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共同親権|掌編小説 「月の色」シロクマ文芸部

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月の色さえ、妻と話し合って決めなければならない。

妻といっても、とうに見切りをつけられた身。書類上はともかく、元妻と呼んでもいい状態。私が浮気をしたとか明確な理由はなく、仕事にかまけてすれ違いが続き、気がつけば修復不能に陥っていた。

女性は共感を求める生き物だという。夫の帰宅を待ち構えている妻のマシンガントークを、私は常習的に聞き流した。
「その話オチある?」「解決策、はっきりしてると思うけど」
うっかりもらした本音が彼女のかんに障り、刻々と爆弾が形成されていったようだ。まるで花火玉の中に詰める火薬のかたまり、星のように。

私たちのあいだには、娘がひとりいる。この子がいなければ、すっきりさっぱりお別れできただろう。
2年後に導入されるという共同親権の制度を、自分たちなりに採用してみないかと、妻は妙な提案をした。

いやになって別れるのは、大人の問題。だが、子どもにとってなにがしあわせか、真剣に考えるきっかけになるという。
離婚にまつわる手続きよりも、娘に関する取り決めを相談するのに倍以上の時間を費やした。

一緒に暮らす予定の彼女が単独で決めていいのは、急を要する医療行為や塾の選択、短期の旅行など日常のこと。
進学、就職、転居やパスポート取得。片親との面会の頻度、養育費。重要なことは、元夫婦である私たちが話し合う。養育計画書まで作成させられた。

「離婚してまで顔を合わすの、いいのか?もしかして、迷ってんの?」
妻は宇宙人でも見るような目をした。
「娘のためです。親がゴタゴタしてると、愛情に飢えて将来不幸になるから。あんたにこれっぽちも未練はございません」
甘い考えだったようだ。
「ね~?月ちゃん」
彼女はとびっきりのやさしい声で、トイプードルの頭をなでた。

(おわり)

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#シロクマ文芸部 #月の色 #小説 #掌編小説

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