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今日が最後の一日なら何をする? 「今」の大切さに気づく質問 #1 人間の本性
伊藤忠商事社長・会長、日本郵政取締役、中国大使などを歴任し、稀代の読書家としても知られる丹羽宇一郎さん。その豊富な人生経験をもとに、「人間とは何者なのか?」という根源的な問いに迫ったのが、著書『人間の本性』です。仕事、人間関係、健康、幸福、生死まで、お手軽なハウツー本には載っていない「賢人の知恵」が詰まった本書から、一部を抜粋します。
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人生最後に食べたいものは?
最後の晩餐は何にしますか。著名人にそんな質問をする週刊誌の特集記事を見たことがあります。
私なら毎日食べている白いご飯に生卵と醬油、お漬物と味噌汁だけの食事を望みます。最後だからといって豪勢な料理を食べたいとは思いません。もっとも私だけでなく、特別なものを食したいという人は意外と少ないのではないかと思います。
多くの人は最後に味わいたいものとして、これまでの人生を振り返って一番心に残っているものを選ぶような気がします。それは母親がつくってくれた味噌汁だったり、毎日食べているホカホカのご飯だったり。件の週刊誌における著名人たちの回答もそんな枠におさまったものが少なくなかったように覚えています。
最後の晩餐の問いに近いものとして、人生最後の一日、あるいは最後の一週間に何をするかという質問をここで考えてみようと思います。
あなたなら今日が最後の一日なら何をしますか。
私ならやはり、最後の晩餐と同じで、ふだんと変わらぬ一日を望むと思います。最後だからといって、いままでしたことがない貴重で珍しい体験をしたいということはない。
いつもと同じように早朝に起きて、近くの公園を散歩し、軽く朝ご飯をすませ、仕事をしていなければ、好きな本を選んで読む。ときどき休憩をしてお茶をゆっくり飲んだり、ボーッとしたりする。そんなふうにして一日を終えるのではないかと思います。
「最後の一週間」ならどうする?
これが一日ではなく、一週間だったらどうするか。
一週間でも基本的に変わらないと思います。ただ時間の余裕が一日よりはあるので、これまでお世話になった人に順番に会って御礼をいうかもしれません。
最後の晩餐であろうと最後の一日であろうと、いつもと変わらぬ日常の延長でいいと思うのは、何気ない日常、凡庸に思える日常が、実はものすごく非凡なものだということを意味しているのではないでしょうか。
ふだんわれわれは日常のそうした面になかなか気づきませんが、この世に生を享け、生きた時間を過ごしていることは、奇跡的な確率で起こっていることだと思います。
「今が大事」ということはよくいわれますが、言葉だけではピンとこなかったりします。ですから「最後の一日をどう過ごすか」、つまり「最後」を意識して、自分の人生を見つめてみるのはいいことだと思います。
そうすれば切実に「今」という時間を見つめることができます。それによって何気なく過ごしている「今」の大切さを、心から感じることができるはずです。
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