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[UFC]ラスベガス95、印象的な試合の感想
①●マルチン・ティブラ(8)VS.○セルゲイ・スピバック(9)
※セルゲイ・スピバックの1R一本勝ち(腕十字)
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今回のメインイベントであるヘビー級のランカーマッチ、両者は以前にも対戦した経験があるため、今回の1戦はリマッチとなっている。
前回はティブラの判定勝ちであったが、今回は過去の経験を活かしたスピバックに軍配が上がった。
ストライキング勝負の時間を省略し、早々にティブラを組みの展開に引き摺り込んだスピバックだったが、上手く対処したティブラのカウンターを受け、逆にテイクダウンを奪われてしまう。
下のポジションに着いてしまったスピバックは、ティブラをガードの中に入れながら攻撃を凌ぎつつ、下からの仕掛けを試みるが、警戒するティブラはディフェンスをしながらコツコツと打撃を返していく。
しかし、その隙を突いたスピバックが下から腕十字をセットすると、そのまま返されてしまい、解除することも出来ないままあっさりと極められてしまった。
冷静さを維持し確かな技術を活かしたスピバックが4年ぶりのリベンジを果たし、ティブラを崩すことに成功した。
「重さ」が武器になるヘビー級では、テイクダウンが致命的なものになり得るので、それに対するレスリング的な処理や打撃よりも有利かつ確実なポジションから勝利を狙える柔術スキルなど、豪快で一発がある重量級だからこそグラップリングの技術がとても重要になってくるということが改めて感じられる1戦となっていた。
②○ダニー・バーロウVS.●ニコライ・ヴェレテンニコフ
※ダニー・バーロウのスプリット判定勝利(UFC2連勝)
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カザフの屈強な戦士と無敗のファイターがぶつかったストライカー同士の戦い。
打撃戦で明確なリードを奪えるだけのカードをお互いに持っている分、駆け引きが行われる時間帯が多く、手数はどちらも少ない印象だった。
その中でも明確な印象を与えたのは、バーロウが合わせた左のカウンターだ。
バーロウの左が脅威であることはこれまでの試合で明らかだった為、それを活かすことが出来ないような立ち回りをしていたヴェレテンニコフだったが、前に出ないわけにも行かないので、タイミングを見計らって踏み込んで仕掛けたところをバーロウが上手く合わせた。
ただ、3R目はヴェレテンニコフが押していた印象で、テクニックではバーロウに劣るがタフネスとスタミナではヴェレテンニコフが上回っているように感じられた。
また、ヴェレンテンニコフは攻めるための引き出しを広く使い、バーロウを崩しにかかっていたので、多彩さを感じたのもヴェレテンニコフの方だった。
一方のバーロウは強力な左という大きな武器を持ってはいるけれど、その分有効な攻撃手段を作り出す幅が乏しくなっているように見え、良く悪くもシンプルで分かりやすいパフォーマンスが中心となってしまっているように見えた。
お互いに警戒し合っていたこともあり、試合前に注目していたバーロウのストライキング能力の高さも垣間見える程度ではあったが、一方でヴェレテンニコフの崩しに対処する場面が多くなったため、それに対するディフェンス能力を目にする場面が多くなったように感じる。
そこで感じたのが、フィジカルのある相手にもしっかりと対抗できるグラップリングの対処能力の高さだった。
前提としてバーロウは今回計量に失敗しているので、重量という意味ではカサ増しされたような状態ではあったと思うのだが、それでも左ストレートを放って体が伸びた瞬間に組み付かれるといった、ウィークポイントを突かれる場面でもきっちりと対処し、ヴェレテンニコフに主導権を与えなかったというのはバーロウの上手さなのではないかと思う。
打撃に対するスリッピングアウェーやバックステップだけではなく、簡単には寝かされないだけの組みスキルを持ち合わせているバーロウは、ストライキング勝負から別の展開に持ち込まれても勝負することが出来る総合力を有していることを示していた。
ただ、UFCのウェルター級でさらに上を目指していくとなると、攻防のレベルをより上げていく必要があるだろうと思われる。
押されていた3Rの消極的な印象は力強さを感じさせないところがあり、明確なダメージを負ってはいないにも関わらず結果はスプリット判定決着と、その勝利はギリギリなものとなっていた。
ウェルター級にはヴェレテンニコフ以上の力強いファイターが控えているので、このままではどこかで凌ぎ切れない時がやってくるのではないかと感じる。
果たしてここからUFCで経験を積んでいくバーロウが「進化」して駆け上がっていくのか、それとも「停滞」し行き詰まってしまうのか、その行方にも注目しながら今後のウェルター級を追っていきたい。
③○風間敏臣VS.●ハラランボス・グリゴリオウ
※風間敏臣の2R一本勝ち(三角締め)
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あわやフィニッシュという危機的状況から一本を極めて大逆転勝利を掴んだ日本の風間敏臣は、やっとの思いでUFC初勝利を手にし、意地と覚悟で激闘を制した。
ただ、今回の1戦の内容を振り返ると、これまでの風間敏臣そのものといった感じになっていて、元々得意な組みで優位を作り出すことは出来るが、打撃に対する反応は鈍い、という長短どちらもこれまで通りでさして変化した様子は見られなかった。
つまり、改善や変化という今後に活きる要素があまり感じられなかったということであり、そうなると依然としてUFCで勝ちを重ねていくというのは厳しいだろうということが考えられる。
今回の試合も結果は一本勝ちで素晴らしいものであることは間違いないが、最後の方は三角に対するグリゴリオウの反応やディフェンスも疎かであったようにも感じられたところがあり、対処能力の高い他のUFC選手を相手にしていたら、あの逆転の一手も届かなかったかもしれない。
また、それ以上に問題なのはスタンドで打撃戦となった時に相手の攻撃に上手く反応することが出来ていなかったところだ。
これまでの試合でも打ち合いになるとモロに被弾してしまう場面が目立ち、あっさりと大ダメージを負ってしまうところがあった。
これは非常に不安定な状態を作り出す要素になってしまうので、最高峰の舞台では特に致命的なリスクとなって影響を及ぼすことになってしまうことが考えられる。
ただ、風間敏臣が持つスキルは十分に強いところがあるので、ウィークポイントを鍛えればそれなりに戦っていける可能性もあるだろうと思われる。
しかし現時点ではそこが強化されているようには感じられないので、今後もUFCで活躍していくことを考えると、練習環境や指導者といった部分を変えていくのも手なのかもしれない。
風間が挑戦しているUFCのバンタム級はハイレベルなファイターたちが集う激戦区であるため、今回のような打撃のもらい方をしてしまうと、上へとあがっていくのは間違いなく厳しくなる。
しかしながら今回は劇的な一本勝ちを奪うことが出来た。
そこにはこれまでの風間敏臣が積み上げてきた時間とそれに呼応する執念の働きがあるのではないかと感じている。
その強い気持ちが激闘の中でチャンスを呼び寄せる一つの可能性となって働いたのではないか。
些かスピリチュアルな話のようにも感じるが、そういった劇的な勝利には目には見えないものが影響を及ぼしていたりする。
そういった意地とも言える「背水の意志」がもぎ取った大きな1勝であったのではないかと思う。
今後はこの勝利からMMAファイターとして厚みを増していく風間敏臣の姿と、中村倫也と共に勝ち上がる勇姿が見られることを期待したい。