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「現代の賢人」が教える、心を強くするたった1つの方法 #2 人間の本性
伊藤忠商事社長・会長、日本郵政取締役、中国大使などを歴任し、稀代の読書家としても知られる丹羽宇一郎さん。その豊富な人生経験をもとに、「人間とは何者なのか?」という根源的な問いに迫ったのが、著書『人間の本性』です。仕事、人間関係、健康、幸福、生死まで、お手軽なハウツー本には載っていない「賢人の知恵」が詰まった本書から、一部を抜粋します。
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単純なマニュアルは存在しない
「心はどうすれば強くなりますか」。取材などでそんな質問をたまにされることがあります。
質問者はまるで体を鍛えるのと同じように、心にも鍛え方があるのではと考えている節があります。
しかし、こうすれば心が強くなるなどといった単純なマニュアルはどこにもありません。
そもそも心とは何? 心はどこにあるの? それすらもはっきりしていません。近代以前なら、心臓のあたりに心があると思っていた人もけっこういたことでしょう。
いまでは脳神経の複雑な動きによって心という現象が起こることがわかっていますが、その脳の活動だって、手や足など体のさまざまな部位の動きや血液の流れといったものと密接に関係しています。
そうすると独立した脳だけを取り出して、これが心をつくっているとはいえなくなる。つまり生命活動のすべてと心の動きは、オーバーラップしているともいえるわけです。
となると、体を鍛えることもまた心を強くするといえそうですが、体を鍛えている人を見ていると、必ずしも「文=武」ではないことがわかります。
ただ、漁師や農家の人のように、主に体を使って仕事をしている人を見ていると、都会の人間にはない心の強さもあるのはたしかです。それは厳しい自然を相手に、それこそ地に足をつけながら一生懸命に仕事をしていることからくるのではないかと思います。
仕事や生活のなかで疑問が湧いたり問題が起これば、それを自分の頭で考え、体を動かさなくては解決しない。ぼんやり見過ごしたり、人任せにしたりすると、命の危険にさらされたり、生活が丸ごと崩れてしまう重要な問題も少なくないでしょうから、気がなかなか抜けない。
都会人にはない強さが彼らにあるとすれば、日々のそうした繰り返しが、彼らをタフにしているのだと思います。
「自分は強い」と思ったら弱くなる
ネットでたくさんの情報を仕入れ、本を読んで知識を蓄えても、それだけで心が強くなることはありません。やはり、生きていくなかで疑問や問題にぶつかったら、自分の頭で考え、解決して前に進む。そうやって幾度も幾度も考えたり体験したりすることによって、人は強くなっていくのではないでしょうか。
ただし、どういうことを考え、具体的にどんな経験を重ねると心が鍛えられて強くなるというマニュアルはありません。必要なのは、常に自分なりのベストを尽くすことです。
私はアメリカ駐在時代に24時間フル稼働といってもいいくらい働いていたことがありました。
それこそ週末の休暇もとらず、毎日寝て食事をする以外はすべて仕事で埋まっている状態でした。時差の関係で早朝は欧州とやりとりをし、夜は日本が相手。お酒と睡眠不足で体を酷使しながら仕事をしていることもしょっちゅうでした。このときの経験で「俺は仕事量では誰にも負けない」と思えるほどの自負心を持つようになりました。
仕事や人生にはトラブルがつきものですが、そんなトラブルもまた心を鍛えてくれます。問題が起きたときに逃げたりせず、解決しようと努力をし続けることは、心を強くすることにつながります。
どんなトラブルに対しても真正面から力を尽くして取り組めば、必ず心は鍛えられるのです。
かといって、面倒な問題をいろいろ経験したり、あるいは仕事でベストを尽くして頑張ってきた人が「俺は仕事でさんざん鍛えられた。だから強い」などと思ったら、そこでお終いです。
強いと思った時点で夜郎自大の自負心となり、その人の心の成長は止まるのです。
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