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強面/こわもて 第6章

日本へ!

俺の船の名前は、雲龍丸(うんりゅうまる)に決まった。 綾部さんが提案し、俺が了解して決まった。ジロさんは、「もうちょっと推敲したら?」と言うが、「良いものは、良いんだ!」で、決まった。

「そんなことより、俺、ジロさんに聞きたいことがある。明日の午後には日本に向けて航海の準備が始まる。乗組員達も到着する。今日しか聞けない、だから、今日!答えろよな」と言うと、「ワッ、高圧的だなー、それは命令ですかあー」なんて、棒読み風に言うので、「命令なんてするわけないじゃん!お願いです! ジロさんにお願いしたいのぉ!」すると「ホウ、で、何が知りたい?」

では、三つの質問にお答えください!

一つ目です。なんであんなハンドガン用意できたの。シグザウエルだぜ、持っていたの? しかも、扱い方も慣れていたよね、

二つ目、いったい何ヶ国語マスターしているの? 経理事務系が専門で凄い実力者だって事は分かっていたけど、ジロさんは、何になりたかったの?

三つ目でスゥー。結構体育会系っていうか、筋肉隆々だけど、武道でもやっていたの?それとも体質? 以上の三つ! 教えてジロさん!

ジロさんは、先輩に差し入れされた貴重な日本酒をチビチビやりながら、嫌な顔ひとつしないで、答えてくれた。

では一つ目、俺たちの港は一時期、外国から来たヤクザが増えて、奴らは銃で脅して来ることも多かった。網元、君のお爺さんが、苦労されたんだよ、俺は網元の力になりたくて、学生の頃に訓練を受け、試験も受けて、資格を取ったんだ。猟友会にも入っているよ、使用する機会は無かったがね、

さて二つ目、英語は資格持ちだけど、後は必要に応じてちょっとだけ勉強した。何かになりたいと思った事はないね、漁協を背負って行きたいと言う洋太、君の父親の役に立ちたくてさ、そのために頑張った。役に立たなかったけどね、

ラストの三つ目だ。織部神社に養子にして頂いて、神社の奉納太鼓を7歳からやらせてもらった。恩返しのつもりが、面白くなって18歳までずっと大太鼓をやった。そしたらこの体になった。以上で三つ終わりだ。

ジロさんは何でも出来る優秀な人だ。恩返しとか、力になりたいとか、そう言うのじゃなくて、ジロさん本人がやりたいことってあるでしょ、と聞くと、きっぱり 無い! と言い切る。まあ 納得した。

酒が回ったジロさんが、網元直伝の歌を披露してくれたんだ。なんと全部軍歌だった。何曲も何曲もね、やがて大鼾をかきだしたジロさんに、ジロさん 何でも出来るけど、音痴だったんだね、と毛布をかけながら言うと、知ってるよと 寝言 なのかな?

ジロさんは、虹鱒だったんだ。その夜、俺はある決心を固めた。

翌日からたった3日で、乗組員は揃った。全員俺の友達、2年先輩の村上は、大型客船の船長の職を辞めてまで来てしまった。曰く「いつまで待たせんだよ、馬鹿野郎」だってさ、他の連中も似たり寄ったりで、船内は、まるで同窓会の様相を呈した。一等航海士4二等航海士4名機関士3名と人材がそろった。同級生の片桐は東京の証券会社部長職を辞めて飛んで来た。

俺とジロさん、そして集まった乗組員は15名、全員で会議用テーブルを囲む、俺は、どうしても言っておく必要があったのだ。ワイワイとする旧友達を制して、立ち上がった。

「先ず、率直に、皆んな! また会えてうれしいよ! 初めに確認事項なんだが、立派な職業や地位を捨てて駆けつけてくれたのは、ありがたいし又心強い、しかし、知っていると思うが、俺はこの立派な船で商売をやりたいのでは無い! 俺のゴールはそこじゃないんだ。数年は、この船で稼ぐが、資金が溜まり次第、潜水艦を作り、世界中の海の中を調査して回る。そうして良いポイントを見つけたら、さらに深く潜れる深海エレベーターを作る。

今、俺達は地球の表面の僅かな厚みの中でだけ繁栄している。もしも、海の水が無かったら、もしも気圧に耐える方法あったなら、マグマが渦巻く地のそこ、さらにコアまで行けたなら、俺たちは初めて地球全体を制覇できる。一生かけても無理かも知れない、でも、地球内部を調べる事は、きっと宇宙への貴重な足掛かりとなる。俺はそれをやりたい、だから、俺について来ても決して金持ちには成れない、生活も安定しないと思う、

つまり、こんなバカと付き合うより、戻ったほうが絶対良いんだ。引き返すなら今だよ、さあ、どうする?」

村上が「俺は、お前の夢のために俺なりに頑張った、金も貯めたよ、覚悟はできてる」片桐が「右に同じだ」だいたい、そんなバカで無ければ、今、ここに居ない」「うん、俺もバカだよ」「アッ、バカです」 バカが一巡した。「分かった、この事は2度と口にしないよ」と俺は言った。隅で1人泣いてるジロさんを、片桐がヨシヨシしていた。

さて、本来ならば俺は船長なんだが、話し合いで艦長と言う呼び名で決定した。副館長は村上に決定、その他諸々の係も決定した。

船は先ず、手配した横浜のドッグにて、徹底的な検査と修復と少し改修を行うことにした。積荷も積んで、ジェノバの港は良く晴れている。計算通りなら15日後に日本に着くことになる。現地時間午後3時、

俺達の船は 日本に向けて出港した。

つづく


次回は

強面/こわもて 第7章 

別れ! です。


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