第二十五話 新体制
「――で、ここから聞いていて大体わかったけど呼び出しは何だったの?」
ケイカの秘書をしているアキが所長室から出てきた俺に聞いてくる。
「昇進した」
「やった!今日はお赤飯だね!おとっつぁん!」
昇進して少尉になった。
はっきり言って、他国と戦争するわけでもないので、国防とか自衛隊とか軍とかを意識していないし昇進と言ってもあまり嬉しくもない。
昇進したら給料も上がるのかな。よくわからん。
財布はセイカに全部握られているので、俺が一体いくらの資産を持っているのかわからない上に貯金は家族ひとまとめにしているということだ。
セイカに聞くと「お金に心配しなくていいくらい持ってる」と言っていたけど、そりゃ上二人の娘は40年近くここで働いていて貯金がないわけないだろう。
特に浪費しているような節も見当たらなかった。
俺も自分の為にお金を使う事はほとんどない。せいぜい食費と酒代くらいか。
今はデバイスを与えられているので、現金を持たずともキャッシュレス決済で買い物ができるが、何に使ったか筒抜けなので迂闊に浪費はできない。
「家に小豆がない。あともち米も」
本当は前の晩からもち米と小豆は水に浸けておきたかったけど、手早くできるレシピで調理するか。
「んじゃ、あたし食材は注文しておくね!帰りの時間はいつもくらいになる?」
デバイスでスケジュールを確認する。珍しく午後は全部空いているな。
「それが午後から実家の片付けをするから一旦帰るよ」
「え?何があるの?」
「実はな……」
・・・・
「ええーっ!?」
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たった今、拘束されているイジーとの面談を済ませた。
次はSAVのミーティングルームへ行く道中だ。
イジーは薬で洗いざらい吐かされ、供述書を見たが中々のものだった。
今、彼は手術室で改造されている頃だろう。
別にショッ○ーにされるわけじゃないぞ。
『お父さん、移動しながら聞いて、大変なの』
「どうした?またスクランブルか?」
『違うわ。今日の目標消費カロリーなのだけどこのままだと達成できないわよ』
え?そんな大変なことだったか?
「そういや今朝はランニングできなかったもんな」
『そうよ、私、はや…いえ、一応メニューはこなしてもらわないと困るわ』
「ふむ、では夕飯後に走ろうかな」
『何時くらいになるかしら?』
……ここまで質問してくると流石に察した。今朝のランニングでのセイカとのコミュニケーションが取れなかったから穴埋めを要求している。
「大体20時位かな。今日は少しルートを変えて走りたいな」
『――! わかったわ!こちらでルート設定しておくわね』
「ああ、頼んだよ。今日は少し位いつもより長い距離になってもいい」
『そうねぇ。景色の良い所を選んで……』
「セイちゃん」
『どうしたの?』
「時間はゆっくりとってくれていいから。途中休憩とかも入れて」
ここまで言うとセイカも俺が気付いている事を察したのだろう。
『……もう……少し恥ずかしいわ』
「いいよ。そんなところも可愛いのだから」
『きゅう~~~~~~』
「アキの真似してやるなよ」
『ふふふ、ではまたスケジュールの確認をしておいてね』
セイカがデバイスの画面から消えた。照れていたのか。
――ミーティングルームの前に到着。
一応ノックしてから入室すると、すでにケイカが居た。
目が合い、俺が頷くと少しだけ笑顔を返してくれた。
部屋には、俺以外全員揃っていた。
すでにケイカが居るので雑談などはなく、静かに待機していたようだ。
「全員揃ったな。まずは連日の作戦ご苦労だった。誰一人欠けること無くここで会えた事を喜ばしく思っている」
俺と話すときのような空気はなく凛とした姿勢で話し始めた。
親としては子供の成長を間近に見る機会があって幸せだ。かっこいいぞケイちゃん。
子供側からすると、たまらなくやりにくいのだろうけどね。
「今回集まってもらったのは先の作戦の結果から編成を変更するものである」
「ライドルト・シュラウザー……は、もうここにはいないが、本日付けでSAVから脱退、秘書室業務並びに要人警護の任についてもらうことになった」
「そしてオギツキアキ、貴官はSAVへの入隊を命ずる。所長秘書はライドルト・シュライザーに引継ぎ完了後、解任とする」
ライドルトは前回全然役に立たなかった件でSAVを脱退させられた。もうこのミーティングルームに来ることはない。
そして、アキは複雑な顔をしている。
自分の娘がこんな血生臭い実戦主体の部隊に入る事については俺も複雑な気分だ。
「それとオギツキアツシは少尉、並びに富子・シャンボンは一級軍曹に昇進したので、全員敬称を間違えないように注意しろ」
「所長~すいませーん」
アキが手を挙げてケイカに質問をする。
「なんだ」
「あたしSAVに所属するってことは執務居室もおとーさんと同じところですか?」
「……オギツキアキ、今後はこういった場所での言葉遣いも教えてもらえ。質問の回答だが、オギツキ少尉の執務居室はSAV居室から所長室に変わる。今後は私の傍で護衛をしながら業務にあたってもらう。貴官の業務はSAV執務室へ異動となる」
「…………」
「しょ……」
「職権乱用だー!」
アキがキレた。座っていたデスクに拳を叩きつけて真っ二つに破壊した。
SAVの全員が銃をアキに向けた。
俺は迷わず向けられた銃の前に立ちアキをかばう。
「おとーさん、もう大丈夫……ごめんなさい。力の入れ加減を間違っちゃった。質問は以上です」
ぶっ壊れた机を前にして、アキが座りなおした。
SAVの全員警戒していたが、一気に緊張が解けた……と言うかひいていた。
よく我慢したな、アキ。
……果たしてこれは我慢と言うのか?
どっちにしても、ここで暴れたらまた俺は全員が見ている前で娘にセクハラをするか、アキを庇って撃たれるかだった。
「……オギツキアキ、後で所長室まで来るように」
「はーい」
社会人なら余裕で不合格な上司への適当な返事だ。
まあ、アキの顔には「超不服!」と書いてあるくらいわかりやすい表情をしていた。
「――では、昨日起こった、帰還者四五口宗助の発現についてと地点U-6の調査から襲撃を受けた件について共有する」
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「終わったー!チクチョー!」
アキは仕事を終えた開放感を全身で表している。
今は午前の業務を終え、組織内の食堂で二人昼食をとっているところだ。
「ケイカ姉さん、予定がいっぱいだったらしくて、あたしに説教し足りなさそうな顔をしながら他の会議に行っちゃったよ」
先の報告会で会議机をブチ壊してしまったアキは会議室の掃除で本日の業務が終わってしまったらしい。
怒っているケイカの顔が目に浮かぶ。
「そのおかげで結局あたしの仕事片付かなかったけどさー、明日からライドルト君に引継ぎするから進めておきたかったなぁ~」
「ん?まだ遅くないぞ。戻るか?」
「そうは言ってない」
「そっか。じゃあ一緒に帰るんだよな?」
「そうだね~納得いってないけど同居人が来るんだし、晩御飯の準備したいし、部屋の掃除とかもしないとね……はぁ~、おとーさんとの二人暮らしの終了か~」
「今まで面倒を見ていたイジーがあんなことにになってしまったからな。誰かが面倒を見てやらないと可哀そうじゃないか」
そう、うちの実家にライドルトが住むことになった。
前回の作戦で処分となり居場所が無くなってしまう事はわかっていた。
だが、元SAV所属という立場上退職もできない。
上層部では“情報漏えい防止のため、処分(殺)してしまっては?”と言う意見も出ていたのを知っていたので、俺の補佐として傍に置いて監視、という事にすればと思い進言した。
情報漏えいに関しては実際イジーが前例を作ってくれたしな。
もしライドルトが何か怪しい事に関与、実行した時、俺がライドルトを殺すと言う約束になっている。
「むぅ~納得いかないなぁ~」
よほど俺と二人が良かったのだろうか、アキは頬を膨らませてむくれている。
むくれた顔も可愛いな。
アキの方もフォローしておかないと。
「俺もアキと二人っきりだと気が緩んでいたからな。ライドルトが来たら家でも気を引き締めないといけない。だから今日から寝る時は同じ部屋で寝よう」
気を引き締めて娘と一緒の部屋で寝ようとか、何がだよ?と突っ込まれそうだが、代替案をもってライドルトがいる前では示しがつけれるよう、あまりくっつかないようにしなければいけない。
「えっ!?ずっと?いいの??どうして??」
「アキ、今まで言わなかったけど毎晩俺の布団に潜り込んできただろう?」
「うん、今更だよね。状況が変わってもやめないけど」
自信満々でやめないと言っているが、もう本人はおかしい事だとは思ってはいないことだろう。
「だから最初から一緒に部屋で寝ている事にすれば“アキが毎晩俺の寝室に忍び込んでいる”という事にはならないだろ?」
もちろん布団は二つ用意する。
まあ、年頃(?)の娘と一緒の部屋で寝ていると言うのも色々アウトな気がしているのだが……。まあ“娘と一緒の布団で寝ている”よりはマシな気がしている。
俺おかしなこと言っているか?
「そっか!ライドルト君に示しがつかないからね。それなら“一緒に寝てますが何か?”ってことにするんだよね!?」
「んっ?」
「んっ??」
今の解釈で俺とアキは噛み合っていたのだろうか。
倫理観とは何だ?
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最後までお読みいただきありがとうございます!
こちらの物語は『俺の仕事は異世界から現代社会に帰ってきた勇者を殺すことだ【フルダイブVRに50年。目覚めた俺は最強だと思っていたけど、50年後に再会した娘の方が強かった話】』
というお話です。
一話から読んでもいいなと思われましたら、以下よりご覧いただければ幸いです。