[UFC283] 激闘の結末
ブランドン・モレノ対デイブソン・フィゲイレードの4度目の対戦はモレノのTKO勝ちによって幕を閉じた。
実力が拮抗している者同士が対戦するときは技術だけではなく、運やツキといったものも勝敗を分ける要素として大きく関わってくる。
それは試合までにその選手が日々積み上げてきた様々な蓄積によって築かれているのではないかと思う。
4度の対戦を通してモレノは常にベルトへ向かって全力の前進を見せて来た。
怯むことなく萎えることなく、王座に手を伸ばし続けた。
一貫してブレが少なかった、というのが結果的に今回のロシアンフックを決める流れに結びついたのではないだろうか。
4度目の正直
戦術的にもモレノは前回に比べてテイクダウンを織り交ぜる機会を増やし、フィゲイレードに警戒心を植え付けながら打撃を狙い、足の幅を狭くすることでカーフキックへの対策も講じていた。
自身のホームで戦ったフィゲイレードは一発を狙い過ぎたのか、モレノの攻撃を対処しながらプレッシャーをかけ続けてはいたのだが後手に回る場面が多かった。
しかしモレノの勝利がギリギリのものであったことは間違いない。
決定的な機会をものにした時点で実力の証明がされているわけではあるが、あの一撃を当てるまでモレノの攻撃は決して良い流れとは言えなかった。
フィゲイレードよりもオフェンシブではあったと思うが、効果的であったかどうかというとそうでもなかった。
その中で常にフィゲイレードのプレッシャーに晒され、いつビッグヒットが生まれてもおかしくないような状況の中でモレノは照準を合わされ続けていた。
グラウンドでもカウンターをもらう場面があり、攻めてはいるがフィゲイレードには通用していない、けれどトップはモレノが取っていたといった感じでポイント的にも拮抗する状況が続き、有効な戦術を見出せないままケージを背負う場面が増えていたのだ。
しかしモレノのブレない気持ちの強さが、追い込まれはじめた状況の中でも前へ出る動きを作り、フィゲイレードを捉える劇的な一撃を生み出し勝利を獲得するに至った。
手堅くフィゲイレードが勝ちにいくかと思ったが、フィゲイレードは攻勢に出る前にモレノに刺されてしまった。
再び手にしたベルトの重さがフィゲイレードの動きやアグレシッブさを鈍らせたのかもしれない。
とにかくUFCフライ級のベルトはモレノがTKOで勝ち取り自分のものにした。
長く続いたストーリーが終わり、新たにフライ級が動き出す。
最後まで戦い抜いたグローバー・テイシェイラ
テイシェイラは恐らくイリー・プロハースカとのタイトルマッチでその力を使い切っていたのだろう。
あの激戦の後、テイシェイラがコーミエに自身の現役続行が可能かどうか尋ねる場面があった。
その時点でファイターとしての限界を実感していたのかもしれない。
43歳という年齢を考えれば当然のことだろうと思う。
驚異的なのはその年齢でまだベルトを争う位置にいたということだ。
そんなテイシェイラも今回のジャマール・ヒルとの一戦では効果的な攻撃を成功させることが出来ず、一方的に打撃をもらい続ける結果となった。
テイクダウンまでの粘りや押し込みなどに勢いがなく、テイクダウンを取りきれなくなっていた時点でこの戦いはテイシェイラにとって厳しいものになっていた。
ただテイシェイラは43歳という年齢で血塗れになりながら多くのクリーンヒットをもらい続けても尚前に出て戦い続けた。
その姿は彼を師と仰ぐ門下生たちに大きな意味をもたらしたことだろう。
ショーグンにテイシェイラ。
偉大なファイターがオクタゴンを去るが、その勇姿はこれから活躍していくファイターたちを鼓舞する一つのレガシーとなってUFCの舞台を彩っていくのだろう。