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金色に負けないお茶会|掌編小説 シロクマ文芸部

702字

金色には特別感がある。
折り紙セットに一枚だけ入っていて、あとで使おうとたいせつにしまっておく。シワや折り目がつかないよう、指紋でベタベタ汚れないよう、特別待遇。

「あのさあ、あたしも一枚しかないんだけど?扱い雑すぎない?」
さをりは窓辺に目をやる。庭の秋桜がさらさら揺れている。たぶん、その歌声だ。
「おお~い。もしもし?無視されんのは慣れてるけどさあ、あからさますぎ」
紙と紙がこすれる音。凪いだこころでしか拾えないささやき。
銀の折り紙が満足そうに光ったのは、さをりがその正体に気づいたからだろう。いつの日にか使うつもりでよけている金銀二枚。その日は永遠に来ぬまま、しずかに寝かされる眠りの森の銀姫。

久しぶりにパーティーでもしようかな。だれの誕生日でもない、でもいちどしか来ない今日という日を祝って。
小枝のチョコレートは銀の包み紙。板のホワイトチョコは、まるかじり推奨。銀色に輝くドイツ製のレースペーパーに、サクサクのビスケットをのせて。シルバートレイには、つやつやの藤稔ふじみのり(ぶどう)をスタンバイ。

「やっとあたしの魅力に気づいたわけ?おそっ」
欠けたり色褪せたりするのがこわくて、しまい込んでいたティーセット。手にとると、彼らもうれしげに武者震いしている。

おしゃべりな銀嬢に手を伸ばし、慎重に折り目をつける。
やり直しはきかない。細長く切って輪っかにしてつなぎ、テープをぺたり。ホッチキスで留めるのもアリだけど、叫び声が聞こえそうだからやめておく。プリンセスのお供には、淡いうぐいす色や、薄桃、粉雪色を。ひかえめな輝きは上品にゲストを迎え入れる。

最近仲良くなった、花の名前の彼女を招こう。しろがねのカトラリーに笑顔を映し、クランブルアップルケーキの出来ばえに声を弾ませて。
それは今朝、秋の風が決めたことだから。

(おわり)

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藤家 秋
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