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デメトリアス・ジョンソンが築いた偉大なキャリア

9月7日に開催されたONE168の中で発表されたデメトリアス・ジョンソンの引退。


ONE Championship


彼はその日をONE世界フライ級チャンピオンという王座を保持しながら迎え、ONE史上初の殿堂入りを果たすことにもなった。

そうして長いキャリアの締め括りを素晴らしい形で飾り、多くのファンに祝福されながらその舞台を後にしたジョンソン。

そんな伝説的なMMAファイターは、その晴れ舞台に辿り着くまでにも多くことを成し遂げ、輝かしく偉大なキャリアを築いてきた。

世界最高峰の場所


©︎Zuffa LLC

“Mighty Mouse”として親しまれ、世界最高のフライ級ファイターであることを知らしめたのがかつて活躍を見せたUFC時代となる。

そこでDJは並いる強豪を退け王座を獲得すると、「11回」という史上最多の防衛回数を記録することに成功し、大きな記録を打ち立てた。

他にもUFCのフライ級史上最多勝利となる「13勝」UFC歴代3位となる史上最長連勝記録「13」に加え、UFCフライ級史上最多フィニッシュ勝利記録「7」など数多くの記録が打ち立てられており、DJが如何に抜きん出た存在であったのかを証明するデータとなっている。

その過程でDJはヘンリー・セフードや堀口恭司といった強力なトップファイターからも勝利を挙げており、まさに階級の王として君臨していた。

この時点で一人のMMAファイターとしては十分過ぎるほどの結果を残していると言えるだろう。

そんなDJだが、最多防衛という大きな記録を達成した後に行われたタイトルマッチでセフードと再戦を行い、そこで惜しくも敗れ王座を失うと、UFCとONE Championshipとの間で行われたトレードによってUFCからONEへと移籍することになり、主戦場をアジアへと移すことになった。

結果的にこれがデメトリアス・ジョンソン第2章の幕開けへと繋がっていく。

ONE Championshipに参戦


©︎ONE Championship

DJはONE移籍後、「ONEフライ級ワールドグランプリ」でデビューすると、1回戦目で若松佑弥をギロチンチョークで仕留めることに成功し白星を飾る。

ONEという環境の異なる新たな舞台でも、その実力を印象付ける勝ち方でしっかりと試合を決め、対応能力の高さを多くの観客たちに披露した。

そして和田竜光・ダニー・キンガッドといった、トーナメントを勝ち上がってきた他のファイターたちも順番に下し、ONEフライ級WGPを制覇することに成功すると、DJは早くもONEで一つ目となるベルトを手にすること成功した。

UFCとONEの両団体を通して多くの勝利と結果を手にして来たDJは、正に完璧なキャリアの築き方をしていたと言えるだろう。

この時点で目標として残されていたのは、ONEフライ級の王者であるアドリアーノ・モラエスからベルトを奪取することだけとなっていた。

ここをクリアしたらDJはONEのフライ級も手にすることになり、ONEでも全てを手中に収めることになっていたと言える。

しかし、そんなONE世界フライ級王座をかけたモラエスとのタイトルマッチはDJにとっても世界にとっても衝撃的な結果を生み出すことになる。


「デメトリアス・ジョンソン、キャリア初のKO負け。」

©︎ONE Championship

これはMMA界に大きな衝撃をもたらすのと同時に、王者モラエスの膝によってDJの輝かしいキャリアが打ち砕かれた瞬間でもあった。

王座の獲得に失敗したDJはかつてない程に大きな壁にぶち当たることになる。

キャリア晩成で初のKO負けを喫し王座の獲得にも失敗、これだけ厳しい結果を突き付けられてしまうと立て直すことは難しいのではないかと思われた。

また、似たような流れに身を置いた多くのベテランファイターが復帰戦でガクッと調子を落とし連敗するケースも多々あったため、DJの今後が不安視される流れとなる。

ミックスルールによって生まれたビッグマッチ


©︎ONE Championship

DJもそんな末路を辿ってしまうのかと思われていたところで組まれたのが、ONEの破壊神であるロッタン・ジットムアンノンとのミックスルールによるワンマッチだった。

1・3Rがムエタイ2・4RがMMAとなるミックスルールはDJが最初のラウンドを持ち堪えることが出来るかどうかに大きな注目が向けられていた。

果たして復帰戦であのロッタンの猛攻を凌ぐことが出来るのかと。

このカードは「KO負けで連敗」、というキャリアの終わりがちらつくような結果で決着してしまう可能性も十分にあり得た。

しかしDJはそんなロッタンにムエタイで応戦する姿を見せ、1Rを見事に生き残ってみせる。

そして反撃の2R目でDJはロッタンを捕獲することに成功すると、そのままリアネイキッドチョークを極めて一本勝ちを収めてみせた。

ここで見せた「底力」「必要な選択肢を勝ち取る芯の強さ」にDJがレジェンドたる所以を垣間見ることが出来たように感じる。

こうして復帰戦をクリアしたDJは一つの壁を乗り越えることに成功し、その先に待つ本当の戦いへと挑んでいくことになる。

王者アドリアーノ・モラエスとのリベンジマッチ


©︎ONE Championship

サイズで大きく勝り、トータルで戦うことが出来る上に、KOのイメージを植え付け勝利するという成功体験を得ていたモラエスは、DJよりも広い範囲で有利に立っていると考えられる要素を多く抱えているように見えた。

そんな状況下で果たしてDJはリベンジを果たすことができるのか。

この試合はDJにとって、かなり難しい内容になることが予想されていた。

実際ハイレベルな展開が繰り広げられる中で、序盤はややモラエスが優勢となる流れで進められ、テイクダウンの攻防などではサイズの違いが影響していると感じられる場面もあった。

しかし、機動力とスタミナで勝るDJは失速することなくハイペースのままオフェンスを展開し、徐々にモラエスを削っていくと打撃に対する反応速度が少し低下し始めていった。

それがあの芸術的なKOシーンを生み出すことになる。


ONE Championship


両者一歩も引かず拮抗した戦いを繰り広げ、ポイントではモラエス優勢が予想される中で突入した第4R、その終盤に勝負は動いた。

DJがモラエスのパンチを交わして右ストレートを繰り出すと、それがモラエスの頭部にクリーンヒットして大きくグラつかせることに成功する。

深いダメージを受けたモラエスはふらつきながらそのまま後退していく。

それを冷静に追いかけたDJはモラエスがケージに詰まったところを狙って飛び膝を見事頭部にヒットさせた。

これが決定打となり、膝が直撃したモラエスはゆっくりとマットに倒れ、KOを確信したDJは倒れゆくモラエスを他所に勝利の雄叫びを上げながらマットを駆けていった。

こうしてリベンジマッチは“挑戦者”デメトリアス・ジョンソンのKO勝利で幕を下ろした。

KO負けと膝によるフィニッシュを同時にお返ししたDJは、ONEフライ級の王座を獲得し全てを取り戻すことに成功する。

グラップリングを武器に試合を組み立てることが得意なDJだが、今回の戦いのようにそれを活かすことの出来ない相性の相手にもしっかりと勝利する姿を見せており、この勝利でMMAにおける総合力の高さというものがずば抜けていることを合わせて証明する形となった。

因縁に決着を付ける最終決戦。


©︎ONE Championship

そんなDJとモラエスの戦いは決着を迎える3度目の勝負へと移っていく。

お互いに1勝1敗1KOという状態で迎えたタイトルマッチは、高度なMMAを展開するハイレベルな戦いとなり、拮抗した展開が続いた。

その中で違いを作り出したのは“王者”デメトリアス・ジョンソンの方だった。

長い射程を持つモラエスの打撃に正面から対抗しても武が悪いDJは、近い距離からの打撃でモラエスにダメージを与え、肘やクリンチからの膝でモラエスにダメージを蓄積させていくことに成功する。

また、DJは前回の試合で下になる場面が何度かあったが、3回目の勝負ではモラエスのテイクダウンを狙った動きにも対応し、テイクダウンを許さなかった。

そうして徐々にリード広げたDJは終盤、スタミナの部分でも優位に立ち、モラエスの逆転の芽を摘みながらオフェンシブな動きを続け、トータルの内容でモラエスを上回る試合運びを見せていった。

そして初めて判定へともつれた両者の戦いは3-0で王者デメトリアス・ジョンソンが勝利する結果となり、初防衛に成功すると共にアドリアーノ・モラエスとの勝負に決着を付ける形となった。


ONE Championship


フィジカル面で大きく勝る難敵を相手に見事勝利を収めたDJは、やっと本当の意味でONEのフライ級王者の座を手に入れることになり、移籍後から目指していたゴールに辿り着くことになる。

そして結果的にこのモラエスとの決着戦がDJのMMA最後の戦いとなった。

MMAから次のステージへ


Mighty


これまで述べて来たように数々の結果を残し、輝かしいキャリアを築き上げてきた世界最高のフライ級ファイター「デメトリアス・ジョンソン」は、ONE168の舞台でMMAを引退し、次のステージへと進むことを発表した。

MMAの旅を終えたDJは舞台を柔術の世界へと移し、そこで新たな戦いを繰り広げていくことになるようだ。

現時点でDJはマスター2茶帯フェザー級で、ワールドマスターとパンアメリカンに出場しており、そのどちらでも優勝を果たし金メダルを獲得している。

パンアメリカンでは無差別級にもエントリーしており、そこでも銀メダルを獲得するという活躍ぶりを見せていた。

その結果、黒帯へと昇格。

直近では黒帯に昇格して初めての大会に臨んでおり(ワールドマスター)、マスター2黒帯フェザー級のクラスでも勝ちを重ねがら上へと駒を進めたが、日本の柳沢友也に敗れ準決勝進出とはならなかった。


Mighty


柔術黒帯という最難関となるクラスでもDJは上り詰めていくことが出来るのか、黒帯クラスでは特に競技に費やした時間の差というものが大きくなってくると思うので、優勝への道のりはかなり厳しいものになることが予想される。

これまで長らくMMAを主戦場としてきたDJが本格的に戦いの場を柔術へと移していくことになったが、これまで柔術を主戦場として来た猛者たちを相手にしながら一体どこまでの位置に到達することが出来るのか。

MMAは引退したけれど、これからもまだまだアスリートとしてのデメトリアス・ジョンソンの活躍は続いていくことになる。

なので今後は“ファイター”ではなく“柔術家”としての活躍に期待と注目が向けられることになるだろう。

そして最後に、これまで世界最高のフライ級ファイターとして数々の戦いを潜り抜けて来ながら、素晴らしい勝利とその勇姿を何度も見せ続けてきてくれたデメトリアス・ジョンソンに「お疲れ様」「ありがとう」を心から伝えたい。


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