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連載小説 サエ子 第4章
理由-2(わけ-2)
あれから、3度ほど寿司を奢りました。1度目は板前さんに握ってもらいましたが、2度目からは回転寿司です。サエ子も俺も大食漢なので、自己保身のためです。破産したくないですからね、毎週の様に会ってお喋りと食事をしていたのに、連絡がつかない週が、・・・おまけに、女子社員に、最近サエ子が引っ越したと聞いた。俺は何も聞いていない、好きな人が出来た!とかかな? あいつ惚れっぽいからな、イヤイヤ 今週末は久しぶりに渓流釣りだぜ!ヤッホイ! と自分に言い聞かせた。
そうして、あの高速道路ピックアップ事件である。腹は立ったが、数日後には、サエ子が無事で良かったと、太ましくなった自分の影にお礼を言った。サエ子の打撲も直りきらないので、会社への行き帰りは車で送っている。
外食はしない、猫が待っているから、その日は、牛丼を食べながら、サエ子は話し始めた「この猫ね、家で飼っていた猫なの、5匹買っていたんだけと、3匹生きていたの、お昼休憩にテレビを見ていたら、犬猫ボランティアハウスの特集で、3匹固まって居たの、サバとマルとミミって言う名前よ、みんな20歳近い老猫で、・・・それでね、犬猫ハウスに電話して、日曜日に引き取ることになってね、大急ぎで不動産屋さん回って、犬猫飼育OKのアパートに決めたの、武史のことはすっかり忘れちゃってた。ごめんね、」猫達は俺をじっと見ている。「家族が見つかったんだもんね、仕方ないよ、良かったね、3匹の猫ちゃんが無事でさ」「うん、でもね、老猫だから、獣医さんが、何があってもおかしく無いって言うの、私ね、この子達に、もう絶対寂しい思いや辛い思いもさせないって決めたよ、長生きして欲しいよぅ」と顔を覆って涙ぐむサエ子に、猫達はピッタリ寄り添っている。「サバって言うのは、柄が焼き鯖に似てるからかな?」「アハハ、そうなの、凄い、よく分かったね、マルは丸っこかったから、ミミは鳴き声がうるさい子だったの」良かったやっと笑った。そして、俺には聞きたいことがあった。
牛丼の殻をレジ袋に入れ、デザートのドーナツを置いて、向かいに座るサエ子に、聞いた「で! あの日、何で高速道路に居た?何で怪我していた? 言いたく無いのかな? でも、心配だから、話してほしい」サエ子は頷いた。
「猫の餌を買いに、街のペットショップへ行った時、目の前の車から山本課長が飛び出して来て、「吉田さん、吉田サエ子サンだよね」「・・・」逃げようとしたけど、山本にガッチリ腕を掴まれてしまい、近くのカフェに連れて行かれた。「お前のせいで、俺は今大変なんだ、生活まで変わったんだぞ」と言うから、私大声で言ったの「1000万返して! 返してよ!! お母さんの保険金返してよ」って言ったの、店員が飛んできて、警察呼びますか、なんて言うからお店を出たんだけど、山本が支払いをしている隙に逃げたの、思いっきり走ったのに、追いつかれて車に乗せられ、飛び降りてやろうと暴れたら、高速道路に入られてしまった。そして静かになった私に、「お母さんの保険金て言ったよなあ、ってことは、他の家族の保険金もあるんだろ、いくらあるんだ?」って言うの、もう、死んでもいいや!って思ってドアに手をかけたら、周りの車が減速して止まりそうになったの、まだ動いていたけど、今だ!! って思って、飛び降りたの、転がりながら前方を見たら、車の流れが早くなって、山本の車はすぐ見えなくなった。戻ってくると思ったから、武史に電話したの、
俺は思わず怒鳴った「山本! 許せねえ!」「私だって、そうだよ、少なくとも、再起不能ぐらいにはしてやるんだから」俺達は、怒りに任せてデザートのドーナツを、ガシガシ食った。さっきまで寝ていた猫達も、急にエサの残りをガシガシ食い出した。
俺達2人と、3匹の猫達は、戦闘体制に入った。
つづく