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コーヒー嫌いがコーヒー大好きになるまで

    子どもの頃からコーヒーが苦手でした。
    まずあの苦さがダメ。ミルクや砂糖で苦味が緩和されていれば、まだマシにはなりますが、もう一つの難点が。
    飲むとなぜか胃が荒れるのです。いったん胃にくると、その苦しさはだんだん喉元まで上がってきて、気分も悪くなり、1時間ほど横にならないと回復しないほどです。
    これは、インスタントコーヒーでも、缶コーヒーでも、コーヒーメーカーで淹れたコーヒーでも、喫茶店のコーヒーでも、同じでした。
    唯一、コーヒーに手を出すとしたら、眠気覚まし目的でした。
    長距離ドライブの時に、ブラックの缶コーヒーを飲んで、苦味の刺激で「うっしゃー!」と気合い入れる感じ。
    ただ自らに苦行を課すだけであって、味わうとかリラックスするとかは無縁の飲み方でした。

    大人になって味覚が変わり、苦味は逆に好きになってきたところはありますが、胃が弱いのは相変わらず。
    そんな感じで、結婚して30代になるまで、コーヒーとは疎遠でした。

ヴェネツィアの衝撃

    そんなコーヒーとの関係が、一瞬にして変化した転機が、イタリア旅行でした。

    ヴェネツィアの老舗カフェフローリアン

   「え〜コーヒーはやめようよ」と拒みつつ、妻に引っ張られて渋々店内へ。すすめられるままに口にしたカプチーノ

    美味い!何これ!

    苦くない!胃に来ない!コーヒーへのネガティブな固定観念が一瞬にして崩壊し、人生も変わったかと思うほどの衝撃でした。
    その後、イタリア各都市を巡り、そのいずれで飲んだコーヒーも全て美味しかった!へんな苦味もなく飲みやすい。胃にも負担がかからない。その結果、

イタリアのコーヒーなら飲める。

    これがイタリアから帰ってきた時点での、自分なりの結論でした。なぜなら、帰国後、日本で飲むコーヒーは相変わらず胃に来たから。
    まだまだ、コーヒー大好き人間になるには過程が必要でした。

ミュンヘンの1ユーロ

    数年後、仕事で1週間ミュンヘンに行きました。
    ホテルのロビーに設置してあった、1ユーロ硬貨を投入すると、カップ1杯のコーヒーを出してくれる自販機。
    日本の自販機と違って、紙コップは手でセットします。それを知らなかった1回目は、コーヒー1杯分を全部ロビーの床にぶちまけてしまいました…。
    そんなこんなで2度目以降は、紙コップを確実にセットすることも覚え、難なく飲めるようになりました。
    たった1ユーロですが、イタリアと変わらぬ美味しさがありました。
    イタリアでも、ドイツでも、コーヒーは美味しい。その結果、

ヨーロッパのコーヒーなら飲める。

    これが自分の中での新たな結論でした。単に、飲めるコーヒーの範囲が、イタリア一国から欧州に拡大しただけですが。まだコーヒー大好き人間になるには、道が遠いです。

箱根オリエント急行の豆

    そのうち、国内でも、美味しいコーヒーが飲める機会が増えてきました。

    箱根仙石原のルネ・ラリック美術館の中のカフェ。
    ここでは、オリエント急行の客車で、コーヒーとデザートが楽しめるんですが、このコーヒーが、欧州に匹敵する味でした。

    ただ、デザート付きで、¥2,200-と、ちょっとお高いのです。
    そこで、私の中のコーヒーに対する結論が、こう変わりました。

日本でもヨーロッパ並の美味しいコーヒーは飲める。但し、高い。

    コーヒー大好き人間になるには、まだまだ価格の問題が壁でした。

    ただ、このルネ・ラリック美術館で、仮説ながら、やや確信に近いものが自分の中に芽生えました。それは、

コーヒー豆を店頭の見えやすいところに並べているカフェはきっと美味しい

というものでした。特に強い根拠があるわけではなく、なんとなくそう感じた、直感的なもの。この直感を信じて、店に入ってみたら、「当たり」だったというわけです。
    以後、国内で美味しいコーヒーを飲むとしたら、「客に提供するコーヒーに使う豆が見えるところに置いてあるか?」を注目するようになりました。自分なりの尺度です。

高速道路サービスエリアの自販機

    美味くて安価で入手しやすいコーヒーが、徐々に身近に近付いている、と感じた象徴的な出来事が、高速道路のサービスエリアでありました。
(正確には東名高速道路下り左ルート鮎沢パーキングエリア
    そこでこんな自販機を見かけたのです。

    自販機で、豆から挽いて、ドリップする工程を、テレビモニタで実況しながらコーヒーを提供するというコンセプトに驚かされました。
    しかも、映像を通じてですが、コーヒー豆が見えます
    これは!と思い、購入してみたら美味でした。キリマンジャロが220円と、自販機にしてはやや高めでしたが、これは満足できる味でした。
    以降、あちこちのサービスエリア・パーキングエリアに行きましたらば、この「ミル挽き」の自販機はほぼ必ずと言っていいほど設置されているのが確認できました。
    かつて、高速道ドライブの際に、眠気覚ましのためだけにと、美味くもない缶コーヒーを胃の腑に流しこんだのは、今や昔日のみの思い出となりました。

そしてコンビニ

    今となっては元ツイートを見つけられませんが、次の転機となったツイートがありました。その概要は、

ツイート主の友人(日本在住の外国人)が、日本のコーヒー店舗に行列ができたというニュースを見て、「なぜ日本人は美味くもない○○○のコーヒーを並んでまで飲むの?コンビニのコーヒーの方がずっと美味しくてずっと安いよ?」

というようなツイートでした。
    そうなの?と半信半疑の私。コンビニの100円コーヒーなんて、ハナから美味しくないと思い込んで、眼中に置いたことすらありませんでした。

    ということで、ものは試しと、職場と同じ建屋にあるファミマへ。
    紙コップをレジで受け取って、店内のマシンで1分ほど。出来上がったコーヒーをブラックで飲んでみる。

    …美味い。これが100円?

    胃の弱い私でも飲める美味しいコーヒーが、いつの間にかコンビニという超身近な店舗で、しかも格安で手に入る世の中になっていたとは全く知りませんでした。世の中の移り変わりが早すぎる…!

    その後、いろいろなコンビニを渡り歩いて、飲み比べをしてみました。
    すごいですね、どのコンビニのコーヒーを飲んでも、胃に負担が来ない。ちゃんと美味しい。そして、コンビニごとに味が違う。
    コンビニ間で、競争原理が良い方に働いて、常に安くて美味しいコーヒーを、切磋琢磨しながら提供している現状が確認できました。

    個人的に最も気に入ったのは、スリーエフのコーヒーでした。当時、コンビニとしては珍しくシングルオリジンにこだわっていました。シングルオリジンという言葉を初めて知ったのも、スリーエフがきっかけでした。
    ここのグァテマラ・アンティグァという豆のコーヒーが美味しかった。毎日、通勤途中に飲んでましたね。

    スリーエフは、今はローソンと経営が一体化され、スリーエフ当時のシングルオリジンの販売スタイルがなくなってしまったのが残念。
    しかし、スリーエフで知ったシングルオリジンから得た喜びと好奇心は、明らかに次の転機となりました。

シングルオリジンを追う

    シングルオリジンを知ってから、今飲んでいるコーヒーが、どこの産地かを気にするようになりました。
    日常生活の中では、いわゆるコーヒーベルトに位置する国々を意識することはほとんどありません。
    シングルオリジンのコーヒーは、そういった国々のことを、地理的観点からも、歴史的観点からも、初めて目を見開かせてくれる機会にもなります。

    コンビニやペットボトルのコーヒーは安価で入手しやすく美味しいですが、その反面、カフェや喫茶店で、信頼できる高品質のシングルオリジンのコーヒーを提供してくれるお店に行きたいという想いも強くなっていました。

    あれこれネットで検索して、まず最初に見つけたのが、堀口珈琲

    狛江に月1で用事があり、そのついでに寄るようになりました。
    いや〜、初めてここで酸味を知った時は、また新たな衝撃でしたね。
    それまでは、コーヒーといえば苦味一筋で、酸味は苦手(分かりにくい表現ですね笑)だったのです。
    堀口珈琲で、柑橘系の酸味を知ってしまってからは、酸味ばかりを求めて飲むようになった程です。

    次にシングルオリジンを求めてたどり着いたのは、丸山珈琲 表参道 Single Origin Store

    いやぁたまりませんねここは。産地や品種などの知識が皆無なくせに、ここに通うのはおこがましいとは思いつつも。
    全く知らない農園、全く知らない生産者さんの顔、全く知らない品種の豆。その向こうに連なる目に見えない物語。そんな想いを巡らせながら、生まれて初めて出会うコーヒーの香りと味とを楽しむ。その最初の瞬間がたまりません。
    「コーヒーを、旅しよう」というキャッチコピーが、まさに私の心にストライクです。私がシングルオリジンのコーヒーに求めるのは、そんな旅心です。

これから

    以上のような経緯があって、すっかりコーヒー大好きになった私が存在しています。
    開拓した店は、まだ2店舗のみなので、もっと開拓したいし、自分で豆挽いてハンドドリップしてみたいという野望もあります。焙煎はちょっと怖いかな…。
    服用する薬の影響で、お酒が飲めなくなった分、コーヒーに入れ込むようになった、というのもあるかもしれません。
    とにかく、私のコーヒーの旅は今後もどこまでも続くと思います。

    自分でドリップして飲むようになったら、また新たにnoteに投稿してみたいと思います。

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