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連載小説 サエ子 第8章

見知らぬ風景

猫ネコ・ネットワークに、文句はない! 全部受け入れた。凄く協力的だ。なのに何で! 暴れてばかりで、哺乳瓶に吸い付かないんだよ、「お願い!ミルク飲まなきゃダメでしょー」「頼むよ、何でもするから、飲んでくれよぉ」色々体制を変えてみたりしていたら、アッ咥えた、次の瞬間、すごい勢いでグイグイ飲む、最後になってしまった、1匹は、お腹すいたと、騒ぎまくっている。やれやれこいつもかと、そっと哺乳瓶を近付けると、何と1発で食いついた。思わず泣いたよ、嬉し泣きだ。ありがとうチビニャン

子猫達が眠り、やっと入浴と食事を済ませ、次のミルクの準備をする。

名前も決まった。ハチワレ➡️マロ・茶色縞➡️トラ・グレー➡️オハギだ。

それからの俺たちの行動は早かった。先ず会社近く、徒歩圏内に家を借りた。二階建ての古〜い家、2階の一部屋は子供部屋(ネコ部屋)トイレ・寝床を置き、未だ早いとは思ったが、サエ子が「子供の成長は早い!!」と言うので、キャットタワーも設置した。

この子達(子猫達)にとって、両親が必要! と言うサエ子の謎理論で、俺達は結婚した。籍だけ入れて、式はそのうち、ということになった。サエ子は、俺の姓、岡崎サエ子となった。動機も謎理論も、俺はサエ子と結婚できて幸せだ。会社と職場に連絡した時には、花束なんか頂いて、ちょっと恥ずかしかったが、サエ子の職場の人達が、子猫を見に来ては、手土産にチュール等をもらってとても助かる。マロは、大人気で、何人もの女子社員が、メロメロだ。

その年は、サエ子の部の主任が、同僚達と泊まりに来てくれると言うことになり、俺達はサエ子の地元の合同供養に参加することにした。

故郷へ向けて出発の日、サエ子は新幹線にテンションが爆上がり、駅弁買って、お茶も買い、暫くはオカズの取り替えっこで、キャアキャア騒いでいたが、車窓に太平洋が見えてくると、急に静かになった。固めた拳は力が入って、白くなっている。覗き込むと、困りきった目をして「どしよう、武史、怖い」と呟いた。「帰るか?帰ってもいいんだぞ!来年、また来よう」と言ったら、ポロポロと大粒の涙をこぼし、「行ぐ! 絶対行く」と言う、「そうか、それなら行こう! サエ子は泣いたら強い! 人目なんか気にしなくていいぞ、歩けないほど泣いたら、おんぶしてやる!大丈夫だ」と言ったら、鼻をかんで、ケケケっと笑い、そん時はお願い!と言って最後のトンカツを頬張った。

駅から出ると、供養会場行きのバスが何台も止まっていた。皆押し黙り、その時の犠牲者の多さに、改めて胸が痛むのだ。

会場を後にして、2人きりで、白く永遠に続く堤防に立った。サエ子は、はるか沖を指差して、あそこら辺が家だったと言う、削り取られ、抉られ、跡形もなく消えた陸、それがサエ子の故郷だった。堤防に続く新しい街は、全部見知らぬ風景だと言う、俺は自然の力を甘く見ていた。強大だ! サエ子もまた、思っていたよりずっと強く!凄い女性なんだと反省した。

堤防の町で花束を購入し、最先端まで歩いていって、思いっきり遠くの海に向かって投げた。“シャアー!!

駅近くのホテルで一泊し、沢山お土産を買い、マックを買って新幹線に乗ることにした。いつものように父さんと母さんと兄ちゃんの分、四つ食うのかと思ったら、「ナゲットとビックマックとスムージー2つ」だって、

サエ子の時計が動き出したようだ。

つづく

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