法律書のサブスクサービス・トライアルの比較
法務の仕事を進めるうえで欠かせない法律書。
今回、3つの法律書サブスクサービスをトライアルしたので、その感想を記事にしたいと思います。
今回試した3つのサービス
LEGALSCAPE
「LEGALSCAPE」は、法律業務の支援に特化したサービス開発を行っている東大発ベンチャーである株式会社Legalscapeが提供する法律書のサブスクサービスです。
「LEGALSCAPE」の特徴は、ChatGPTに基づくAIリサーチ「Watson & Holmes」という機能があること、商事法務を取り扱っていること、2400冊という法律書に加え、法令からパブコメまで幅広いソースにアクセスできることです。
料金は1アカウント:1万3200円(税込み)で今回トライアルした他社サービスよりも若干高めとなっています。
BUSINESS LAWYERS LIBRARY
「BUSINESS LAWYERS LIBRARY」は、株式会社弁護士ドットコムの提供する企業法務向けの法律書のサブスクサービス。
その特徴は、企業法務に特化した書籍だけでなく、コーポレート(総務労務等)全般をカバーした書籍ラインナップである点、スタンダードプランでは動画セミナーが受講し放題である点、AIアシスタント機能が最近実装された点が特徴です。
料金はサブスクサービスだけのライトプランが1アカウント:6930円(税込み)、動画セミナーの受講プランとなれば1アカウント:3万3000円(税込み)となります。
LEGAL LIBRARY
「LEGAL LIBRARY」は株式会社Legal Technologyが提供するサービスで、洗練された画面レイアウトや使い勝手の良い検索エンジンが特徴です。
法律書だけでなく、パブコメや法令も収録されており、書籍内の書式やひな形をWordでダウンロードできる機能を備えています。
料金は1アカウント:5720円(税込み)で今回試した3つの中で最も安価なサービスとなります。
実際に使ってみての比較
UI/UXは?
私がトライアルで利用してみて、3社のサービスのうち最もUIが優れていると感じたのはLEGAL LIBRARYです。
キーワード検索から関連する書籍がわかりやすく表示され、そのまま読みたい書籍の本文中までひとっ飛びでたどり着けるのはとても使い勝手が良かったです。
さらに、書籍を開いてキーワードを入れ込むと、当該キーワードに紐づくスニペットが表示されるのも高評価です。
一方、LEGALSCAPEは書籍内をキーワード検索した際に、当該キーワードのマーカー表示とキーワード数しか表示されないため、一覧性で当該キーワードに紐づく記事・文章があるのかがわからず、クリックして前に進むしかないという点がデメリットでした。
書籍の充実度は?
法律書のサブスクということで、最も重要となる書籍の充実度ですが、書籍数でいうと、本記事執筆時点ではLEGALSCAPEとのことです。
しかし、私の率直な感想としては蔵書の量・質という点では一長一短、という印象で、どれが一番という感想はありませんでした。
例えば、LEGAL LIBRARYとBUSINESS LAWYERS LIBRARYを比較すると、純粋な収録書籍数としてBUSINESS LAWYERS LIBRARYの方が約1.7倍とのことで、情報量の点ではBUSINESS LAWYERS LIBRARYに分があるようです。
しかし、LEGAL LIBRARYは最新の書籍や法令・パブコメまで収録されている印象がある一方、BUSINESS LAWYERS LIBRARYはLEGAL LIBRARYには最新版の書籍の古い版の書籍が見受けられたことや法令・パブコメがない点はデメリットに感じられました。
LEGALSCAPEの優位性は「商事法務」が収録されている点でしょう。逆に言えば、私自身は商事法務をそこまで参照しないため、この点はあまり魅力にはなりませんでした。
AI機能は?
次に、AI機能についてですが、AIリサーチ機能の元祖であるLEGALSCAPEの提供する「Watoson & Holmes」は、そもそもAIリサーチの元情報となる書籍が500冊程度とのことで、実際の収録書籍のすべてがAIリサーチの対象となるわけでない点に注意しなければなりません。
そのため、せっかくLEGALSCAPEに収録されている書籍であるのに、AIリサーチ機能を使っても、当該書籍を用いたアウトプットがないことがままありました。
なお、「Watson & Holmes」では、アウトプットの脚注に情報源となった書籍が表示されるので、元情報に容易にたどれるという点では優れているのですが、これも質問内容によっては出典が出ない場合があったり、チケット制で無制限に利用できない点は利便性を落としていると感じました。
これまでAIリサーチ機能はLEGALSCAPEのみだったのですが、ちょうど最近、BUSINESS LAWYERS LIBRARYでもAIリサーチ機能が実装されました。
私自身も使ってみたところ、例えば「景品表示法の景品規制はBtoBビジネスに適用されるか?」といった問いに対して正確に回答したうえで、関連書籍をピックアップしてくれるので、一定の有用性はあるようです。さらに、質問に関連しそうな該当記事が表示され、直接記事まで飛べるのも利便性が高いと感じました(これは「Watson & Holmes」でも同様です)。
※もっとも、「Watson & Holmes」のように個別の回答に紐づく書籍の出典は出ないので、回答の真偽は自分できちんと確かめる必要があります。
将来性は?
個人的に最も将来性を感じているのはLEGALSCAPEです。
チケットを大量消費することになりますが、ChatGPT4を利用すれば質問内容によっては質の高い回答が返ってきます。
もっとも、前述した通り、LEGALSCAPEに収録されている「全ての蔵書」がAIリサーチの対象とならないため、AIリサーチの対象となっている蔵書に関する質問かどうかが回答の質を左右するようにも感じました。
そのため、今後、LEGALSCAPEが提供するAIリサーチの対象となる蔵書=LEGALSCAPEが権利保有する蔵書と一致すること、ChatGPT4のチケット消費の仕組みが改善されれば、もはや「法律書のサブスク」を超えたサービスが提供されるように感じました。
一方、BUSINESS LAWYERS LIBRARYもβ版としてAIリサーチ機能の提供を開始しました。前述しましたが、一定程度、実務での利用にも応えることができるため、今後のさらなるサービス開発が期待されます。
現時点の個人的な評価
LEGALSCAPEはAIリサーチ機能に力を入れており、非常に将来性を感じます。また、商事法務を読むことのできる唯一のサービスです。
一方、現時点ではLEGALSCAPEが取り扱う全ての書籍がAIリサーチの対象でなかったり、収録の雑誌に目次機能が実装されていなかったりと、他社サービスの約2倍という価格に比してもう少し頑張ってほしい面があります。
なお、LEGALSCAPEの独壇場であったAIリサーチ機能はBUSINESS LAWYERS LIBRARYもβ版として実装を開始しており、蔵書数やUI/UXを加味すれば、BUSINESS LAWYERS LIBRARYが最もバランスが良いように思いました。
個人的にはLEGAL LIBRARYも他社に比べて蔵書「数」は劣るようですが、優れた書籍・企業法務パーソンとして「読みたい本」の最新版を備えているなど、蔵書の「質」という点ではとても高評価でしたし、UI/UXでも最も使いやすかったです。
以上より、純粋にコストパフォーマンスの観点から法律書のサブスクサービスということで選ぶとすればLEGAL LIBRARYかBUSINESS LAWYERS LIBRARYの二択、商事法務が必要だったりAIリサーチ機能の将来性に期待、ということであればLEGALSCAPEに分がある、ということになろうかと思います。
この記事が皆さんの参考になれば幸いです。
※本記事における蔵書数・サービス料金等の情報は、2023年12月時点のものとなり、個人の感想となることをご了承ください。