見出し画像

昔のあの日は買えやしない

「昔のあの日は買えやしない」

このセリフは藤子・F・不二雄先生の「エスパー魔美」「名画(?)と鬼ババ」という作品に出てくるセリフだ。

私は漫画が好きで今もたまに読むけれど、若いころは色んな雑誌を買ってよく読んだ。特に、小学校低学年の時は学校から帰ると藤子先生の作品を毎日読んでいた。「ドラえもん」「パーマン」「お化けのQ太郎」…

「エスパー魔美」はその中の1つだ。

この作品は主人公である中学生の女の子、魔美ちゃんが超能力を使えるようになって困っている人を助けるという物語。
魔美ちゃんはいきなりエスパーだったわけではなくて、ある日その能力に目覚め、だんだんと使えるようになっていく。その過程が面白くて夢中になって読んだ。

この間実家の部屋の片づけをしていると、「エスパー魔美」のコミックスが出てきたので懐かしいと思いちょっと読んでみた。

「名画(?)と鬼ババ」は、魔美ちゃんのお父さんで画家である佐倉十郎の絵に買い手が二人ついてしまってどちらに売るかで話が進んでいく。

絵をどうしても欲しいと言ったおじさんとおばさん、どちらも絶対に譲らない。

結局強引におばさんが絵を持ち帰ってしまったことを知った魔美ちゃんが夜絵を取返しにおばさんの家に向かった。
そこで魔美ちゃんは絵の前で泣きながら眠ってるおばさんを見つけた。

魔美ちゃんが超能力で彼女の夢をのぞいた。
絵とそっくりな景色の中に小さな女の子と男の子がいる。幸せそうに話をしている。魔美ちゃんにはその小さな女の子が幼いころのおばさんだと分かった。

それから目を覚まし魔美ちゃんに気付いたおばさんは色々話してくれた。

昔は貧しかったけど、とても幸せだった。だけどその後不幸が束になってのしかかってきた。地獄のような日々を経験しながら血のにじむような思いでためたお金は今じゃ何億円にもなる。

おばさんは言う「ほしい物は何だって手に入れられる」

「でも…昔のあの日は買えやしない」

改めてこの話を読んだとき何だか胸がジンとした。そしてそのことに驚いた。子供の頃だと絶対に持たない感情だったからだ。

小学生の頃私は「ふ~ん…。大人の人はこういう事言うよね。」ぐらいしか感想はなかった。
おそらくそのころは幼すぎて「昔のあの日」なんてなかったからだ。

おそらく作中のおばさんよりも私はまだ若いかもしれないが、それでも小学生の時よりもおばさんの言っている事の意味が分かった。

有り難い事に今も十分幸せなので、おばさんほど戻りたい「昔のあの日」は私にはないけれど、それでも思い出の日はある。
それだけ振り返る過去が増えた、生きることが出来たという事だ。
とても幸せな事なんだなぁと思う。

昔読んだ作品を読むこと、観ること。
それはまたあの時とは違った気持ち、驚きに出会えるかもしれない。

また、20年後くらいに「エスパー魔美」を読んでみよう。
その時私は何を感じるんだろうか。

そしてその日まで無事に過ごせることを切に願う。


いいなと思ったら応援しよう!