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ショート 鬼退治

5人の少年が入院していた。家出した彼等は、所在不明になり、親達は3日間も探し回った。挙句、鉄橋の下で見つかった。手術は済んで。脳波も順調だ。問題無い筈なのに、1ヶ月近く、1人も目覚めない、原因は全く分からなかった。

眠り続ける子供達の親は、いつ目覚めるか分からないから目を離す事が出来ない、自然と土日は父親、それ以外の日は母親と役割が分担された。話しかけ、体を拭き、向きを変えたりし続けていた。

ある土曜日、父親達5人は病院の喫茶室に集まっていた。吉田真斗の父親が、「あのぅ、変なメールが来て、悪戯かと思うけど」すると、山本弘の父親も「俺のところも来た。酷い悪戯さ」と言うと、新井清・井上剛・富田祐一の父親達も、無言でスマホを差し出した。全く同じ文面が送られて来ていて驚いた。

文面は、以下の通りだ

〇〇君(其々の子供の名前)は必ず助かります。

(数行の行動指示)、到着したら合図を出すので、子供の名前を呼んでくれ、最後に、このことは、決して口外せず、夢夢疑う事の無き様に、そうすれば、必ず御子息は助かります。

さらに驚いたのは、差出人のIDも受信日時も空白であった事だ・・・どうやって送信したんだ?

結局、メールに従う事にした。何でも出来ることはやってやる!

翌朝、午前3時7分、箕島(みのしま)駅、忍び込んだホームは暗い、・・・その列車は、来た。

午前3時14分 乗車、男達5人は椅子に座った。静かに走行する中、はるか後方から別列車の走行音が聞こえて来た。緊張が走る。トンネルに入った。同時に後方から、別の列車が突っ込んできた。と言うよりは、侵入して来た。同時期に二つの車両が同じ線路上に存在していた。5人の目には、着席している車両の内側に、別の車両の側面があり同じように走行している。二重に重なった列車がある。そして、その側面には黒黒と鬼の筆文字がある。5人は、そうか、これに乗り込めって言うことか、だが、手を伸ばしても抵抗が無く、半透明のその列車に乗り込む事が出来なくて、焦った。

トンネルを出た先に、また別のトンネルが見えて来た。

トンネルに挟まれた線路上で、二重の列車は同時に停車した。でも、駅らしきホームは見当たらない、やがて静かにドアが両方とも空いた、真斗の父親がドアの上部に手をかけ、そこを掴んで、グリンと内側と思しき車両の方に飛び乗り、オッケーサインを送る。全員同様の方法で乗り込んだ。ドアは静かに閉まり、列車は走り出した。乗り換えに成功したのは、現視出来る、古びた座席からも明らかだった。次のトンネルに入ると、再び列車は停車した。しかし、外側の列車は走り続け、トンネルに消えて行った。トンネル内には、列車と5人が残された。ドアが開いた。弘の父親が暗闇を指さし、「アッ、あれ」と言った。見ると、うまい棒が1つ落ちている。ドアの下は真っ暗、地面か奈落か分からない、でも、うまい棒は坊主の物に間違いない! ええい!ままよ! 清の父親を先頭に、全員が飛び降りた 5人は暗い地面に降り立った。ひとまず駆け寄り、うまい棒を拾う、あれ中身が無い、誰ともなく、そうか、坊主食ったんだな、そう言い合って泣き笑いをする。

前方に仄明るい世界が見えて来た。

何と! 息子達が、大岩を背に何かを叫んでいる。息子達に対峙しているのは、ボンヤリ人型に光る者だ。

清が叫んでいる「諦めろ!早くあっちへ行け、悪い鬼め!」人型が「良い子だからどいてくれ」と言うと、剛が「ダメだ!ユカリちゃんの婆ちゃんが言ってた」祐一も「賽の河原の悪い鬼はここを通さない」人型は「ユカリちゃんを虐めてないし、もう先へ行ったよ」

子供達の方へ行きたいが、どうしても光のスペースに入れないのだ。その時人型がこちらを向き、息子さんの名前を大きな声で呼んでください、何度も呼んでください。

真斗 弘 清 剛 祐一 父親達は息子の名前を呼び続けた。子供達に声が届いた。アレッ パパだ!と声がし、キョロキョロして、とうさん、パパ、とうちゃん・・・一つまた一つ白く輝く球が浮かび、五つの白球は上空に消えた。既に子供達の姿はそこに無く、人型に淡く光る者は、御子息は間も無く目を覚ましますよ、と言った。オズオズと、あの 貴方は鬼なのですか? と聞く父がいた。すると彼は、はい鬼です、しかし賽の河原というのは、危ない事をしがちな、子供達への方便であります。

魂って有るんですね、この問いに鬼は答えた。さあどうかな、ただ一生が終わっても、人の道は終わらないってことかな、本能だけでは、種の保存ができないから魂が必要なのかな、

地表からたった千メートル下で、体を保てない、天へ向かっても同じ事で、更に、他の生き物より生殖機能の劣る人類が、手に入れた種の保存方法ではないかな、・・・さあ、お送りしますよ

一瞬で5人の父親は、病院の前の植え込みに移動していた。

院内が騒がしい! 入り口に向かって走り出すと同時に、5人のスマホが鳴り出した。入り口でウロウロとしながら電話をかけ続ける妻のもとへ、妻達は其々の夫に飛びつき、口々に「あなたぁ、今、あの子が目を覚ましたの!」ドドドドドーと院内に吸い込まれて行った。

ふり始めた雨が、植え込みのコスモスを揺らし、うまい棒の空袋を濡らしている。

おしまい

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