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幻想的な絵の中に込められた思い


ジャン=ミッシェル・フォロンの大回顧展開催

 先日、東京ステーションギャラリーで開催中の「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展(2024.7.23~9.23)に行って来た。
 こちらは前回の展示会に行った際に、次回展示会のチラシとして3種類の違う絵柄が置かれていた。いずれもパステル調でふんわりとした絵柄に惹かれて絶対に観に行きたいと思っていたものだ。
 フォロンは「20世紀後半のベルギーを代表するアーティストのひとり」だそうで、日本での大回顧展は30年ぶりになるという。

3種類のチラシのうちの2種

チケットも秀逸

 いきなり余談で恐縮だが、東京ステーションギャラリーでは、電子チケットを購入していても、入り口のところで紙の入場券を渡してくれる。こちらのチケット、実はいただくのがとても楽しみなのである。
 というのも、チケットのデザインが企画展に合わせた絵柄というだけではなく、何種類か用意されているのだ。前回初めてそのことを知り、「何種類かあるのですか」と思わず聞いてしまったところ、用意された絵柄をその場で見せていただき「お好きなものを選んでいただいてもいいですよ」との嬉しい声をかけていただいた。
 チケットの絵柄を何種類も用意するのは費用もかかること。前回の展示会のみの、特別な企画なのかと思っていたら、なんと今回も何種類か用意されていた。前のご夫婦もそれぞれ違う絵柄のチケットを受け取っていたし、私もまた違う絵柄のチケットだった。入り口からして、ワクワクしてしまう。

単純な線と淡い色のもとに現実を見る

 空想の旅へようこそ。どこまでも自由に飛んでいきたい―そんなフォロンの思いが込められたかのような宙を舞う動画が迎えてくれる。中に入っていくと、最初はドローイングが、そして次第に色彩が入っていく。
 高いビルに囲まれた中で、絵を描いている人を何人かが覗いている。よく見ると、のぞき込んでいるのは空の絵。高層ビル群で見えなくなった空を、絵を通してみる人々。
 おそらくフォロンが活躍の場にしていた当時のニューヨークを描いたのかもしれないが、街が特定できないようなビルの姿に自然と「アメリカに追いつけ追い越せ」と謡い、高層ビルがバンバン建っていく東京を思い出して、ひとり苦笑してしまう。

柔らかい絵と色彩の中に環境問題や人権問題を込める

 フォロンのどこに惹かれたかと聞かれれば、やはり柔らかな絵と色彩と答えるだろう。「空想旅行案内人」とあるように、恐らくは心がほわっと温まるような、穏やかで優し気な絵が並んでいるのだろうと思っていた。
 だが、章を追うごとにメッセージ性がどんどん高まっていく。絵のタッチは変わらないのに、描かれていることは鋭い。
 ほわんとしたタッチで描かれた山にあるのは、短く切られた丸い電柱ーのように見えてしまったのだが、よくよく見るとそれは伐採され丸裸にされた山の姿。あるいは海面から美しい虹が出ているその下には、たくさんの魚がーと思いきや、魚雷の数々。
 美しい自然の中で行われる人間の残酷さ。あるいは一見平和そうに見える世界も、水面下の見えないところでは戦へと進む不気味な動きがあると言っているように感じる。

しれっと生きていませんか

 専門家が見たら違うのかもしれない。あるいはフォロン自身が伝えたかったことは、もっと違う、もっと深いことを伝えたかったのかもしれない。だが、私にはそのように感じて、絵の前にじっと立ち止まらずにいはいられなかった。
 平和そうに見えて、恐ろしい世界。平和と戦争、美しい自然と破壊。見えなくなった空を、絵を通してしか見られなくなった人々。さも良い事をしているかのような顔をして、しれっと破壊していく人々の営み。それは差別についても同じこと。どれも無視できない。なのに無視している。見えない、聞こえないフリをしている。
 フォロンが生きた時代だけではない。今も変わらないそういう世界で、貴方はしれっと生きていませんか。そう、問われたような気がする。帰りに買った絵ハガキを部屋に並べてみた。きちんと心に留めておくために。

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