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ナポレオンの副官とは

こんにちは、架空書店「鹿書房」店主、伍月鹿です

おいしいカーディナルをいただいてほろ酔い状態です
普段、慣れた街を歩いているときでもどこか緊張しているところがわたしはありますが、酔っ払いだと周りが気にならず、イヤホンなしで歩いていてもモヤモヤしない不思議
判断力は鈍るので、お弁当が高くてやめたのに、おにぎりに豚汁つけて似たような値段にするというヘマはします

さて、先日、ようやく探していたものを見つけました

Project Gutenbergという著作権切れの書籍をデジタル化しているサイトさまで、ナポレオンの副官のひとり、アン・ジャン・マリー・ルネ・サヴァリことロヴィゴ公爵の回想録を発見しました
以前から1巻だけ、飛んで4巻、みたいに目にする機会はあったのですが、おそらく全文が見つかって興奮してます

この回想録、様々なナポレオン研究の先人様が「信用ならない」という評価をくだしているという代物です(笑)
そもそもナポレオン伝説自体もナポレオン本人が色付けして、どれが本当の真実なのかはかなりあやふやになっているものではありますからね。一番有名な回想録ブームの火付け役になったラス・カーズの『セント=ヘレナ覚書』すら、その真相は怪しいものであるようなのが、ナポレオン研究の面白いところ
真偽はともかく、実際にナポレオンの忠犬とまで呼ばれた副官の生きた声、生きた言葉に触れられるものとして楽しんでみようと思います

わたしの推しであるラップとサヴァリは、共にドゼーの副官を務め、マレンゴで上司を失った直後にナポレオンの副官に任命されるというシンデレラストーリーの持ち主です
歳は3つ違いですが、誕生日が1日違い
副官になってから任される仕事はかなり異なったようですが、二人の名前は現在、フランスのエトワール凱旋門にも並んで刻まれています

2人とも回想録を出していることから、人柄や経歴などはかなり詳しく残っている方ですね

ところで「ナポレオンの副官」って何??? というのはわたしがずっと調べているテーマです
本当私自身が知識不足で結局うわべしかわかっていない状態。時期によってメンバーも変わるし、所属も変わるし、ナポレオンとの距離も変わっていた様子なので、一言に表せる立場ではないのは確実なのでしょう
(当直の副官と護衛が同時に存在している記述もあるし、なんなら当直の副官って何??)

しかも、ドゼーの戦死はナポレオンにとって痛手だったとはいえ、なぜ彼の副官を自分の元へ呼び寄せたのか。二人の存在を知ったときに、まず興味がわいたのがそのポイントでした

結論から申し上げますと、多分、真意はもうナポレオンにしかわかりません

それぞれの回想録を読み比べていると違いも面白いので、少しご紹介したいと思います
(訳は翻訳ソフトに頼り切りです。誤訳、解釈違いご容赦ください)

まずはラップ将軍

On the death of the brave Desaix, who was killed at Marengo, at the moment when he had decided the victory, the First Consul deigned to appoint me to a post about his own person. The favour which he would have conferred on the conqueror of Upper Egypt was extended to me. From that time I was in some manner permanently established, and my connexions became more extended.

Memoirs of General Count Rapp, First aide-de-camp to Napoleon

「第一執政(ナポレオン)は私を直属のポジションに任命した。上エジプトの征服者に与えられるはずの恩恵が、私にも与えられたのである。」

ラップの記述は以上です
そもそもラップ将軍の回想録にはドゼーの名前が殆ど登場せず、ドゼーの目に留まって昇進し、そのおかげでナポレオンの目にも留まったようなことを書いてます。しかも上記引用は1章冒頭
完璧な導入。ナポレオンの副官が書いた回想録としてこれ以上ない簡潔さ
しかし、それだけ??? 感がすごい


続いてサヴァリ将軍
彼は自分が軍隊に入り、ドゼーと出会い、共にエジプトで戦った記録などを鮮明に残しています
ナポレオンがエジプトから去り、ドゼーも呼び寄せられ、紆余曲折を経てナポレオンに呼ばれてイタリアへ向かった彼らは、マレンゴの地に到着します
そこでドゼーの伝言を届けるべくナポレオンの元へ向かったサヴァリは、自分の部隊が目の前の敵と戦闘になった音を離れたところで聞くことになりました

ナポレオンと共に行動をすることになった彼は、1巻18章でこう記述しております

Ce fut au milieu de cette satisfaction générale que je fus rejoint par les équipages du général que j'avais perdu. Ils étaient arrivés sous la conduite de mon camarade Rapp, qu'une maladie assez grave avait retenu loin de nous. Nous étions l'un et l'autre occupés de l'amertume de nos regrets, et nous nous inquiétions de notre avenir, lorsque le premier consul nous fit dire qu'il nous prenait pour ses aides-de-camp. Je passai de l'anxiété à une sorte de délire: j'étais si heureux, si troublé, que je ne pus trouver d'expression pour épancher la reconnaissance que j'éprouvais.

Mémoires du duc de Rovigo, pour servir à l'histoire de l'empereur Napoléon, Tome 1

「私たち二人(ラップとサヴァリ)は、後悔の念にかられ、将来を案じていたが、第一執政が私たちを副官として迎えることを告げた。私は不安から一種の錯乱状態に陥った。うれしくて、困って、感謝の気持ちを表現する言葉が見つからなかった。」

ここにきてそれだけ??? 感がすごい
ドゼーとは親友になったと繰り返し書いていたし、自分はこういうところが優れていたから昇進できた、などの記述が前の章にはあるのに
肝心なところで「任命された、嬉しい」とか書いていない

つまり、二人ともなんで急にそんなポストにつけたのかわからないってことなんだと思います(^O^)

ただ、ラップが残したように、ドゼーに与えられるはずだった褒賞を代わりに与えられたのはその通りだと思いますし、
後にナポレオンはドゼーの親族にも愛情をそそぎ、自分の副官にもしてます(とはいえ大尉以上に昇進したものはいなかったようです)

また、サヴァリが記述しているように、サヴァリはドゼーの状況をナポレオンに知らせ、遺体を見つけてきちんと埋葬したいと申し出ました
そして残されたドゼーの部隊を代わりにまとめて帰還したのはラップ
ドゼーの部隊で目立った働きをしていた二人に目を留めて、自分の元へ引き取ったのは納得の展開です

それにしても、なかなかのシンデレラストーリーで面白いですよねえ……

身分階級が低い者は絶対に昇進できなかった軍と、上司の裁量でどんな可能性もあった軍、どっちが公平だったのかは一概に言えませんが(逆のパターンもありますからね)
こういった現代人でも面白がれるポイントが散らばっているのがナポレオン研究の楽しいところです

副官って何??? が解決されるとは思いませんが、全7巻、頑張って目を通してみようと思います。楽しみだなあ

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伍月鹿
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