第二十二話 家族風呂へ①
日の出まであと二時間もないがひとまず就寝する事にした。
俺の横にはアキが寝ており、さっきも看護師さんから怒られたばかりなのに起床時間に見られたら、また怒られそうな気がしてならない。
就寝前にセイカから送られてきた変更後のスケジュールを確認しておく。
“午前中はこの病院で検査、問題なければ退院して……
――午後から温泉?家族風呂?“
。・゜・。。・゜・。。・゜・。。・゜・。・゜・。。・゜・。
――現在、目的の温泉地に向けて車で移動中だ。
午前の検査で分かったことは、俺もケイカも体中負傷する以前に戻ったという事だけだった。当然この情報は病院に対して口止めしている。
おまけにセイカの壊れていた機械の指の部分まで元通り治っていて、全員戦慄した。
一体これはどうなっているのか……わからないことだらけで正直気持ちが悪い。
今こうやって考え事ができているのは、移動中だという事、俺の左側に居るアキは俺の腕に絡んだまま寝ている。
そして右側に居るセイカ(ロボットの方)は俺の手を恋人つなぎで握っているのだけど、本人(?)は仕事中で会議、解析、監視といくつものタスクを同時進行しているから「今こちらにリソースを避けないからスリープモードにするわ」と言って以来、動かなくなってしまった。あ、この車も運転してもらっているんだった。
あと昨晩、寝ている幼児のセイカをここまで連れて来てくれたようで、今はチャイルドシートで寝ている。
唯一俺に絡んでないケイカは助手席でオンラインミーティングをすると言ったきり黙ってしまっている。
だが俺は決して手持無沙汰ではない。なぜなら両手が塞がっているからだ。身動きは取れない。
だから考え事するしかない状態なのだ。
昨日の話を思い出す――。
・・・・・・・
・・・・
・・・
アキが病院に来るまでの間、俺はケイカより先に処置を終えて病室のベッドで寝ながらデバイスでセイカの話を聞いていた。
空港で起きた戦闘の処理や元デッドヘッズ、イジーの事にその雇い主について。
『決定的な証拠を手に入れたわ。アキがヒートレイと言っていた光の魔法の発生源はN国から放たれたものよ』
組織の監視衛星から撮られた画像がデバイスに送られてきた。
地球の大部分が見える位置にいる衛星からの映像だ。
N国から日本の釧路付近まで光の軌道が派手に伸びている。これは言い訳のできない証拠となるだろう。メディアに出てしまえば国際問題にまで発展するかもしれない。
ここからの話は政治屋の仕事だろうな。俺たちに出番はない。
「帰還者の潜伏先がこんなにわかりやすく追跡できるような行動ができるのだろうか」
当たり前の疑問をセイカにぶつけてみた。
『AI判定で潜伏先を混乱させるためのダミーだという確立が78%……まあ世界中で拡散されるような派手な映像だからダミーの確率が高いわね』
結局黒幕の国についての情報はわからずじまいという事になるのか。
「そりゃそうだよな。この光を放ったのは誰だが分かってるのか?」
『さっきも言ったけどアキから聞いた話では“ヒートレイ”という光に入った対象を熱光線で蒸発させる魔法で攻撃範囲が超長距離で出すことができるのが特徴らしいわ。N国から釧路まで1200kmはあるから、プチ大陸間弾道ミサイルみたいなものね。そしてこれが拡大映像よ』
デバイス上の映像が更新された。
映像には光を放ったと思しき青年が映っている。
『お父さんは会った事がないけど、資料で知っているでしょう?』
「ああ、こいつは剣干賢人(けんぼしけんと)だな」
『ええ、逃走した帰還者グループのリーダー的存在ね。この攻撃後どうなったかは不明だけど、アキが魔法を使って負傷させたそうよ』
「どうやって?」
1200km先から攻撃してくる剣干についても相当な脅威だが、その攻撃をしてきた剣干に反撃できるアキは世界にとって最も脅威な存在かもしれない。
大丈夫かなうちの子……命を狙われたりしないよな……。
『アキに聞いたけど全く原理が分からなかったわ。なんでも攻撃してきた主の魔法に触れることで、反撃ダメージを負わせることができる魔法なんですって。この魔法を受けた相手がどうなったかは、これを見てくれればわかるわ』
今度はデバイスにグロ画像が出てきた。これは左陶(さとう)だな。
「アキが剣干に対して使った反撃魔法と同じもので、これは魔法を受けた左陶よ」
「……全身血まみれじゃないか。これをアキがやったのか、よく生きてるな」
場所は森の中、くまさんに出会ったらさあ大変だ。
『大けがした左陶はこの後、仲間に回収されて逃走したわ』
「どこに逃げたかは……」
『当然N国ね』
「潜伏先の詳細を割り出すことは?」
『今のそのへんを精査しているから、まとまった時に情報公開しようと思っているわ』
剣干と左陶を殺すことはできなかったが、こちらも被害は最少だったと言えるな。
この話は一旦終わりだ。
「――あとイジーの処遇についてと、ライドルト君の今後の事なんだけど……」
『イズライール・ブルースについては今回の事に至った経緯について聞き取り予定よ。お父さんもわかってると思うけど、SAVを裏切った戸籍のない彼には司法にかけられることもなく処理される。あとライドルトは先の任務の放棄、逃亡を図ったとされていて処罰対象として現在本部の試験用特殊拘置室にて待機中よ』
「……二人の処遇について提案があるんだ。セイちゃん聞いてくれる?」
・・・
・・・・・
・・・・・・・
「あーししゃん、あーししゃん!おきるのじかんですよ~」
幼児セイカに顔をぺちぺちと叩かれ、めちゃくちゃかわいい起こされ方で目が覚める。うたた寝していたおかげで良い目覚めができた。毎日これがいい。
「ありがとうセイちゃん!起きたよ~!」
俺とセイカ以外、車から外に出ていたようだ。セイカを抱っこして外に出る。
外へ出ると自然の匂いがして胸いっぱいに空気を溜めて深呼吸した。
ここ数日の忙しさから解放された気分になり、実に清々しい。
「本当は宿泊してゆっくりしたいところだけど、明日からまた忙しくなるから半日間ゆっくりしましょう」
着いた場所は大きな温泉宿、日帰り温泉での利用だろうか。風呂は大好きなのでとても楽しみだ。
「あ-ししゃん、セイちゃんおふろはいるなー」
一緒に風呂入ろうということだな。是非そうしたいが……
「セイちゃん、残念だけどお父さんは男湯だからセイちゃんと一緒に入るわけにはいかないんだ」
「お父さん何言っているの?今日は家族風呂にしてもらったから私達だけの貸し切りよ。だからみんな一緒に入るの」
「え?まじ?」
「まじ」
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最後までお読みいただきありがとうございます!
こちらの物語は『俺の仕事は異世界から現代社会に帰ってきた勇者を殺すことだ【フルダイブVRに50年。目覚めた俺は最強だと思っていたけど、50年後に再会した娘の方が強かった話】』
というお話です。
一話から読んでもいいなと思われましたら、以下よりご覧いただければ幸いです。