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異形者達の備忘録-14

青いミニカー ダイハツ・ミゼット

 

私はユリ、中学生です。蕎麦屋で、バイト中です。お店は忙しくて、今日も帰れたのは、夜の10時過ぎだ。賄いの特性天丼を自転車の前カゴに放り込み、降り出した雨の中、立ち漕ぎで部屋に帰った。ゆっくりと美味しくいただいて、カルピスを飲んで。さて、ノートパソコンを開く、関東から千葉県と移り、赤い印が立ち上がる、

光の中、花と緑が綺麗に配置された霊園の一角、葬式だろうか、喪服の集団がいる。その集団から1人離れて、7歳ぐらいの男の子が、飽きてしまったのだろう、1人で小石を蹴っている。「ねえ、これ見て」という声に振り向くと、幼稚園児が小さな両手で、綺麗なライトブルーのミニカーを見せて来た。少年は目を見開いて「エーッ!ダイハツのミゼットじゃん!かっこいいなあー」園児は「明日も来るなら、これ、あげるよ!」と言った。少年は情けない顔で「今日帰らなくちゃいけないんだ」と言った。園児は少し考えて「分かった、じゃあ、これ、今やるよ、」ミニカーを受け取った少年は「ほんとにー!ありがとう!」と喜んだ。その時「和夫1人で何やってるの?」と母親達が近づいて来た。「これー、この子にもらったんだ」 「あれぇ、あの子どこ行ったんだろう?」父親が、少年から奪い取り、「ええい!気味が悪い!」と、それを墓の方へ投げた。地面に落ちてコロコロと転がったそれは、大勢の参列者の目の前で、ググーッと、地面から70センチほど持ち上がって、ピタッと静止した。泣きながらミニカーを拾って佇む園児の姿は、誰1人見えなかったのです。参列者の集団は散り散りに逃げ去り、泣いている幼児が1人で残されていた。

幼稚園から帰ると、良二はそっと兄の机に近付きます。白い布の上に、大事そうに置かれている、ミニカーをじっと見る。去年のクリスマスにお兄ちゃんがサンタさんから貰った物だ。俺はサンタさんに、ダッコチャンを頼んだんだ。凄く人気者で、もう売ってなくてさ、だからサンタさんに頼んだんだ。黒いやつで、目だって動くんだ。ウインクするよ、いつも腕につけてどこだって連れて行けるんだ。でも、兄ちゃんの宝物はもっと良い、ミゼットという名の、青の三輪トラックだ。鉄製で、持つと重いんだ。手を伸ばすが届かない、兄ちゃんの椅子に足をかけた、その時、襖が開いて、兄ちゃんが帰って来ちゃった。「アーッ!コラァ、触っちゃダメって言っただろ」と言って、布で包んでポケットに入れてしまった。玄関で長靴を履く兄ちゃんに、「兄ちゃん、どっか行くの?」と聞いたら「ザリガニ取りだよ、いっぱい取って来てやるからな」「俺も行くよぅ」「ダメだ!危ないんだから、付いてくるなよ」出かけて行く兄ちゃんに、そうっと付いて行こうと考え、素足でゴムサンダルを履いた。兄ちゃんにバレないように、通りの向こうへ行ってから後を追った。歩き始めて、しまったと思った。俺のサンダルはピコピコサンダルと言う物で、音に気がついた兄ちゃんがクルッと振り向く、物陰に隠れようと早足すると、盛大にピコピコピコと鳴ってしまい、焦ってドブに片足はまってしまった。必死に足を引き上げた時、もう兄ちゃんの姿は無かった。行っちゃったんだ。おうちに帰ろうとしたら、どこか切っちゃったらしく血が出ている。家には誰もいないので、隣のおばちゃんの家に行った。足を拭いてもらって絆創膏を貼ってもらった。ピコピコサンダルも洗ってくれたので、1人でお家にいたんだ。

夕方、ご飯だよーって呼ばれたから、返事しようとしたら、なんか声が出なくて、パパが「どうしたんだ?つま先歩きして」と俺を抱き上げた時、「おい、何だこれ!凄く熱いぞ!」って叫んだ。俺は足の怪我からバイ菌が入って、破傷風という病気にかかってしまった。病院で寝かされて、ゾクゾクしたり、キヤキヤしたり、もう皆んなとお別れなんだと、俺にも分かっていた。音もダメ!刺激もダメ!で静かーに寝ていた時、薄目を開けたら、兄ちゃんが、そーっと、青いミゼットを渡して来た。看護婦が小声で「アッ!ダメ」と言ったが、俺は嬉しくて、ミゼットを受け取った。アッ冷たい!痛いっと思った瞬間に、大きく痙攣して、苦しいのは終わってしまった。

兄ちゃんは、お婆ちゃんと2人でお墓にきた。お墓の横に穴を掘って、青いミゼットを埋めて行った。遠くへ行って、婆ちゃんと暮らすんだって、「ごめんね、これ、お前にやるから」って、もらえないよ、兄ちゃんは悪くないから、もらえないってばぁ、泣き続けるから、もらっとけよ! 思わず声が出ちゃった。エッいいの? なんて言うから、兄ちゃんの言うこと聞けよ、もらっとけ!って言ったら。ちょっとニコってして、消えて行った。墓の横に半分埋もれた青いミニカーが見えていたけど、それも、フッと消えた。

おしまい


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