この一年マネジメントについて考えたこと

はじめに

 マネジメントに対する感動的なnoteを読んだので、自分の考え方をより明瞭にするためにも改めてまとめることが必要だろうと考えた。
 私がマネジメントに対してあまり発言しないのはいくつか理由があって、以下である。

  • マネジメントに対して語ることは、一般に偉そうに見える。ただでさえ尊大なキャラクターなので、あんまり偉そうに見えたくない。

  • 名著が死ぬほどあるので、別に自分が取り立てて書く必要はないだろう。

  • 単純に批判されたくない。

 一方で、私の今の仕事はほとんどマネージャーである。自分で手は動かしているが、責任はどこにあるかというと、部署のアウトプットを最大化することである。
 今回は、具体的にどのような論点の取捨選択、KPIツリー構築、アクションに基づいてこのアウトプットを最大化しようと考えているかについてつらつらと書いていこう。言い換えると、一年間マネージャー業務を通して考えたことのまとめである。なお、私はデータサイエンス系の部署のマネージャーなので、それを前提に書くことにする。

前提の整理

 データサイエンス系の部署の仕事として、一般には以下二点が挙げられる。(この分解をはじめにやった人は本当にすごいと思っている。)

  • データに基づいた意思決定の加速および精度向上

  • データを活用したシステム、一般にはSystem of Engagementの提供および提供価値の向上

 個人レベルで見ると、前者はビジネスアナリストの延長線上のデータサイエンティストであり、後者はエンジニアの延長線上の機械学習エンジニアであるというのはあまりに有名な話だろう。現在、部署が提供している価値としては後者の比重が大きい。なので後者のことについて記そう。

 まずは、解くべき問いを考えよう。
 ここでは、データサイエンス系の部署は、コストセンターでありプロフィットセンターであるという前提に立つ。
 どういうことか述べると、部署として明日無くせるわけではないシステムを持っているわけで、この機能に関してはあくまでコストセンター的捉え方をすべきである。言い換えれば、責務として持つべきは、提供サービスのレベルおよび、その提供にかかるコストが適切なものかということになる。
 一方で、様々なデータ活用を通じたSoEとしての価値向上を責務としても持つ。これはプロフィットセンターとして捉えるべきで、価値向上施策実行にかかるコストと、それによってもたらされる売上の差分の最大化を考える必要があるだろう。
 ここまでの議論でわかることは、成果を最大化するために、価値向上施策にもコスト削減にもサービスレベル向上(SLO向上)にも論点を置くことができるということである。(SLO向上はおそらく、実際には機会損失の最小化の問題として解くことになるのだろう。)
 今回は価値向上に論点をおいて話を進める。なので、解くべき問いは、我々はいかにして我々のシステムがユーザーに届ける価値を最大化するか?ということにしよう。

 続いて、我々の価値を向上しようとする行動をKPIに落とし込もう。
 それは一般には、何らかの仮説があり、それを施策として実現し、効果測定し、次の仮説構築に反映する、というプロセスの類型を取ることが多いだろう。
 これを鑑みると、価値向上とはすなわち、(売上増分) = (実施施策数) x (勝率) x (勝ち施策1本あたりの売上向上額)とするのが適当だろう。
このプロセスにかかる費用というのは、(施策にかかった人件費) + (システム費用増分)であろう。
 ここでは、(システム費用増分)が小さく、無視可能だとしよう。というよりは、(システム費用増分)で負けるような施策はさすがに前もってはじけるだろう。
 さらに、(実施施策数) = (データサイエンス人員数) x (データサイエンス人員1人あたり実施施策数)と分解できるので、上で立てた問いは以下の少論点に分解できる。
 ここまで述べてきて、至極当たり前の論点が出てきた気がするが、当たり前のことを当たり前にするのも大事であろう。

  • どのようにして売上増分を最大化するべきか?

    • どのようにしてデータサイエンス人員を増やすべきか?

    • どのようにしてメンバー1人あたりの実施施策数を最大化するべきか?

    • どのようにして勝率(実施施策あたりの成功確率)を上げるべきか?

    • どのようにして勝ち施策1本あたりの売上向上額を上げるべきか?

  • もたらされた売上増分は人件費コストに見合ったものか?

考えたこととアクション

 ようやく本題である。ここからは、先程導出した部署の活動に紐付いたKPIと、それに付随するアクションをどのように実行していたか、そのお気持ちは何かについて散文的に述べていこうと思う。

人材増加

 一般に取りうる手としては教育か採用だろう。現在は主に採用に力を入れている。採用はまだ、自分が参加しているゲームのルールの見極めが出来ていないという認識もあり、今回は記述しないことにする。一つだけ書くとするならば、一緒に働くことが互いの人生に資するかを問いとして採用に向き合っている。

一人あたりの実施施策数

 このKPIについては、技術投資・プロセス整備・KPIマネジメントを中心に行っている。
 技術投資の中でも、特に基盤整備を行うことは施策の実装速度に効果があるし、先端的な技術に投資することはアイデアの枯渇による実施数低下を避けられるだろう。また、個人的にはこのあたりの技術投資の結果をきちんと管理会計の言葉で表現してみたいのだが、まだ難しくて挑戦できていない。こういった技術への投資は、本質的には資産としてそれにかかったコストとそこから発生する価値を定式化できそうな予感がある。
 プロセス整備としては、誰からどのような承認が取れれば何をやって良いかの整備を中心に行っている。また、それらの承認を取るための週次や月次の定例会議を設けてチェックポイントとし、そこまでにアウトプットを出す意識を持ってもらうよう伝えることも行っている。
 最後に、KPIマネジメントとして、個人の成果目標に当期の施策実施数を入れ込むことを行っている。これは賛否両論非常にあると思われるが、量が質に変わるという時期だとスタンスを取ってまだ目標に入れ込んでいる。また、毎週の売上増分と施策実施本数のそれぞれの積み上げをスプレッドシートに転機し、KPIに問題がないかをチェックしている。ものすごく頼りになるPjMの方がいつもリマインドしてくださるので、継続的に続けられている。

勝率の向上

 勝率を上げるために必要なことは、仮説構築の精度向上である。そのために重要視しているのは、一次情報へのアクセス可能性と、組織における学習の蓄積である。
 一次情報へのアクセス可能性を向上するために、幅広いステークホルダーとのコミュニケーションパスをつなげ続けることを意識している。これは、コミュニケーションやそれを通じた一次情報へのアクセスが、未然に避けられる落とし穴、特に誰かにとって既知な落とし穴への有効な対処であるという実感に基づいている。
 また具体で言うと、やはり定例会議の設計や有効な運用は最も重要なものだと考えている。定量化も計測もしていないので意識レベルの話にはなるのだが、その場でどれくらい有意義な、やり取りが出来ているかを気にかけている。ここでの有意義とは、物事が前に進むか、あるいは何か新しい選択肢が生まれたかなどと言語化するのが適当である。
 アクセス可能性はもちろん、コミュニケーションの透明性にも依拠している。この点に関してはオープンチャネルを使用することや、議事録を取り、機微情報・人事情報でない限りは必ずオープンにするなどの姿勢を自分が見せるようにしている。
 組織における学習の蓄積で必要なことは、効果測定とプロセスの振り返りをちゃんとやることに尽きる。もちろん、外部の知見や調べ物を行い、知識の共有は当たり前にするような、勤勉なメンバーばかりだということは付け加えておく。効果測定においては特に、精密に意思決定を行えるようにデザインしておくのは当たり前のレベルであり、この施策を行ったことによって仮説の精度があがったのかということを重要視している。要するに、意思決定のための分析だけでなくて、意思決定のため以外の分析も行い、起きている現象をより深く理解することが重要だと考えている。
 プロセスの振り返りに置いては、何が円滑な遂行の阻害となったかの認識を揃え、それを次回取り除くことができるかの検討を行っている。例えば、コミュニケーション要因やシステム実装要因などが上げられるだろう。(正確には、振り返りをするような段階になってからは、現場をほとんど外れていたので、これは自然創発的に一緒に働いている方々がやってくださっていることである。素晴らしい取り組みだと思う。)

勝ち施策1本あたりの売上向上額

 にべもなく言えば、現在の売上やトラフィックが要因のほとんどすべてだと考えている。これはデータサイエンスという分野の性質上、仕方ないだろう。

ROI

 期末に考えればいいことなので、期末に考えることにしている。もちろん、施策単体について成功時の売上向上額に対する試算をつける、粗々な工数を見積ることは常にやっているが、その中である程度は自由にやらせてもらっている。
 なお、勝率の試算はやらないことにしている。というのは、勝率は定性的な議論によってある程度の値を担保できていると考えているということである。言い換えれば、無理に数値化しようとすることはやめているということであり、またその根拠は先程の組織的学習であると考えている。期末に勝率を振り返る必要はあるだろうとは考えている。

おわりに

 以上ざっと思い出す形で振り返ってみて、よくやってるなというよりは、まだまだむしろ出来ていないことがたくさんあるなと感じた。以下に記すことにする。

  • 戦略的要素、組織設計的要素が弱い
     一応、組織設計概論(波頭亮)は買ったのだが、あまりの複雑さにこれを理解してやりきるのは非現実的だなと思い諦めてしまった。エッセンスだけ抜いて組織に適用するというのもできるとは思うのだが、そこまでの道のりを考えると挫折してしまった。これは課題として受け止め、どこかではチャレンジしなければいけないだろう。

  • 計測可能にする積極的努力が足りない
     定着させたり、要点を抑える努力はしているものの、計測できなければ改善は出来ないので、積極的に計測できないかを考える必要があるだろう。文化として定着させようと頑張っていると捉えることも出来るかもしれないが、そもそもあまり真面目に計測しようとする努力をしていなかったのも事実である。

  • 経験的蓄積に頼りすぎているきらいがある
     自分の仕事をスケールさせることを目的としてマネジメントしてきたこともあり、ベストプラクティスよりはだいぶ経験的蓄積に依拠したマネジメントをしていたことに気づいた。固めの古典に触れる時間を年末年始は取ろうと思う。

  • より大きい視点を持つ必要がある
     本当はデータを収集・蓄積をしてくれる組織がないと仕事がとても立ち行かないのだが、その点については全く考えていないので、自身の設計したKPIは実は全社的にはいびつなものになっていると思われる。そのあたりを包含してちゃんと辻褄を合わせることはやるべきだろう。

 私はマネジメントはあまり得意ではない。けれども、一年間色んな人の助けを借りながらやってみて、自分なりに貢献できたと思っている。先人の知恵や周囲の支援や方法論は本当に偉大であり、今後も積極的にチャレンジしていきたい。


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