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【長編小説】モンサンミッシェルの約束(第一・二章)|地球図書館~語られざる特別な物語~1
〜2月13日 08:30
地球図書館。それは、この星が紡いできた無数の物語が眠る場所。
潮が満ち引きするたびに、孤島となり、また陸へと還る。悠久の時の流れとともに、モン・サン・ミッシェルは人々の祈りを刻み続けてきた。地理はただの知識ではなく、世界に秘められた無数の物語を読み解く鍵。
さあ、地球が秘める語られざる特別な物語の世界へようこそ。
あらすじ
潮が満ちるたび、孤島へと姿を変えるモン・サン・ミッシェル。
千年の時を刻むその地で、少女・凪沙は幼い頃の記憶と向き合うことになる。
母を亡くし、日本を離れて以来、彼女の心に刻まれた「約束」は、今もなお解けないまま。フランスへ留学した彼女は、ある日、かつての幼馴染・リュカと再会する。彼はこの地で修復士として働きながら、変わらぬ夢を追い続けていた。
潮が引けば現れ、満ちれば消える道のように、二人の運命もまた、交わるたびに試練を迎える。モン・サン・ミッシェルの古い修道院に残された「失われた手紙」の謎を追ううちに、彼女は母が残した想いと、自らの本当の気持ちに気づいていく——。
果たして「約束」が示すものとは?
過去と現在が交錯するこの地で、凪沙とリュカは、再び心を通わせることができるのか。
潮の満ち引きが刻む歴史の中で、二人の物語がゆっくりと動き出す。
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この作品は、有料コンテンツです。ご注意ください。
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【第一章】変わりゆく海と、変わらない誓い
フランスの大西洋に面するノルマンディー地方の海岸線には、悠久の歴史を刻む奇跡のような存在がある。モン・サン・ミッシェルと呼ばれるその場所は、潮の満ち引きによって、まるで生き物のようにその姿を変える。高くそびえる修道院と、岩に刻まれた石垣は、幾世紀にもわたり風雨に耐えながらも、今なお時の流れを感じさせる。
主人公・凪沙は、日本の小さな町から遥か遠くフランスへと旅立った。彼女は大学で建築史を学び、その中でも特にモン・サン・ミッシェルに魅了され、卒論のテーマとして選んだのだった。凪沙の心の奥には、幼い頃にこの地で交わした一つの約束―かつて出会ったフランス人の少年、リュカとの「また十年後の夏、ここで会おう」という誓いが、今も静かに息づいていた。その約束は、子供の純粋な情熱とともに、年月を経ても色褪せることなく、彼女の未来への羅針盤となっていた。
バスの窓から広がる風景は、まるで過ぎ去った時を映し出す鏡のようだった。青空と広大な海、そして時折立ちこめる霧。これらの風景は、凪沙にとってあの日の記憶を呼び覚ますものだった。バス内で彼女は、心の中にそっとリュカの面影を重ね、かつての自分が抱いていた夢と期待を思い出していた。果たして、あの約束は本当に果たされるのだろうか。過ぎ去った時の向こう側で、リュカは今も変わらず彼女を待っているのだろうか。
目的地に近づくにつれ、モン・サン・ミッシェルの威厳ある姿が次第に鮮明になっていった。巨大な石造りの修道院は、遠くからもその存在感を放ち、時代を越えて語りかけるかのように静かに佇んでいる。夕暮れ時、空は茜色に染まり、修道院のシルエットが幻想的な影を落とす中、凪沙は胸の鼓動が速まるのを感じた。かつてリュカと共に駆け抜けた石畳の階段、共に見上げた夜空のオーロラ。すべてが、今この瞬間に再び生き返るかのようだった。
宿泊先の小さなホテルに荷物を預けると、凪沙はためらいながらも、記憶の導くままに修道院へと向かって歩き出した。石畳に刻まれた無数の足跡、そして風に舞う塩の粒子―これらすべてが、かつてのあの夏の日々を思い出させる。歩みを進めるごとに、凪沙の心は次第に過去と現実の境界を曖昧にし、あの日の笑顔や、別れ際の涙が鮮明に蘇ってくるのを感じた。
階段を上り始めたその時、ふと耳元をかすめる風の音に、凪沙は足を止めた。まるで風そのものが、遠い記憶と交信し、かつて交わした約束の言葉を運んできたかのようだった。深呼吸をし、心を落ち着かせながら再び歩み出すと、遠くからかすかな声が聞こえてきた。
――「……ナギサ?」
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2月7日 08:30 〜 2月13日 08:30
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