連載小説 サエ子 第6章
ネコだって戦う!
サエ子は泣いた、幼児のようにヤダーイヤダーと悲鳴を上げ、俺に捕まってしゃくりあげた、そのまま暫く背中をトントンしていた。やっと泣き止んでくれた頃には、外はもう真っ暗だった。マルのGPSを外し、サエ子に熱いお茶を飲ませ、急いで買い物に出た。大きな菓子箱をザラザラと開けて綺麗なタオルを弾きそこに、マルを入れ、買って来た花で一杯にした。サバちゃんのカメラを外し、俺のパソコンにセットした。熱い牛乳で、クッキーを頬張るサエ子と一緒に画面に集中した。
老猫なのに3匹は、一つ先の駅まで出かけていた。迷うこと無く進んでいた足が、あるマンションの入り口でピタリと止まった。暫くすると男が出て来た。
「アッ 山本だ。」2人同時に声が出た。サバがシャーと威嚇し、ギャーと声をあげた、すると ミミとマルが猛ダッシュで飛びついた。狙っているのは顔、目だ! 山本は持っていた長いパイプを振り回している。 ゴッ ミミが叩き落とされた、すぐ体制を立て直し、肌が露出している足の甲に噛み付いた。山本が屈んでミミを掴もうとすると、マルが電柱を駆け上がり、彼の頭部に飛びついた。背中を掴まれ引き剥がされる時、左頬に深く爪を立てた。鮮血が飛び、マルは地面に叩きつけられ、ミミはエントランスの柱に蹴り飛ばされた。直後、サバのカメラが急激に前に進み、上方へ動いた。大ジャンプしたのだろう、目の前に迫る鉄パイプ、ゴッと言う音と、ギャッと言うサバの悲鳴が聞こえた。すぐに振り下ろされる2発目、それが、ガランと地面に落ちた。サバの目の前には、老猫達の倍近い巨大なハチワレが立って、山本に対峙していた。いつの間にか辺りには、多くの猫達が集まり、山本を見上げている。俺達2人の脳裏には「義によって、助太刀いたす」の一説が同時に浮かんだ。山本は、尻餅をつき、猫達にジリジリと間合いを詰められて、慌ててエントランスの奥へ消えていった。すると、さっと猫達は消え、サバとミミと動かないマル、ヒーローのハチワレが残った。サバを先頭にミミが、最後にマルを咥えたハチワレが帰路に着いたようだ。ハチワレはマルを連れて来てくれたんだ。
見回すと、もうハチワレは帰ってしまったのか、姿を消していた。
「大変だったね、サバちゃん」サエ子が寝ているサバを覗きにいった。ドンッと俺の背中に抱きついて来て「武史、サバもミミも死んじゃってる。武史、タケシ〜ィ」サエ子はまた泣いた。震災後のショックで、泣くことも出来なかったんだって、悲しいのか、辛いのか、悔しいのか、分けわかんなくて、その分今いっぱい泣くから、理解しろだって、・・・そんなのとっくに分かっていたさ、俺が泣かないのは、そのサエ子の状況を十分わかっているからだよ
3匹の首輪を形見として貰い、お菓子の箱に3匹一緒に入れた。隙間にお花とチュールを詰め込んだ。ネットで調べたペット供養可能なお寺が、日曜日でも良いようなので、申し込んだ。葬儀の時刻は明日の午後だ。今夜はクッキーとビールでお通夜だ。
帰りに、山本のマンションを見てこようと決めた。場合によっては・・・
つづく