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ビジネス法務・2024年12月号 「法務人材の『評価』」について思うこと

2024年12月号のビジネス法務が発刊されました。
今回は、実例・アイデアを大公開 法務人材の「評価」という特集が組まれていました。

法務人材の評価は難しい

法務での目標設定は難しいという声を聞くが、たしかにそのとおりである。まず、定量化できる項目で目標を立てづらく、評価が主観的になりやすい。また、結果の可視化が難しく、成果が見えにくいという性格がある。

ビジネス法務・2024年12月号・15頁

この特集で繰り返し語られたことでもあり、法務部に属する誰もが感じていることだと思いますが、法務部における人事評価はとても難しいです。

その理由として、法務部の仕事はそもそも定量評価が困難な業務が多くを占めるため、客観的で公平な評価を行うことが困難だからです。
例えば、法務における典型的な業務である契約書のレビューをとってみても、評価期間に何件の契約書をレビューしたかで評価を決めるのはナンセンスです。
どのような契約書をレビューしたのか、そして、レビューの「質」が重要であり、件数は本質的な要素ではないからです。M&Aに関する契約書を十分な時間をかけてリスクを排除したレビューはたとえ一件であったとしても価値があるといえます。
また、法務担当者がプロアクティブに事業に関わり、想定されるリスクを未然に防ぐ仕事ができたならば、それは大いに評価されるべきですが、このような仕事を定量的に評価することはできません。

法務人材の評価に最適解はない

法務の仕事は定量評価になじまないという性質が、人事評価は定量評価を基準に行うべき、という人事評価の基礎と相反することは明らかです。

私は、法務人材の評価においては、無理に定量評価を目指さなくてよいのではないかと感じています。
今まで法務部の管理職として人事評価を経験してきた身としては、評価者の主観を含めた定性評価を許容して、そのために、きちんと期初に目標を定めて、その達成度に基づき総合的に評価する方法しかないと思うからです。

例えば、私が行っているメンバーレベルの評価で言うと、対象の評価期間において「業務委託契約書に関する理解を深めること」を主な目標と設定し、そのためのマイルストーンとして、業務委託契約書に関する書籍を読んでサマリを作る、チェックリストを作成して業務委託契約書のレビューを標準化する、実際に契約書のひな形を整備する、といった項目で達成度を測る、といった方法をとっています。これに、日常業務における業務内容、スピード、コミュニケーションといった項目を加えて、総合的な観点で人事評価を行っています。
この方法だと、評価対象者のレベルによって評価項目がわかれるため評価の客観性や公平性にはなじみませんが、そもそも法務部における人事評価に正解はありません。
所属する会社のカルチャーや人事制度、そして、法務部自体の規模に基づき最適解を出していくほかなく、組織に合った自分なりの正解を求める、でよいのではないでしょうか。
本特集の座談会・末尾の【図表】評価項目のアイデアシート(38頁~39頁)は法務部の人事評価を組み立てるためのヒントとして活用できます。

法務人材として評価されるために

会社から法務人材として評価されるためには、契約書を何件レビューしたかや、法律相談に何件対応したかといった定量的な指標よりも、M&Aや株主総会をリードするプロジェクトマネジメント力、関係部署との良好な関係を作るなコミュニケーション力や企業法務に関する幅広い法律知識、クイックなレスポンス、経営に関するリスクを先んじて把握しカバーしていくプロアクティブな働き方といった定性的な要素が大きいことは明らかです。
この傾向は、メンバーから課長、部長、そしてCLOといった役職が上位になればなるほど、定量的な要素よりも、定性的な要素が重視されていきます。

会社経営では数値化や定量評価が重視されがちですが、私自身は、こと法務おいては過度の定量化は本質ではなく、どのような仕事をすれば組織に貢献できるのか、そして、組織に貢献している法務部員をどのように評価すべきか、といった点に着目して人事評価に取り組むのが重要だと考えています。

ビジネス法務・2024年12月号 まとめ

2024年12月号のビジネス法務では、今回取り上げた人事評価に関する特集以外にも、「非公開化取引」というレアな論点に関する特集(「特集2 非公開化取引における実務上の留意点」)、個人情報保護法(「個人情報保護法3年ごと見直し 中間整理にみる実務への影響」、「プライバシーテックの法的論点」)や労働法(「労務コンプライアンス最前線 第5回 未払い残業代問題」)といった基本的な法律に関する記事まで、企業法務に関する幅広いトピックがカバーされています。

日々の仕事をこなしながら法律知識をブラッシュアップする時間を取ることは難しいですが、忙しい法務パーソンこそ、毎月のビジネス法務で最新の法律論点をアップデート習慣化することをお勧めします。


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