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障害者の方が教えてくれた大切な事 本当に好きな人とはずーっと一緒の感覚になる
私たち夫婦は今年の記念日で結婚して20年になった。
20年…普通に考えたら人が成人する年月。そう考えたら長いけど、体感としては短かった気もする。
子どもを産んで育てて色んな所に引っ越して、色んな人に出会って…。色んな人と別れて…。
結婚してからあったことを思い出していると、色々あって「う~ん、やっぱり20年か」とも思った。
そしてふと、思い出した。
ちょうど結婚した年に、新しい住まいで観たドキュメンタリー番組の事を。
その番組は脳科学者の方が特殊な脳の持ち主、例えば、自閉症の方や、サヴァン症候群の方、そういう人に取材しに行き、脳の仕組みを探るというような番組だった。
どんな症状を持った人だったかしっかり覚えていないが、確かその障害者の方は目が見えなくて、ピアノが上手かった。
一度聞いた音楽を即座にコピーしてピアノで弾くことが出来た。
彼は実の両親に育ててもらえず、ある男性に育ててもらった。
その人は音楽の先生だったので彼の特殊な能力にいち早く気づいて、幼いころからピアノをさわらせた。
すると彼の音楽に対する能力が開花することになる。
それからずっと、その男性は里親になって彼を育てているらしい。
障害者である彼は取材を受けていた当時もう大人になっていた。
おそらく30歳くらいだった。
脳科学の先生は、彼の能力に驚き、色々彼を観察していた。
そして、こんな雑談をしていた。
「君はピアノすき?」
脳科学の先生が尋ねると、
「うん、好きだよ。」
彼は笑顔で言った。
「そっか。じゃ、○○先生(育ててくれた人)のことは?」
「好きだよ。」
「じゃあ、ピアノを始めて何年になる?」
脳科学の先生が聞くと、彼は答えた。
「う~ん、5、6年かなぁ。」
実際はもっと長いはずだ。
彼はもう大人になってるから20年以上だったかもしれない。
けど、脳科学の先生はそのことは触れずに尋ねた。
「へ~、そうなんだね。じゃあ○○先生とはどれくらい一緒にいるの?」
「100年!」
「え!100年?ピアノは5、6年しかやってないのに、○○先生とは100年も一緒にいるの?」
「うん!」
「あははは、そっかぁ!」
そのやり取りを見て私は何だかジンとした。
彼はきっと時間という概念を私たちのようにとらえていない。
彼にとって育ての親である○○先生といること、ピアノを弾くことはどちらも彼の日常のはずなのに、彼が感じている時間には違いが出た。
彼の脳の中で何が起こっているんだろう?
どうして違いが出るんだろう?
100年ってどうして思ったのかな?
そのとき、私が考えて出した結論は
彼は○○先生のことが大好きで、大好きで、ピアノとは比べものにならないくらいに好きで…。
だから長い間ずーっと一緒にいたんだと思っている。
これからもずーっと一緒にいたいと思ってるから自分が長いと思える数字「100」と言ったのかな。
私にはそう思えた。
少し特別な脳を持った人の言動は、その純粋さゆえに時に大切な事を教えてくれる。動物や、理屈を知らない子供たちも然り。
物事の仕組みが分かるとそれに従って答えようとしてしまうが、気持ちや願いで答えていい時もあるはず。
その方が相手も嬉しかったりするかもしれない。
とりあえず、主人に聞いてみた。
「ねえ、私と一緒にいて何年になる?」
「え~っと、付き合ってる頃からすると25年くらいじゃない?」
主人はそう答えた。
物理的な答え。ま、そりゃそうか…。
「私は100年だと思う。」
と言うと
「へ?なんで?」
「そう思いたいから。」
主人はフフッと笑って、
「じゃ、そう言うことで。だとしたら、めざせ400年だな。長生きしないとな~。」
そう言って笑った。