒につまんで引っ張りその反動で弾を飛ばす仕組みの道具のことを指します。武器と狩猟の両方で使われ、玩具として簡単なものはパチンコと呼ばれます。
これらの武器は出土した人骨の外傷を調べることでわかりました。
このような個人間の暴力と戦争は北西ヨーロッパの多くのコミュニティーで広まっていたのです。さらにはコミュニティー全体が消滅するような事態もあったことがわかっています。このように新石器時代は牧歌的、平和的時代ではなく、むしろ暴力の最高潮だったのかもしれないと考えられています。
農業の始まりが戦争の始まり?
新石器時代に暴力や戦争が蔓延していたのは、農業の開始に関係があるようです。研究者は狩猟採集にとって代わって、作物の栽培と動物の放牧の増加したことが、戦争の基礎を築いた可能性があると考えています。農業は社会の経済的基盤の変化をもたらしました。富を所有するものと持たざる者が現れ、不平等が生じ始めたのです。そして持たざる者は裕福なものから略奪を行うという戦略をとり、これが戦争の起源となったと推測されています。
まとめ
それでは農耕が始まる前の、旧石器時代の人類は平和的な生活をしていたのでしょうか。もしそうだとしたら、チンパンジーと人類は別々に戦争を発明したということになります。この答えは、今後の研究の結果を待つしかないようです。
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