実力の証明を続けるチャールズ・ジョンソン
デンバーで行われたUFCファイトナイトで行われたフライ級の一戦。
●ジョシュア・ヴァンVS.○チャールズ・ジョンソン
※ジョンソンの3R TKO勝利
ジョンソンは3連敗の崖っぷちの状態で当時無敗だったアザト・マクスムを当てられ、見切りをつけるような厳しいマッチメイクをされていたが、多彩な試合作りでマクスムを出し抜くとそのままポイントをリードして逆転判定勝利を収めた。
無敗のカザフスタンファイターを乗り越えたジョンソンは、次戦でジェイク・ハドリーを判定で下し2連勝を記録することに成功する。
そしてUFC3連勝が掛かった今回の試合でぶつかったのがミャンマーのジョシュア・ヴァンだった。
ヴァンはUFC3連勝中のストライカーで、22歳と年齢も若く非常に勢いのあるファイターである。
マクスムをクリアしたジョンソンはまたしても勢いある若手の壁となり、試されるようなカードを組まれることになった為、改めて厳しい局面を乗り越え実力を証明する必要性に迫られることになった。
優れた武器
フライ級の中では大柄なジョンソン(175cm)に比べ、フライ級相応の体格を持つヴァン(165cm)とではサイズに大きな違いがあった。
そのため、リーチで優れるジョンソンはヴァンの強打から距離を取って対応できる利点があったが、圧力の強いヴァンはジョンソンとの距離をグングンと縮めていった。
しかし、ヒット&アウェイとサークリングによる翻弄で上手く動いたジョンソンが1R目は優位に試合を進めていくことに成功する。
2Rは一転して攻撃のリズムを掴んだヴァンがジョンソンに厳しい攻めを仕掛けていく。
ここで改めて感じられたのが、軽量級ではパワーが差をつける大きな要素となって活きてくるということだった。(トータルのスキルに大きな差がある場合はその限りではない)
全体的に軽く、パワーの出力も低めな軽量級の中で、一発で試合をひっくり返せるパワーがあれば多少の技術の差は埋められてしまうところがある。
その平均が上がれば上がるほどパワーが持つアドバンテージは基本的に薄まっていくのではないかと思われるので(その分のデメリットも肥大するため)、相対的に軽量級が一番パワーの恩恵を受ける階級になっているのではないかと思う。
そうなると、つまりフライ級の中ではパワーがある方は被弾によるリスクを抑えながらゴリ押しの戦法で優位を取る、といった状況を作りやすくなると考えられるので、やはりパワーは差を作るためのアドバンテージとして大きな機能を発揮していることが窺える。
そこに加えてテイクダウンスキルを徹底的に鍛えれば、一発があるというパワーのアドバンテージはさらに大きくなるだろう。
2R目のヴァンは正にそのパワーを最大の武器としてジョンソンに突き立てていくような戦い方を見せていた。
そして距離や経験・引き出しの多さで勝っているジョンソンに対して、強打の一本槍で追い詰めるヴァンは、明確なダメージを与えてジョンソンを危うくさせる展開を作ることに成功する。
勝負所と経験値
2R目でジョンソンはヴァンの猛攻を受け、明確に追い詰められるシーンが目立ち、実際にダメージも負っていた。
しかし、その中でも要所でヴァンの意識に残るような反撃を仕掛けたジョンソンは、主導権を完全にあけ渡すような流れにはしなかった。
そこにジョンソンの老獪さが窺える。
中でも懐へ侵入しようと距離をつめるヴァンに対して放ったスピニングエルボーは、ヴァンの攻撃のリズムを乱す効果的な打撃の選択になっていたように見えた。
恐らくここでジョンソンはヴァンに傾いていた流れが滞留したことを感じ取ったのではないかと思う。
そして3R目。仮に1R目をジョンソン、2R目をヴァンが取っていたとすると、当然3R目は互いに勝負を決める重要なラウンドとなってくる。
そうなった時に重要なのは、勝負を決める展開を如何に自分に有利な形でメイク出来るかというところになってくるだろう。
そこでジョンソンは、劣勢だった2R目のイメージを逆手に取りながら、優位に立っていると感じているであろうヴァンの些細な緩みにつけ込んだ。
つまりジョンソンはラウンドが開始した直後を勝負所として、ここまで全く展開して来なかった打ち合い上等の攻めに出ることを選択したことで、先手を取ることに成功したのだ。
そこでやや後手に回ったヴァンはパワーで誤魔化されていた未熟な部分が露呈してしまい、打撃を外され始めているのに修正することが出来ず、殴り合いに応じてしまった。
その結果、ヴァンは見えない角度から打撃をもらい、ぐらついてしまうことになる。
この時点でヴァンの優位がジョンソンの作戦によって砕かれたことは明らかであり、スペックで劣る部分を巧さで上回ったジョンソンが遂にヴァンを後退させることに成功した。
そして下がるヴァンを追い詰めるジョンソンは、全ラウンドを通してほとんど見せていなかったアッパーを放ちガードの隙間に差し込むと、それをヴァンの頭部にクリーンヒットさせ、ダウンを奪った。
最後は追撃を加えようとするジョンソンにレフェリーが割って入いる形で激戦に幕が引かれることになった。
逆境を超えた者の粘り強さと自信
多くの強豪と戦い、敗戦も経験してきたチャールズ・ジョンソンは、崖っぷちの状況下でマクスムをクリアするというタフな経験を積んだことで、劣勢になっても勝ちのイメージが揺るがないような自信を得たのかもしれない。
どれだけ劣勢になっても勝機を見失わずに工夫とアイディアで難局を打開する今のジョンソンは、簡単にはいかない曲者感を漂わせている。
今回のヴァンとの戦いも、試合の流れから言えば逆転勝利といえる内容になっていた上に、フィニッシュで決着させているので、かなりの高評価を得たのではないかと思う。
これで3連勝と復調を見せるジョンソンは次戦でどんなマッチメイクをされるのか。
下から立場を脅かしてくる若者を退け、上位と争える実力を示した今の流れを考えると、ランカーマッチもあり得るかもしれない。
興味深い勢いを見せるチャールズ・ジョンソンのこれからの活躍に注目が向けられる。