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待てメロス!基本お前が悪くないか??【どっしり国語塾】
こんにちは。どっしり国語塾担当講師のこうめいです。
どっしり国語塾では学校で習うような有名な作品を中心に普通とはちょっと違う目線で作品を見ていく『ここが変だよ!名作集』というタイトルで、作品を深堀してみようと思います。
このnoteでのシリーズは大人も子供もどちらも読んでもらえるようにしています。
なお、この授業の目的は、視点を変えることでいろんな見え方が変わることを自覚し、多角的に物事をとらえられるようになることです。
これが正解じゃ!!!という一方方向の押し付けの学びではなく、いろんな方向から物を見ることでコミュニケーション力をぐググっと上げていきましょうね。
それでは今日のテーマは、太宰治の『走れメロス』をテーマに取り上げていきましょう。引用の本文は青空文庫を参考にしています。
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。
めっちゃ有名な一文ですね。
いきなりキレているメロス君。物語としてはぐっと引き込まれる書き出しで、太宰治ってすごいな!!と思わされるところですが、今回は太宰治ではなくあくまでも登場人物に注目しながらいきます。
ご存じの通りこのメロスなんですが、ただの牧人です。笛を吹き、ヒツジと遊んで暮らしてきています。
そんなメロスが、妹の結婚式のために大きな都会に来てそこの王様が「やばいやつだ!!」と聞いた瞬間に王様を暗殺に向かう話なんですね。
うーん。え?まって、買い物はどうするの??妹さん待ってるんじゃないの??
しかもこの王様の情報を聞き出すために、
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。
お、おじいちゃーん(泣)
路で若い衆を捕まえたのに情報を聞き出せなかったからって、おじいちゃん捕まえて思いっきり脅すのやめないか!!!
この時点でメロスの性格がだんだん見えてきます。実は王様以上にメロスやべーやつなんです(笑)
そしてこの作品は、やべーけどパワフルなメロスに振り回されて物語がどんどん進んでいくわけなんです。
メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏(じゅんら)の警吏に捕縛された。
待ってくれ!!!!
さっきまで、「かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬ」なんてかっこいいこと言っていたのに、買い物を背負ったままで、王の城に真正面から直撃したの???
そして、馬鹿正直に捕まったの???何しに行ったの??
これは王様や周りの警備の人間から見ても冗談のようなやべーやつが来たとしか思われない事件です。
もしかして、王様は人を殺すと町の人に言われていたけど、メロスみたいなやべー人がたくさん王様を退治にし来たならちょっと王様に同情してしまうレベルです……。
そんなメロス、王様の前に引っ立てられて王様と問答を始めます。
王様を退治して市民を救うと言い張るメロスと、裏切られ過ぎて人を信じられなくなった王がバチバチに言い合うわけですが、ここでメロスから驚きの発言が出ます。
「ああ、王は悧巧(りこう)だ。自惚(うぬぼ)れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
まじか……。
さて、ここで本来の目的である「妹の結婚式の買い出し」を思い出したメロスは、王様に初回を三日待ってもらい妹の結婚式をしたいと頼みます。
そりゃあ、王様もびっくりです!私もびっくりです。
覚悟して王様の暗殺に行ったのに、妹の結婚式したいから家に帰して!と言っているわけですからメロスは自分がしでかしたこのと重大性に全く気が付いていないのかもしれません。
そんな周りがドン引き状態の中、空気を読まない男メロスは続けます。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」
ついに登場。最大の被害者『セリヌンティウス』
もう一度冷静に振り返ると、メロスはそもそも王様に何かをされたり巻き込まれたわけでもありません。
ただ、みんなが元気がないことに気が付いて、その原因をおじいさんを脅して無理やり聞き出し、誰にも頼まれてもいないのに王様を暗殺しに無計画にお城に突っ込み捕まっただけ。
王様は完全に被害者です。
にもかかわらず、その王様に「妹の結婚式をしたいから3日間釈放しろ!人質に何にも知らないセリヌンティウスを差し出すから、自分が帰ってこなかったらセリヌンティウスを殺せ」といってます。
えーーーと、私から見て暴君はメロスの方なんですが、皆さんどう思います?
そしてなんとなく気が付くかもしれませんが、この王様、うわさで聞いたり、口で言っているほど悪い人ではないんです。
まず自分を殺しに来たメロスの話をしっかり聞いています。そのうえで正面から向き合って話をし、めっちゃ誠実に対応をしています。
感情的なのは圧倒的にメロスです。
そしてセリヌンティウスは、いい人過ぎて詐欺師に騙されるレベルなのでこれからの人生ちょっと気を付けてほしいレベルのいい人です。
実は走れメロスのお話って、ここまでの登場人物の分析をあまり詳しく見ている授業とかを私は見かけたことが少ないです。
この後のメロスの行動に注目しちゃいがちなんですが、そこだけ見るとメロスは一途でいいやつに見えちゃうから不思議です。
でも、前半のこのやばさを抑えると、後半もメロスにやばさがよくわかります。
では、セリヌンティウスを生贄に釈放されたメロス。その3日間を一緒に見ていきますよ。
メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄ぶどうの季節まで待ってくれ、と答えた。メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。
村に戻ったメロスは、妹と話をつけるとすぐに花婿の家に向かい事情も説明せずに明日結婚式をしてくれとごねだします。
このメロスという男、全く相手の事情を考えない男です……。
婿の方もそれはできないよと断るんですが、夜明けまで説得されて結局メロスに折れて結婚式をすぐに上げることにしました。
可哀そう……。
そしてセリヌンティウスを人質にしているのに、「少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。」と思い始めます。
ごめん。メロスよ。あんたが始めた物語なんだから、あなたがちゃんと終わらせなさい。ぐずぐずするな!!!
と思ったら妹にこんなことを言い始めます。
おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。
どうして、今の状況でそんなに自信満々何だろうこの人……。
そもそもあなた今、村の人に処刑されることかくして嘘ついてるよ?と、ちょっとびっくりさせられてしまいます。
とは言え、このまま逃げ出さないところがメロスの美徳です。まぁ、なんでか毎回大事な時に寝坊するんですが。
ということで、メロス走り出します。
ところが、様々な困難がメロスが城に戻る邪魔をします。結果メロスは疲労困憊で倒れてしまうわけです。
そしてここからの葛藤が非常に長い……。基本的には、私は頑張ったのだから仕方ないだろ?と自分に言い聞かせている内容で、メロスの自分勝手さが垣間見える部分になっています。
私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺(あざむ)いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。
えっと。メロスは不幸ではありません。自分から勝手に王様を暗殺しに行って、無関係の友人を人質に差し出し、時間ギリギリまで寝ていた結果トラブルに巻き込まれているわけです。
まぁ、究極に追い込まれると魔が差すことはありますので、そこまでは責めないですが、なんかメロスの性格がよく伝わってくる部分のように感じちゃいます。
とは言いつつも、最終的にセリヌンティウスを助けるために城まで走り続けたメロスは、感動の再開をします。
うーん。私がセリヌンティウスだったら感動の再開どころかガチギレしちゃうね。もっと早く来いよ!!って(笑)
そんな二人を見て王様がつぶやきます。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」
うん。すごくまともな王様です。
走れメロスを改めてみていて感じるのは、メロスはやばいし、王様は実はいい人なんだけど勘違いされてるんじゃないか?説なんですよね。
そもそも王様、自分を暗殺しに来たメロスを許したり、話をしっかりきいたり、処刑も太陽が本当に沈むぎりぎりまでちゃんと待ってくれてるんですよ。
そこで改まって最初のおじいさんのセリフを見てみると、
「王様は、人を殺します。」(中略)「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」(中略)「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣を。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」(中略)「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。……(省略)
これ、反乱の恐れがある人間を処刑していっているんですよね。
確かに人をどんどん殺すことはいいこととは言えませんが、王様の立場というのはカンタンに命を奪われる立場にいる。ということでもあります。
むかし、ある王様が「王様の気分を味わってみたいか?」と部下に聞き、「はい」と答えた部下を玉座に座らせその頭上に細い糸で天井からをつるした。
そんな話がありますが、王様ってそれくらい紙一重で生きているわけです。
だから警戒心が強くなりすぎて、攻撃的になってしまった王様というのが過去に何人もいるわけですね。逆に殺されてしまった人もたくさんいますし。
そんな環境にいると、平常心ではいられないのでしょう。実際王様もメロスに、
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」(中略)「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」(中略)「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
このようなことを最初言っています。
ここから推測するに、先ほど名前が挙がった何人かの中に実際王を殺そうとした人がいたのかもしれません。
少なくともそう疑われる何かがあったのは間違いないでしょう。
そういうのを無視し、自分の正義感や感情のまま突っ走ったメロスだからこそ、王様を巻き込んでこんな大騒動を起こせたのでもあり、王様も、こいつは信用してもいいなと思わせたのかもしれません。
まぁ、どんなにメロスが英雄であろうとも、メロスの周りにいる人たちは常に大変でしょうけどね(笑)
ということで、普段友情物語として読まれることが多い走れメロスですが、違う視点から見るとこんな見方もできます。
国語を学ぶということは多角的にものを見れるようにするということ。
それは、いまの時代に本当に必要な力で、その力は文章を違う目線で見ることでも練習ができます。
ぜひ、みなさんも教科書に合ったような文章や子供のころ読んだ文章などを中心にもう一度読み直してみてください。
学生時代に学校の先生が話していたのとは違う視点で、物語の世界が見えてくるはずですよ。
今日はここまで。
どっしり国語塾はまもなく開講予定です。もうしばらくお待ちください。
実践読書勉強会として孫子の兵法を現在授業で取り扱っています。よかったらお越しくださいね。
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