
絶滅危惧種⁉ 桔梗、危うし!
母の好きだった花
朝のラジオ番組に『羽田美智子のいってらっしゃい』という5分ほどの短い番組がある。ちょっとした情報を紹介するコーナーだ。今週のテーマは秋の花。秋の七草やコスモスなどが紹介されていた。そこで取り上げられていたのが、桔梗である。
桔梗は、母が好きだった花だ。筆者が初めて見たのは、高原へ旅行に行った時だろうか。母が「桔梗だわ。お母さんの大好きな花よ」といって、斜面に咲いていた桔梗を指さした時だ。
紫の、小さくてぷっくりとしたつぼみが、折り紙で作った風船のようにも見る。そのつぼみの隣では、まるでその風船がパカッとわれたかのような、星型の花を咲かせていた。
やや日陰の、青々とした草が生い茂る中に咲く青紫がかった紫の小さな花は美しく、いかにも気品高そうで、とても印象に残っている。そして、私も大好きな花の一つになった。
漢方に使われる桔梗
桔梗は中国や日本、朝鮮など東アジアに自生する一属一種という珍しい多年草なのだそう。
中国では古代から根を薬草として用いていたそうで、日本でも『出雲国風土記』(733年)で初めて桔梗の名前が出てくるという。「『延喜式(エンギシキ)』(927年)にも生薬として、山城や下総、その他の地域から、桔梗が献上されたという記録があ」るとされている。
効用としては、「膿の混じた喀痰や化膿性の腫れものを治す。また、咽喉の痛みも治す」とされている。咳や痰が出るのを鎮める役割を果たすということらしい。桔梗湯(キキョウトウ)や排膿散(ハイノウサン)といった漢方薬になるのだそう。
漢方より観賞の日本
桔梗と言われて思い浮かべるのは何だろう。漢方薬として使われていることを初めて知った筆者としては、思わず日本では花より団子ならぬ、薬より花ではないの?と思ったほど花としての認識が高い気がするがどうだろう。おそらく花を思い浮かべる人がほとんどで、あっても家紋などの意匠であって、真っ先に生薬を思い浮かべる人はほぼいないのではなかろうか。
植物学者の中尾佐助氏は著書『花と木の文化史』の中で、「万葉集でうたわれた植物は頻度10位までは、ことごとく実用性よりも花や姿の美学的評価ゆえに選ばれたもの」とし「奈良朝の頃の日本の上流社会には、植物を美学的に評価する文化が成立したいたことは疑いない」ときっぱり述べている。
さらにフランス文学者で美術評論家の栗田勇(イサム)氏も著書『花のある暮らし』の中で「中国から薬草として輸入され、そこから日本では、むしろ観賞花として」愛されていくような気がすると書いている。
園芸種としての桔梗
先日は近くのお花屋さんの店先で、桔梗の鉢植えが売られているのを見かけた。母に教えられて初めてみた野生の桔梗とは違い、淡い藤色の花をつけていた。
園芸種としてさかんに改良されたのは、庶民が園芸を楽しみ始めた江戸時代。桔梗も観賞用として白やピンクといった色が作り出され、八重咲の品種なども作られるなど、人気の花になったのだという。
とはいえ、個人的にはやはり桔梗といえば、あの幼少の頃に見た、野に咲く濃い青紫色の桔梗の花だ。小さくて清楚だけれども、どこか強さを感じるような、ひっそりと咲いているけれども、凛とした美しさを感じるような、あの桔梗が私の中の桔梗の花である。
野生種は絶滅の危機
そんな桔梗も、自然の中で見かけないと思っていたら、絶滅危惧種に指定されていた。以前は「さまざまな地域で見ることができましたが、昨今、生息地が急激に減少しており、野生種が激減している」のだという。そして2017年には「『絶滅の危険が増大している種』として『絶滅危惧種Ⅱ類(VU)』に指定」されたというのだから、穏やかではない。
その原因として、自生地の開発や野焼きや草刈りで草原を維持しなくなったことなどが挙げられていた。将来は秋の七草が五草に減ってしまう(もう一つはフジバカマ)とも。
一人の力では開発を止めることはできないが(神宮外苑の伐採にも憤りを感じているが)、昔から花を愛でてきた日本人の一人として、やはり園芸種ではなく野に咲く、気品あふれる桔梗をいつまでも見たいとつくづく思う。
<参考文献・URL>
『花と木の文化史』中尾佐助著 岩波新書
『花のある暮らし』栗田勇著 岩波新書
☆公益社団法人東京生薬協会
☆LOVE GREEN
☆植物と共に生きる
☆EVER GREEN
Plantia