カクちゃんのホラ吹き日記 遺産
「男は別名ファイルで保存、女は上書き保存」という男女の恋愛の違いを表す言葉があるが、
カクちゃんにおいては、
恋愛関係なく、すべてのことがカクちゃんにとって都合よく上書き保存される。
例えば、
カクちゃんの発言が後に間違っていることが分かると、「自分が言ったこと」から「誰かが言ったこと」に変換され、そのまま記憶に保存される。
反対に、「誰かが言ったこと」が良い結果を生むと、「自分が言ったこと」としてカクちゃんの脳内にしっかりと刻まれる。
初めは「カクちゃんが嘘をついている」のだと思っていたが、何を悪びれることもなく、一途に自分を信じているので、これは無意識で行われる「カクちゃんの習性」なのだと気づいた。
そんなカクちゃんの習性が、ただでさえ広がっていた夫婦の溝をさらに広げてしまう出来事を起こした。
私の祖父母(カクちゃんの両親)が亡くなり、その遺産をどうするかという話になった。
カクちゃんは「1年同居もしたし、長男である自分がすべての遺産をもらう権利がある」と主張した。
しかし母は「このご時世、そんなことはできない。他の姉弟と分けるべき」と助言した。
もちろん、カクちゃんが母の助言を受け入れることもなく、数日後に姉弟と遺産の話し合いが始まった。
祖父との同居前、「カクが同居してくれるのなら遺産は要らない」と言っていた姉もやっぱり遺産がほしいと言い、弟もカクちゃんが遺産を独り占めすることを許さなかった。
話はカクちゃんの不利な方向へと進み、
何よりも体裁を気にするカクちゃんは自分の主張が通らないことを悟ると、
「俺もそう言ってたんやけどな…?」と言った。
この言葉に含まれる意味、あなたは分かるだろうか?
そう、
「俺もそう言ってたんやけど、嫁が遺産を全部もらえって言ったんや。」という意味である。
この一件以来、母はカクちゃんの姉弟から、「そういう女」として見られ、
母のカクちゃんに対する、信頼の心は地に落ちた。
カクちゃんのこの上書き保存はあらゆる場面で発揮されるため、
うちの近所で母は「鬼嫁」と呼ばれている。
しかし、みんなは知らない。
普段は「大人しいご主人」として通っているカクちゃんが「鬼嫁」を生み出してしまう本物のモンスターだということに。