何度も聴きたいロック名盤をご紹介 ⑱
アーティスト:ポール・マッカートニー・アンド・ウィングス
名盤:バック・トゥ・ジ・エッグ
ウイングス (Wings) は、1971年に結成された、元ビートルズのメンバーであるポール・マッカートニーと彼の妻リンダ・マッカートニー、
元ムーディー・ブルースのデニー・レインの3人を中心に構成されたロックバンドです。
1981年の解散までに7枚のオリジナル・アルバムと1枚のライヴ・アルバムを発表した。
今回の『バック・トゥ・ジ・エッグ』は、1979年に発表されたウイングスの7枚目オリジナルアルバムです。
その後新たなアルバムを制作することはなく1981年に解散したため、結果的にラストアルバムとなりました。
このアルバムは、ピート・タウンゼント、ケニー・ジョーンズ(ザ・フー)、デヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)、
ジョン・ボーナム、ジョン・ポール・ジョーンズ(レッド・ツェッペリン)、ゲイリー・ブルッカー(プロコル・ハルム)、
ロニー・レイン(元スモール・フェイセス)など豪華メンバーが参加したロック版オーケストラ「ロケストラ」が話題となりました。
このアルバムタイトルを訳してみると「タマゴの頃に帰る」、すなわち原点回帰を意味しているのだと思いますが、
アルバム中にはかつてのポールが書いていたようなポップでノリのいいロックンロール曲が数多く含まれています。
また、「ロケストラ」プロジェクトでのセッションから誕生した一発録りの「Rockestra Theme」や「So Glad To See You Here」といった曲や、
コンセプトアルバム的な構成もあって、ウイングスのディスコグラフィの中でも「Venus And Mars」と並んで聴きどころの多い魅力的な作品だと思います。
"Reception"
ワン・コード進行によるインスト・ナンバーです。「受信」を意味するタイトルの通り、実際のラジオ放送の断片が重なる構成です。
オープニング曲としてワクワクする最高の始まりを感じさせます。"Getting Closer"
ラジオのチューニングが合った所でこの曲がイントロなしに始まる。キャッチーなメロディを持つノリのいいロック・ナンバーで、
ポールの熱気あふれるヴォーカルと重厚なエンディングがかっこいい。
ウイングスの名盤と名高い「Venus And Mars」の1曲目と2曲目のつなぎと同様の構成で、このアルバムも最初の2曲でリスナーをノックアウトさせます。
英国ではアルバムからの第2弾シングルとして、米国・日本では第1弾シングルとして発売されたが、英国で最高60位・米国で最高20位と苦戦しました。
こんなにいい曲が今も過小評価され続けている不遇の曲です。"We're Open Tonight"
アコースティック・ギターによる小曲。リンダとデニーのコーラスが不安定で幻想的な雰囲気を出している。"Spin It On"
当時隆盛を極めていたパンクを強く意識した超高速ロックです。テープを巻き戻すような効果音がスピードに拍車をかけています。
英国ではシングル「オールド・サイアム・サー」の、米国・日本ではシングル「ゲッティング・クローサー」のB面でもありました。ライヴでの再現が難しい曲にもかかわらず、1979年の全英ツアーでセットリスト入りしました。"Again And Again And Again"(デニーレイン作)
デニーが書いたカントリーっぽいポップで、リード・ヴォーカルもデニー。デニーによればバンド全体で仕上げた曲で、
未完成だった2曲(「Little Woman」と「Again And Again And Again」)をポールの提案で合体させた。
枯れた味わいが魅力的なデニーのヴォーカルを、ポールが高音のコーラスで補強しています。
ウイングスの1979年全英ツアーで取り上げられたほか、デニーのソロ・ライヴでも定番となっています。"Old Siam, Sir"
ポールの全キャリアでも稀に見る非常にヘヴィーなロック・ナンバーで、喉をつぶす勢いのシャウト・ヴォーカルを堪能できます。
1976年夏に即興で録音された「Superbig Heatwave」というデモから発展してできた曲で、リンダが弾くキーボードのリフが耳に残ります。
英国では1979年6月1日に先行シングルとして発売されましたが、最高35位止まり。米国・日本ではシングル「アロー・スルー・ミー」のB面でした。"Arrow Through Me"
ミドル・テンポのR&Bで、前年の「しあわせの予感」のようにギターレスです。
米国・日本ではアルバムからの第2弾シングルとなり、米国で最高29位。日本ではウイングスの来日記念盤したが、
発売日の1980年1月20日(予定されていた日本公演初日の前日)にはポールの逮捕により既に公演中止が決定されていた。"Rockestra Theme"
ロックとオーケストラの融合を目指したプロジェクト「ロケストラ」用に書き下ろされたインスト・ナンバー。
メロディやアレンジは極めてシンプルで、23人が同時に録音した迫力あふれる分厚い演奏を際立たせています。
ポールはピアノとアドリブ・ヴォーカルを担当。ポールの誘いで参加したミュージシャンはピート・タウンゼント、ケニー・ジョーンズ(以上ザ・フー)、デヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)、ハンク・マーヴィン(ザ・シャドウズ)、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナム(以上レッド・ツェッペリン)、ゲイリー・ブルッカー(プロコル・ハルム)、ブルース・トーマス(エルビス・コステロ&ジ・アトラクションズ)、ロニー・レイン、レイ・クーパーなど。キース・ムーン(ザ・フー)も来る約束をしていたが、直前に他界してしまった。
1979年度グラミー賞にて創設された最優秀ロック・インストゥルメンタル部門の受賞第1号となりました。
1979年12月29日の「カンボジア難民救済コンサート」では、メンバーを若干入れ替えて復活したロケストラによって2度演奏されました。"To You"
パンクにも似たハードなロックンロールです。シャウトを利かせたポールのヴォーカルが印象的です。"After The Ball/Million Miles"
ゴスペルの影響を感じさせる2曲のバラードによるメドレーです。「アフター・ザ・ボール」は3拍子のバラードで、ポールはピアノを弾きながらソウルフルに熱唱します。
後半の「ミリオン・マイルズ」で使用されている楽器はコンチェルティーナ(アコーディオンに似ているが鍵盤がボタン式)のみです。"Winter Rose/Love Awake"
続いても2曲のバラードによるメドレーです。「冬のバラ」は物悲しいピアノ・バラードで、アルバムでも最もハスキーなヴォーカルを聞かせます。
デニーのコーラスも雰囲気にぴったりです。「ラヴ・アウェイク」は一転して春をイメージさせるアコースティック・ギター主体のラヴ・ソングで、1977年頃書かれたようです。"The Broadcast"
ポールが作ったインストをバックに、詩を朗読する構成となっています。"So Glad To See You Here"
再びロケストラによる演奏です。今度はヴォーカル入りで、ポールは痛快なシャウトと共にベースを弾いています。
エンディングはレプリカ・スタジオでウイングスのみで録音したパートが連結され、ポール、デニー、リンダの3人による輪唱で「今宵楽しく」の一節が歌われます。"Baby's Request"
ポールがお得意とするジャズ・スタイルのバラード。ラジオに思い出の曲をリクエストするという詞作はアルバムのコンセプトに見事マッチしています。
英国ではシングル「ゲッティング・クローサー」のB面でもあった。
以上が今回のアルバム評となります。ロック入門の一助になればと思います。ご参考になればうれしいです。