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ミシュランが「あいつ選ばなきゃヤバいよね」と思う店をつくる #2 本日も、満席御礼。

登録者数40万人超の人気料理チャンネル、『鳥羽周作のシズるチャンネル』でおなじみの鳥羽周作さん。『本日も、満席御礼。』は、スターシェフへ登りつめた鳥羽さんの意外すぎる経歴や人生哲学、成功の秘密が明かされる初めての本。豪快な笑顔の裏に隠された、プロの魂に感動すること間違いなしの本書より、一部を抜粋します。

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ついにチャンスがめぐってきた


ついに僕は雇われシェフの限界を感じて、辞めさせてほしいと話をしました。組織の中でやれることはやり切ったという感覚があり、モチベーションを保つことが難しかったんです。

お店はすでに「僕が辞めたら誰も継ぐ人がいない」という状態になっていました。僕の個性が強すぎたからです。「鳥羽さんのあとにシェフをやっても絶対に輝けないから、やりたくない」という空気になっていた。
 
社長は「だったら、鳥羽さんに買い取ってもらったほうがいいかもしれない」と言ってくれました。僕がお店を買い取って新たにお店を始めてはどうか、という提案でした。

今思うと、この提案がすべての始まりでした。その意味で当時の社長には感謝しています。
 
僕も折角のチャンスがめぐってきたので、「だったら、この同じ場所で、同じ条件で、売り上げを3倍にして、雇う人数も倍くらいにしてやろう!」と覚悟を決めました。親父に実家を担保にお金を工面してもらって、新しいお店をスタートすることにしたんです。
 
親父と一緒に大金を借りた。このときの不安と期待が入り混じった感情は今でも忘れません。

「sio」の誕生とミシュラン獲得


新しいお店の名前は「sio」にしました。

ファッションブランドは「Supreme」や「SOPH.」など「S」から始まるブランドが好きだったので、なんとなく「S」から始まる名前がいいなーと思っていました。あとは電話に出たときに「はい、○○です」と言いやすいもの。だから2、3文字がいいな、と思いました。
 
「2文字か3文字で、Sから始まる名前」という条件をもとに1日で決めようと思って、考えました。そして「ああでもない、こうでもない」と考えていたときに「シオって2文字だしいいじゃん」と思いました。
 
僕の料理は「味がしょっぱくない」というのが特徴です。僕には「塩味は味じゃない」という持論があります。素材を活かすために、素材の味に「輪郭」をつけるのが塩。主役はあくまでも素材の味です。

「塩」というのは、あらゆる素材に輪郭を与えるという意味で、店名としていいんじゃないかと思ったんです。
 

sioでは、音楽のチョイスから内装まで自分のやりたいことをどんどんやっていきました。すごい料理が出てきて、音楽もすごくイケてて、めっちゃカッコよくて、センスがいい。Grisでも料理はかなり自由にやっていましたが、料理以外の部分でもバチンと覚醒したんです。
 
新しいお店をつくるにあたって決めていたことがあります。それは、ミシュランをゴリゴリ目指しているわけではないけど、カッコよすぎてミシュラン側が「これは選ばないといけないな」と思ってしまうようなお店をつくる、ということです。
 
ミシュランの星を獲るお店は、たとえばテーブルクロスがあって、メニュー表があって、ワインリストがあって……というように、総じてきちんとしているという僕なりのイメージがありました。

でも僕はそれをぜんぶやめることにしました。ワインリストをなくして、テーブルクロスもなくして、音楽はぶっとんだものをかけて。すべてにおいて尖ったお店をつくりました。それでもいつも満席で、「もう、あいつ選ばなきゃヤバいよね」と言われるような状態にすると決めたんです。
 
結果、1年でミシュランを獲りました。正直めちゃくちゃうれしかったし、報われた気がしました。
 

sioはオープンして4年目ですが、これまでほぼずっと満席です。ほぼ途切れていません。僕はこの「満席」にこだわってきたんです。それは「独立したみたいだけど満席じゃないよね」と言われたくなかったから。

最初のころは、満席にするために自分でお金を払ってでもお客さんを入れていました。親を呼んだりもしました。
 
満席にならなかったことに対しては、いくらでも言い訳ができてしまいます。「給料日前だし」「暑いし」「豪雨だし」とか、なんでも思いついてしまう。

だからこそ、それを一回でもやったら終わりなんです。言い訳をしないためにも、絶対に満席にしないとダメ。それが勝者のメンタリティと自分に言い聞かせて超フルコミットしていました。

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本日も、満席御礼。


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